序章 夢を軋ますモノ
World Cradle 〜世界という揺り篭で〜
彼女はいつも孤独だった。物心ついたその瞬間からずっと・・・・・・。
彼女は夢を見続けた。
その夢の中では多くの命が生まれ、消えていった。
彼女は多くの幸せと悲しみを見た。
彼女は悲しみを嫌い、幸せだけがある世界を想った。そうすると、夢は変わった。美しい光に包まれ、最初の夢は消えた。幸福だけの世界は、できなかった。生命が存在する限り、始まりの終わりの運命からは抜け出せなかった。
次に、彼女は絶望して機械だけの世界を望んだ。再び夢は光になって変わる。淋しい世界だった。それは彼女の心を、さらに孤独にした。彼女は夢の中で、誰からも見られなかった。気が付いて欲しかった、自分の存在に。
彼女は、自分が見られる世界を望んだ。世界は変わり、長い時を経て彼女は初めて、その存在を、自分が作り出した他に認識された。彼女は楽しかった。いろいろと話をした。暖かかった。幸せな夢だった。そして、夢は覚める。もうひとつの意思が動き出した。すべてが彼女の手によって消えてゆく。彼女はまた新しい夢を望んだ。何度も何度も・・・・。彼女の望んだ永遠は訪れなかった。
絶望した彼女は初めて、無を望んだ。彼女は思った、孤独よりも別れの方がつらいと。しかし、もうひとつの意志が今度は夢を創造した。止めることはできなかった。その意志は絶対だった。
その時から彼女は終焉を望み続けた。
序章
夢を軋ますモノ
ある者が言った。
「この遺跡に埋もれていた技術遺産は、人類の未来に多大な恩恵をもたらすことを私は確信している。この超技術の基本となるシステムを人類の希望の種子となることを願ってシードと名づけようと思う」
高エネルギー結晶体、通称コアを核としてその影響範囲、ジェネシスフィールドを形成し、その限定空間内でシード内のマテリアルと呼ばれる六十に及ぶ特殊分子をコアのプログラム通り再構成し特殊金属、特殊高分子を形成、配置し起動形態であるファールスを作り出す失われた古代技術――シード。
シードとの出会いによって人類の未来は希望に満ち溢れたものになるはずだった。しかし、この一年後世界は突如、異常繁殖した植物に飲み込まれる。後に言うプラント・バーストである。プラント・バーストから十二年、全人口の六割以上を失い、交通網だけでなく情報網も寸断された人類は、いまだ天災の傷が癒えることもなく、止まった時を過ごすことを余儀なくされていた。
ひとりは長身の二十四、五の男、もうひとりは幼さが残る十と少しの少女であった。男は少女の手を引いて走っていた。靴音以外には少女の荒い息しか通路には聞こえない。
『ヤクサ、久遠を、久遠を頼・・・・・・』
突然音を立てたスピーカーは数秒間の雑音の後、何も音を立てなくなった。少女の顔から血の気が引き、真っ青になる。次の瞬間、彼女は男に抱きかかえられた。
「久遠、目を閉じていて下さい」
少女の聞いたことのない強い口調だった。少女は目を閉じた。そうすることで現実から逃げようとしたのかもしれない。そうしていればなにも見なくてすんだ。そうなにも・・・・・・。
何分たっただろうか、いや、何秒かもしれない。光をまぶたの裏で感じた。少女は目を開けた、そして
「・・いや・・・、いや、いやぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・」
彼女が見たものは自分の居場所が消えてゆく瞬間だった。
次回更新は8月1日を予定しています。