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新人VTuberの成り上がり 〜元大手敏腕マネージャーが、底辺の原石美少女たちを独り占めして世界一にプロデュースする〜  作者: 遙 カナタ


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第50話:休日ーその➁

 結局、みあの熱烈なプレゼンに押し切られる形で、テーブルの上には彩り豊かなスイーツとドリンクが並べられた。

 みあが頼んだのは目当ての『贅沢あまおうのスペシャルいちごタルト』とハーブティー。飛鳥は美しい層を描いた『抹茶とほうじ茶のヴェリーヌ』とストレートティー。そして蓮の目の前には、本人の意思とは裏腹に、みあが「半分こしよう!」と強行注文した『クラシックショコラ〜濃厚ピスタチオアイス添え〜』と深煎りのブラックコーヒーが鎮座していた。


「うわぁぁ……! 近くで見ると、もっと綺麗……! 写真撮ってもいいかな!?」


 みあはスマートフォンを取り出すと、ケーキの角度を何度も調整しながら、実に幸せそうな表情で画面をタップする。配信用のサムネイルを作るときのような真剣さとは違う、ただ「可愛い思い出を残したい」という素直なワクワク感が溢れ出ていた。


「ふふ、どうぞ。私も記録しておきましょうか。……見た目の色彩バランス、そして生クリームの立て加減……視覚的な完成度だけでも非常に高い数値を弾き出していますね」


 飛鳥が眼鏡の位置を指先で直し、手元で小さくスマートフォンを構える。


「お前ら、食べる前に鑑賞会すんのかよ……。冷めたり溶けたりすんぞ」


 蓮はあきれたように言いながらも、目の前のアイス添えショコラケーキを恐る恐る見つめていた。黒いパーカーの袖口から覗く指先で、小さなデザートフォークをぎこちなく握りしめている。


「じゃあ……いただきますっ!」


 みあが手を合わせ、いちごタルトをフォークで一口分すくい、口へと運んだ。

 その瞬間、みあの目がまん丸になり、頬がキュッと緩む。


「……んん〜〜〜〜っ!! おいしいぃぃっ!!」


 両頬を両手で包み込みながら、みあはトロけそうな笑みを破裂させた。


「タルト生地がサクサクで、甘酸っぱいいちごとカスタードが口の中でジュワッと広がるの! ねぇ飛鳥ちゃん、蓮ちゃん、本当に美味しいよ!!」


「そこまで言われたら、期待が高まりますね。……では、私も」


 飛鳥がヴェリーヌの層を崩さないよう、静かにスプーンを差し込む。ほうじ茶のジュレと抹茶ムース、そして上のクリームを一緒にすくって一口。


「…………っ」


 静寂。

 飛鳥の動きが、ピタリと止まった。


「飛鳥ちゃん……? どう、かな……?」


 みあが不安そうに覗き込むと、飛鳥はそっと眼鏡を外し、目元を指先で小さく押さえた。そして深く息を吐くと、どこか夢見るような、普段の彼女からは想像もつかないほど柔らかく、甘い吐息を漏らした。


「……素晴らしいです。甘さが非常に控えめで、ほうじ茶の香ばしさと抹茶の程よい苦味が絶妙なハーモニーを奏でています。……正直、計算以上のおいしさです……」


「あ! 飛鳥ちゃん、顔がすごくゆるんでる! 可愛い〜っ!」


「なっ……! ゆ、緩んでなどいません! 客観的な評価を述べたまでです!」


 赤くなった顔を隠すように大急ぎで眼鏡をかけ直す飛鳥。そのギャップに、みあは「くすくす」と楽しそうに声をあげた。


「ほら、蓮ちゃんも食べてみて! ショコラケーキもすごく濃厚そうだよ!」


 みあに促され、蓮は「チッ……しょうがねぇな」と立ち回りながら、ケーキの端をフォークで削り取った。添えられた緑色のピスタチオアイスを少しだけ乗せ、投げやりに口へ放り込む。


「……あ」


 蓮の眉間寄っていたシワが、フッと消えた。


「……どう? 蓮ちゃん……?」


「…………悪くねぇ。甘ったるくねぇし、コーヒーには合うんじゃねぇか」


 耳の先端をうっすら赤くしながら、すかさず二口目を運ぶ蓮を見て、みあは「やったー!」と嬉しそうに両手を叩いた。

 美味しいスイーツとあたたかい飲み物が、三人の緊張や日常の疲労をじんわりと解きほぐしていく。

 店内を流れるジャズの調べに耳を傾けながら、飛鳥が静かに紅茶のカップをソーサーへ置いた。


「……ねえ、二人とも」


「ん? なあに、ルナちゃん?」


 飛鳥は窓の外、木漏れ日の中を行き交う人々を眺めながら、どこか愛おしそうに言葉を紡ぎ始めた。


「……私、最初から決めていたんです。Vスタに来たのも、天月ルナとして表舞台に立ったのも……すべては、音無すず——みあちゃんと『一緒に歌うため』だったって」


 まっすぐな飛鳥の言葉に、みあも蓮も静かに耳を傾ける。


「圧倒的な気高さを纏う『女王』として、このバーチャル界の頂点に立つ。そして何より、誰よりも惹きつけられたみあちゃんの歌声の隣で、対等な存在として歌を重ねる……それが私の最初からの目的であり、譲れない誇りでした」


 飛鳥は自分の手元をそっと見つめ、静かに眼鏡の位置を直した。


「ですが……いつの間にか私は、Vスタ全体のバランスやプロデュース、データ分析という『裏方』の役割に比重を置きすぎていたのかもしれません。女王として歌うために入ってきたはずなのに、周囲を支えることに気を取られて、自分の本質を見失いそうになっていた……」


 飛鳥の瞳が、みあを見つめる。


「だからこそ……先日の配信の後、みあちゃんがまっすぐに私と向き合ってくれた時、目が覚めたんです。私は裏方で満足するつもりなんてサラサラない。約束通り、みあちゃんの隣で『女王』として、そして『相棒』として並び立つんだと……改めて胸に刻みました」


「飛鳥ちゃん……!」


 みあの瞳がパッと輝く。飛鳥が抱いていた秘めたる誇りと情熱、そして自分へのまっすぐな想いを受け止め、みあはテーブル越しに飛鳥の手を強く握りしめた。


「うん……! 最初からそうだったもんね! 天月ルナの圧倒的な存在感と歌声が私の隣にいてくれるからこそ、私はもっと遠くまで飛び立てるんだよ! 二人で最高の『女王と歌姫のユニット』になって、世界中を驚かせようね!」


「ええ……! 私たちの歌で、バーチャル界のすべてをひれ伏させて見せましょう」


 二人が凛とした笑みを交わし合う。

 その横で、ずっと黙ってコーヒーを飲んでいた蓮が、フッと鼻を鳴らした。


「……へっ。言ってくれるじゃねぇか、女王様」


 蓮はキャップのつばをぐっと下げ、ニッと八重歯を覗かせて笑った。


「お前らが『女王と歌姫』としてVスタのてっぺんで歌うってんなら、アタシも世界大会で『格ゲー界の狂犬』として頂点獲ってくるしかねぇな。……お前らの歌に泥塗らねぇように、アタシも格ゲーで全員叩きのめしてやるよ」


「……ふふ。蓮ちゃん、期待しています。あなたの暴れっぷりも、私たちのステージに相応しい前座……いえ、最高の刺激になりますから」


「誰が前座だ!!」


 噛み付く蓮に、優雅に微笑む飛鳥、そして「あはは!」と弾けるように笑うみあ。

 カフェの甘い香りに包まれながら、三人の絆とそれぞれの覚悟は、より深く、より揺るぎないものへと結び直されていった。


「さーて! 甘いものでお腹もいっぱいになったし、心もぽかぽかになったところで!」


 みあがパンッと手を叩いて立ち上がった。


「次は……蓮ちゃんのターンだよ! ショッピングモールと、あの『聖地』に行こうっ!」


「あ……? 聖地ぁ!?」


 顔をしかめる蓮をよそに、みあは楽しそうに二人の手を取り、カフェのドアを元気に押し開けるのだった。

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