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ま、いっか。で世界が壊れる件 〜全知全能を田舎スローライフ用スキルだと思ってたら〜  作者: しゅんすけ


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第76話:天界の崩壊は10円から――温泉保安官、沈黙の帰還


【AM 10:00:天界最高会議室の「違和感」】

 天界の最奥、厳格な静寂と、直視すれば眼球が焼けるほどの聖光に満ちた至高会議室。


 そこでは、数万年の時を生きる最高神を筆頭に、天界の秩序を司る大天使たちが勢揃いしていた。彼らが待ちわびているのは、はざま村の調査から帰還した温泉保安官・エリエルの報告である。


「エリエルよ。して、あの不敬な村の実態はどうであった? 我が失くした、最も重要な部位の羽は見つかったのか?」


 最高神の問いに、エリエルは震える手で報告書を差し出した。だが、彼女の脳内は今、報告すべき真実と、それを言ったら世界が爆発するという恐怖で、激しく火花を散らしていた。


「(……言えるわけない! 最高神様の羽が、村人の麦わら帽子に『次元固定ボンド』でガッチリ接着されて、ただの飾りにされてるなんて!! しかも、その男は『ま、いっか』の一言で最高神をフォークダンスの輪に巻き込んだ張本人だなんて……!)」


 エリエルは冷や汗で全身の羽を濡らしながら、ソラから教わった魔法のフレーズを絞り出した。


「は、はい。……調査の結果……あの村は、法的に一切の異常なしと判断いたしました。……現状維持で、ま、いっか、でございます」


「「「ま、いっか!?」」」


 会議室が凍りついた。厳格なる天界法を、たった四文字の脱力ワードで一蹴したエリエルに、大天使たちがざわめく。


「……エリエル。……貴様、バッジが妙に光り輝いているな? それに、その翼……なんだその、柔軟剤のCMのような、ふっくらとした質感は」


「……あ、これは。……村のソラさんに、クレンザーで磨いていただいた結果でして。……あと、精霊王エリュシオンのナノミストが、その、保湿に良くて……」


 エリエルの口から漏れ出す生活感溢れる単語の数々に、天界の重鎮たちは、かつてない危機感を抱き始めていた。


【PM 1:00:汚染の伝播と「デフラグ・オレ」】

 会議の後、エリエルは同僚の天使たちに囲まれていた。


「エリエル様! あの村、本当はどうだったんですか? 巷では『10円で天国以上の極楽が買える』なんて不穏な噂が流れていますが……」


 エリエルは溜息をつき、ソラがお土産に持たせた、ジハンキさん特製の『魂のデフラグ・オレ(濃縮版)』の小瓶を取り出した。


「これ? ……これはね、一口飲めば残業や使命感という概念が、脳内からゴミ箱へシュートされる聖水よ。……ソラさんの奢りで10円なんだけどね」


「10円……? そんな、一瞬で消える端金はしたがねで、大天使様の疲労が……?」


 半信半疑の同僚が一口飲んだ瞬間。


「…………っふぁぁぁぁ。……もういいわ。私、雲の上の監視業務なんて、もう疲れちゃった。……今から下界の猫の集会を眺めて一日過ごすわ。……ま、いっか」


 エリート天使が、その場で羽根を枕にしてスヤスヤと眠り始めた。天界の労働意欲が、10円の飲料によって物理的にデフラグされていく。その光景を見て、エリエルは確信した。天界の規律は、武力ではなく10円の快楽によって、内側から溶けようとしているのだと。


【PM 3:00:ハクさんのリモート介入と、ソラの親切(着火)】

 その頃、はざま村のソラは、作業小屋でハクさんと共にある親切を企んでいた。


「ハクさん。エリエルさん、お仕事大変そうでしたよね。……あ、これ。エリエルさんが『ポチの泥マット』と間違えて置いていった機密ファイル、届けてあげなきゃ」


『……了解。マスター。……現在、超時空通信ポストノ、出力ヲ最大ニ。……天界・最高神ノ、玉座ヘ、直接転送シマス』


「あ、ついでにこれ。天界の皆さんも肩が凝ってるみたいだったから、ミナさんが作った『肩叩き棒(元・真理の杖)』の量産試作品と、ジハンキさんの新装開店チラシも入れておきますね」


 一方、その様子をカザルのギルドからリモートで見ていたアレンは、持っていた胃薬を吹き出した。


「おいハクさん!! ソラさんを止めろ!! 最高神の玉座に『肩叩き棒』と『特売チラシ』を送りつけるなんて、それ天界への宣戦布告だろ!! しかもその肩叩き棒、元は天界の宝具なんだぞ!!」


『……アレン様。……マスターノ、親切ハ、絶対デス。……送信……完了シマシタ』


【PM 4:00:天界、崩壊のカウントダウン】

 天界の最高神の玉座。


 再び会議を始めようとした最高神の目の前に、空間を切り裂いて『真っ赤なポストの影』が現れた。


 ガコンッ!! という無機質な音と共に、最高神の膝の上に山のような『肩叩き棒』と、【祝・一番風呂10円! イチゴオレ増量中! ジハンキ】と書かれたド派手なチラシ、そしてエリエルが紛失したはずの機密ファイルがバラバラと降ってきた。


「な……なにごとだ!? ……このチラシ、10円で『神の雫』が飲めると書いてあるぞ。……それにこの棒、我が愛した『真理の杖』に似ているが……なぜ、叩くと腰がこれほどまでに軽くなるのだ……っ!?」


 最高神が、無意識に『元・宝具の肩叩き棒』を使い始めた瞬間、天界の厳格な雰囲気は完全に崩壊した。


 エリエルは遠くでそれを見ながら、再び『デフラグ・オレ』を煽り、力なく笑った。


「……終わったわ。天界が、10円で買い叩かれたわ……。……ま、いっか」


 その夜、はざま村のソラは、夜空を見上げてのんびりと呟いた。


「忘れ物、ちゃんと届いたかな。……あ、明日はポチのパジャマのボタンを付け替えなきゃ。……ま、なんとかなりますよね!」


 ソラの帽子の接着剤は今日も強力で、最高神の羽は、天界のパニックなどどこ吹く風で、月明かりにキラキラと輝いていた。


読んでいただきありがとうございます!


もし面白かったら【★★★★★】やブックマークで応援していただけると嬉しいです!


ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。

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