リリーとラグ 前編
ダウンタウンの片すみに、
ぼろぼろの子犬が、ひとりぼっちで
うずくまっていました。
名前もなく、呼んでくれる人もいません。
「さむいな……おなかすいたな……」
小さくつぶやいても、
こたえてくれる人はいませんでした。
そのとき――
カチャ、カチャ、と軽やかな音が近づいてきます。
毛並みふわふわ、
きらきらの首輪をつけた
アップタウンのお嬢さまワンコが、
立っていました。
「まあ、あなた、こんなところで
なにしてるの?」
子犬はおそるおそる顔を上げます。
「……ボク、どこにも行くところが
ないんだ」
その言葉を聞いたお嬢さまワンコは、
少し考えてから、にっこり笑いました。
「じゃあ、いっしょに来る?」
それが、リリーとの出会いでした。
⸻
あたたかいミルク。
やわらかい毛布。
安心できる場所。
次の日、子犬はリリーに言いました。
「ボク……なまえがないんだ」
リリーは楽しそうに首をかしげます。
「じゃあ、わたしがつけてあげる」
少し考えてから、言いました。
「“ラグ”ってどう?」
「ここで会ったの、ぼろぼろの
カーペットの上だったから」
子犬――ラグは、
ぱっと顔を明るくしました。
はじめて自分の名前をもらったのです。
⸻
それからの日々は、
あたたかくて、にぎやかで、楽しくて。
おさんぽも、
おひるねも、
パン屋さんへのおつかいも。
全部いっしょ。
「明日は丘のうえに行こうよ!」
「いいわね、ラグ♪」
いつもふたり。
それが当たり前になっていました。
⸻
そんなある日。
リリーの家に、立派な馬車がやってきました。
由緒ある家柄のワンコから、
リリーへの縁談の話が来たのです。
その話を、ラグは
ほんの少し開いた扉のすきまから
聞いてしまいました。
「リリーは、
ほんとうのお嬢さまだ……」
「ボクなんかが、いっしょに
いちゃ行けない……」
ラグは、笑顔のふりをしました。
でも胸の奥は、
ぎゅっと苦しくなっていました。
⸻
数日後。
いつもの公園で――
リリーが、ふっと鼻を動かしました。
「……ガスのにおい?」
次の瞬間。
「ラグ、あぶな――」
ボンッ!!
大きな音とともに、、
地面がはね上がりました。
後編へ続きます。
リリーとラグの物語を、最後まで見届けて頂けたら嬉しいです。




