25 隣国にて ユミの場合
「ねぇ、ここ、何なの」
綺麗な泉のほとりでユミは精霊様に聞いた。
精霊様は珍しく困ったような顔をしていた。
「うまくいかなんだ」
「何言ってんのアナタ」
精霊様は、最近異世界人が勝手に里帰りしては戻ってきたりして新しい者を召喚する術をあまり使わずにいたため、間違えて本来召喚すべきではない人間を召喚してしまっていた。
精霊様のペットの兎ポムが、ユミの慎ましいお胸目掛けて泉からピョーンと飛び出しだが、驚いたユミに手で叩かれ落下していた。
「ちょっと!ビックリするじゃない。何、この兎」
精霊様は、泉のほとりでユミを見上げてビビりまくるポムを、珍しそうに眺めた。
「こやつはポムじゃ。ポムは女が好きなのじゃ」
「キモ」
ユミはポムをチラリと見ると、バッサリ切り捨てた。
「昔は其方の国以外からも召喚してみたのじゃが」
精霊様は、ポムを魔法で引き寄せ抱っこした。
ポムは、今まで全ての女性のお胸にスリスリしても可愛がられてきたので「キモ」に落ち込んでいた。
「どうも血の気が多い者が多くての。其方の国は大人しい者が多いゆえ」
「そうでしょうね、誇りに思うわ」
ユミは、精霊様のお言葉を聞き、ちょっと機嫌が良くなったようだった。
それを聞いたポムは、「それはキミもはいっているの?」と思っていた。
精霊様は「案ずるな」と言うと、例のごとく疲れてしまい、元気のないポムと煙の様に消えていった。
そしてこの日以降、レイと似てお胸が控えめだったユミの影響で、ポムが貧乳嫌いになってしまったことは精霊様しか知らない。
ユミが現れたのは、見渡す限り砂漠で石油がザックザク取れそうなアラビアンな国のオアシスと思われる泉だった。
この国でも神殿からお告げを受け、時期王となる王子がまつ毛をバサバサさせながら出迎えてくれた。
王子を含め、その国の者達はとても親切であったが、ユミの苦手な濃いいお顔の持ち主ばかりで、しかも王子が後宮とかいう女を道具としか扱わないシステムまで作ろうとしていたので、ユミのテンションはダダ下がりになっていた。
ただ、半年待てば元の世界に帰れると聞いたので、
入籍も済んでるし
式も一年後に挙げるだけだから
こっちで適当に遊んで戻ろう
などと考えるユミは、割と楽天的なヤツだった。
そんな中、何故かアラビアンな国のすぐまたお隣の山だらけの国の王から強く望まれたユミは、隣国に招かれた。
隣国に後宮があることを知ったユミはイラついた。
まさか私を娶りたいとかじゃないわよね
大体王妃様も異世界人なんでしょ?
私と会わせてどーするのよ
同じ日本出身てだけで楽しくやれって?
ユミは貴賓扱いウザ、と思いつつ王妃に会った。
「初めまして王妃様、コイシカワユミと申します」
それからユミは王妃の告白を聞き、その病気の治療なら自分が会計士をしている研究所病院が有名であることを伝え、一緒に帰ることを勧めた。
最初、王は手術の失敗を恐れたが、異世界人とのハーフで成長の遅れた皇子のためだから、と王妃に懇願され、渋々承知した。
王妃の病気は侍女頭や一部の護衛しか知らなかったので、表向きは王妃がユミを見送る際ハプニング的に巻き込まれて里帰りしてしまった風を装っていた。
王は心乱れたフリをしたが、もともと本気で手術が心配だったので、側妃達にも気づかれなかった。
自分達には出来なかった王子が誕生したせいで、隙あらば王妃の命を狙っていた側妃達は、意図せず去って行った王妃に喜んだ。
そして今度は王子を狙おうと目論んだ。
しかし王妃が不在となってからというもの、王子の護りも前よりいっそう厳しくなり、そればかりか側妃達は一人また一人と臣下へと無理矢理に嫁がされていった。
納得のいかない彼女達は王に猛抗議したが、王は彼女達が以前に王妃の命を狙ったという事実を突きつけ
「わしは其方らの首を落としてもよいと申したんじゃが、王妃が反対したのじゃ。なんと健気なことよ、其方らとは大違いじゃ」
と言って黙らせた。
半年後、手術は無事成功し、ユミは日本で結婚式があるから、と帰りは王妃だけとなった。
王の願い通りに元気な姿で帰ってきた王妃に、王は歓喜した。
神殿でお告げがあったと連絡を受けるやいなや、侍女頭と王妃の護衛を引き連れ、まだ暗いうちから泉のほとりで何時間もウロウロと歩きながら待機していた王は、光輝く泉から王妃が土産か何かが入った紙袋を手に持ち現れると嬉しそうに駆け寄った。
侍女頭と護衛達は王妃が泉のほとりに現れる神秘的な場面を見て感激していたが、やはり精霊様はその姿を現すことはなかった。
護衛は急いで王妃から荷物を受け取った。
侍女頭も目を潤ませながら深々とお辞儀をした。
王は王妃をお姫様抱っこしながら言った。
「王様、ただ今戻りました。手術は成功です」
「よう無事に戻ってくれた。ユミはどこじゃ?礼がしたい」
すると王妃の顔が曇った。
「ユミ様は、こちらに戻られませんでした」
王は驚いた。
こちらに来たことがある異世界人の中で、里帰り目的以外で元の世界に戻ってしまった、という話は聞いたことがなかったからだ。
もともと、精霊様のお導きにより現れる異世界人は何かしら良きものをこちらの世界へもたらしてくれる。
王は、ユミがこちらの世界にきて王妃を連れ帰り、病院治療してくれたことで感謝していたが、彼女が王妃と一緒に戻ってこない理由が気になった。
「珍しいこともあるものじゃな。何故か」
「日本で婚姻式を挙げられるとのことです」
「それは……なるほど、めでたいことじゃな」
王は、それならこちらに戻るはずがない、と思った。
「はい。手術が成功した後、何かお礼がしたいと彼女の連絡先を尋ねたのですが、当たり前の事をしただけだから、と教えてもらえませんでした」
「粋なおなごじゃな。王妃には負けるが」
こちらもそこそこ王妃バカな王だった。
「さぁさぁ、息子も待っておる、城へ帰ろうぞ!」
王は王妃を大事そうにお姫様抱っこしたまま、意気揚々と森を抜けて行ったのだった。




