9歳⑬
言われた事が理解できない私と対照的にミルは口をまるで金魚のようにパクパクとさせて、でも言葉が出てこない。
否、内容は解っている。
解っているけど理解が追いつかない。
「俺が殺したからだ」
もう一度繰り返したウォズさまにミルは掴みかかるんじゃないかという勢いで向かっていく。
マズイ。
私は咄嗟にそう判断して握ったままの手を引っ張る。
けれど子供の7年の差は大きい。
私の力では全然止められなくてずるずると引きずられる。
「あの山火事は同時に10箇所以上に火を付けられ故意に起こされた事だと知っているか?」
ウォズさまの言葉にぴたりとミルの足が止まる。
『故意に火をつける』
これがどういう意味を持つのか私だってわかる。
しかも同時に10箇所以上って……そんな事が出来るのは……
私は自分の考えに怖くなって体がブルリと震えた。
否定して欲しくて視線を向けたミルの顔が真っ青で私と同じ考えだとわかってしまう。
「俺は1箇所ならすぐに消せただろう、実際に俺はあの時ずっと火を消すことしかしていなかった」
ウォズさまの声は淡々としている。
けれど強く握り締めている手から悔しさが伝わってどうしていいのか解らない。
「火をつけてる奴らを捕まえて回り、何故と問うた……答えは全員が同じ王子の命令だと」
ミルがレナスはそんな事はしないと叫ぶ。
私も頷いて同意した。
レナスそんな事する筈ないもの。
「ここにはレナスが王になる為に消し去らねばならないモノがある」
王になる為に消し去らねばならないもの……?
「捕まえた奴らは口を揃えてそう言った、お前ならそれが何かわかるだろ?」
口角を上げたウォズさまの視線はミルに集中している。
嘘だ、そんな筈無い。
「俺と……それからお前だ」
ガクガクと震えるミルをウォズさまが指差す。
考えたくない、考えたくないけれど言っている意味を理解できない程私は馬鹿ではなかった。
「頭に血が上った俺は怒りのままに城へと向かった。途中に立ちはだかった奴らを全部跳ね除けて真っ直ぐレナスの居る王座へ」
ミルも私も口を挟む隙が無い。
そして何か言える勇気も私は持ち合わせて居なかった。
「俺がレナスの所に辿りつく頃には後ろに死体の山が出来ていた、そしてレナスは俺を見つけると開口一番こう言った…なんてことしてくれるんだ!俺はウォズを信じていたのに」
耳を塞ぎたい。
これ以上先を聞きたくない、でも体がいう事をきかなくて息を飲み込む事さえ出来ない。
「アイツは俺の言葉は何も聞かずに斬りかかってきた、俺が教えた剣で!俺に勝てるわけも無いのにな勝負はあっさりついてレナスは死んだ」
嘘だと叫びたい。
でも私達は縫いつけたれたようにその場から動くことすらできずにただウォズさまの独白を聞き続けている。
「それを横で見ていた側近が勝手にペラペラ喋りだした。火を付けたのは自分だ、レナスは何も知らないってな。
そして俺を責め立てた。 王子を殺した極悪だと城中全てが敵になり俺は身を守るため全てを潰してやったのさ」
ウォズさまは一人で城一つ潰したとなんて事無いように語る。
駄目だ、この相手は私達は次元が違う。
動かない私達に語り終えたウォズさまは満足したのか背を向けた。
「ああ、そうだ。俺は『魔王』と呼ばれる事になった死にたくなければあの城には近づかない事だ」
そのまま不気味な宣言と共にウォズさまは森に溶けるように消えていった。
ウォズとレナスの出会いの話を短編で上げました。
良かったらそちらもどうぞ




