失念していた
事情を知っているのに、犬耳獣人のアンはどうして“魔物使い”の方についたのか。
フィスが深刻そうにそう呟き考え込むと今度はミミが、
「もしかしたらシェルを引き込んだのは、アンかもしれません」
「なんだと?」
「シェルはアンと特に仲良しでしたから。逆に私は、尻尾を掴んで、授業に引きずり込んでいたので苦手意識があるかもしれません」
ミミがそう言って少し間をおいてから、
「ですが大人しいアンとはよく二人で話したり遊んだりしているのは見かけましたね。……その関係で、“魔物使い”側に引き込んだのでしょうか」
どうやらその黒い猫耳少女のシェルと犬耳少女のアンは仲が良かったらしい。
けれど一応はどちらも宝玉の巫女であるらしい。
では、何故その犬耳少女は裏切ってしまったのか? そう疑問に思った僕は、
「アンには何か事情があったのかな?」
それに答えたのはミミだった。
「分かりません。私も時々話すくらいで、アン自身は自分の事をあまり話さない大人しい真面目な人物でしたから」
「一度、アンの家族に話を聞いてみたらどうだろう? アンがあちら側に行ってしまった事情も分かるかも」
「ですが、里まではここからとても距離があります。戻っている間に、“魔物使い”が……」
「僕、転移魔法が使えるよ」
そう僕がミミに告げるとミミは黙って、次に、
「なるほど、失念していました。では、アラタ様、この剣が終わってから里への転送をお願いしてもよろしいでしょうか」
それに僕は、頷いたのだった。




