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とどかずとらず  作者: 飛鳥恵佳


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名前のないラノベ

 高校一年。友達もいない。だからと言って別に学校で苦労しているというわけでもない。いい意味でも悪い意味でも最近は個人を尊重する傾向が強い。私のような人間でも問題を起こすことなく生きていけている。

 家では私は別に普通だと思う。他の女子高校生よりも母親と話す機会は少ないだろう。学校であったことはほとんど話さないし母との会話はテレビで流れているもの対してだけ、コミュニケーションをしないわけでは無いしできないわけでもない。ただやらないだけ。不必要なコミュニケーションをとらないだけ。

「まぁ悩むだけ悩んでみたら?」

 あの人の言葉がちらつく……。

 今日もいこうか。

「おじさんぁーん。きたよ」

 いつも通り、返事はない。

 あの人は自分の書斎で仕事をしているだろう。何をするでもなく、あの人のそばにいて、本を読むでもなくスマホをいじってただ一緒にそばにいるだけ。一緒にいるだけだと思っているのは私だけなのかもしれない。おじさんは邪魔だと思っているかもしれない。いつも仕事をして私には基本的には構わない。ただ仕事をして私の方を少しだけ見たり、一応煙草を吸っていいかを確認してきたりと、ほぼ一人で過ごしているときと変わらないように過ごしている。仕事をしているので邪魔だと思っているかもしれない。けど私を邪魔だから外に行けとは一言も言えない。 仕事をしているのかも分からない。

 おじさんのことが好きか?と言われれば分からない。そうだともいえるし、そうじゃないともいえる。好きの基準に男女の行為をすることが出来るかというのは当然議論の中に入ってくると思う。ただそれを私には想像できない。経験をしたことがないから。無理とも何とも言えない。言及できない。想像したくないだけかもしれないけれど。おじさんと血縁関係というのも想像ができない。目の前にいるこの人と血が少しでもつながっているという感覚がない。いや私は両親とも血がつながってなどという感覚も薄いかもしれない。とにかく私は物事を知らないのだとここ最近になって気が付いてきた。これに同級生は気が付いているのか。それは分からない。私は自分が大人だとは思わないし周りと比べようとも思わない。

 つまり私にはこの目の前にいる血縁のおじさんと付き合うとか如何とかを考えるほどの倫理観を持ち合わせていないのだと思う。

「考えることは放棄するなよ……」

「急に何?」

 このおじさんは私の事を邪魔だとは言わない。空気として扱ってくれる。だから私の事など見えていないものだとそう扱ってくれているのだと思っていた。ただたまにこうして私に対してびたりと心をつついてくる。 わざとだったら腹立たしい。

「いいや、そう見えただけだ。気にするな」

「ふぅーん。でおじさんはなんの仕事をしてるの?」

「秘密だ……。タバコ吸うぞ」

 大体そうだ。自分が煙草を吸いたくなると私の考えていることを見透かしたように指摘してきて、その後私が仕事を聞いて、それで煙草を吸っていいかを聞いてくる。この人は本当に読めない。

 この煙草の匂いも体が覚えてしまっている。

 別にくさいとも感じなくなった。ただ、おじさんの匂いとして記憶している。

 考えることを放棄すんな、か。別に考えることを放棄したわけでは無い、気がしなくもない。なんだろ、考えたいことは考えたいのだ。ただ考えなきゃいけないこと考えないでいいようにしたいだから考えないように見えないふりをしている。

 このおじさんは臭いことをよく言う。若者に対してコンプレックスを抱えているのだと自分でも言っていた。私を見ていて多分もったいないと思っているのだろう。けど私はそうは感じない。高校で何をしようとも私は何も後悔しないと自負がある。彼氏が欲しいわけではない、友達と思い出をつくろうなんて思っていない。と、思う。なんでだろう。

 私ってなんのために生きてるんだろう。夢もないし、何かをしたいとかない。普通に生きたい。けど社会人になりたいとは思わない。ニートになろうとは思わないけど。何かをやろうという気概はない。 「ほい、これ……」  おじさんはその言葉と共に本を一冊渡してきた。

 それは最初表紙を見た時、マンガ本かと思っていたが中を覗いてみるとほとんど文章のみだった。

「なにこれ?マンガ?それにしては文字だけ?」

「それはライトノベルっていうジャンルの本だ」

「なにそれ?」

「まぁ文学的な評価をするならキャラクターに特徴付けした文学、小説に該当するかな……。簡単に表現するならマンガを文字で全部起こしたみたいな感じだ」

「なんでこんなの渡してきたの?普通こういう時おじさんが読んでた小説とかを渡すものじゃないの?」

「さぁな。それを読むも読まないもお前の自由だ」

「そう……。まぁ暇だし読もうかな……」

「……」

 そうするといいとか、何も言わなかった。ただ渡してきただけで、ジャンルの説明をしただけ。

 タイトルは長くて覚えようとも思わなかった。

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