13話・大介とサラの雑談 (後編)
元いた世界の暦でいうなら、俺は今年で三十二歳になるんだが…。
あの戦争が始まったのが、二十五歳の時だったから……七年前だ。
当時、俺は国際テロ阻止組織に属していた。
あ、テロっていうのは、経済・宗教的な目的として、暴力で民間人や施設に恐怖を与える行為って意味なんだが、頭の片隅にでも覚えておいてくれ。
「そう……そういう人達から民間人を守っていたから強くなったのね」
「い~や。半分正解だが、半分はまた違うんだなぁ」
国際テロ阻止組織のメンバーは、俺を含めて五人。
当時、部を統率していた課長は上からもっと人数を増やせと言われていたし、俺も人数不足だと思ったけど、先輩たちは全員我だけじゃなく、実力も強くてな。大根を桂剝きするかのように船の甲板を捌いたり、弾道ミサイルを両断したり、戦闘機を射抜いたりと、その光景を見て課長の『真に骨のある者以外不要だ』と言っていた言葉に納得できた。
「よく分からないけど……貴方の声と表情で大切で強い人達ってことは分かった」
「あぁ。実際先輩が戦地に行くと言っただけで、それまで争ってた国が停戦協定を結ぶくらいだったからな。あの日までは、俺も先輩たちとならどんな事件でも解決できると思ってた」
だが……あの日、警察署が突如爆発して全壊してな。
その事を機に、俺は一つの組織と対立するようになった。
「ケサツショ?」
「あぁ。市民の安心と安全を守り、治安維持が主な職務なんだが……この世界で言うと防衛隊に近い仕事かな」
「その拠点が爆破されて、治安維持が出来なくなったの?」
「いや、俺達の世界には警察署は何百カ所もあるから、大々的に報じられたけど、その時点では治安崩壊にまでは至らなかったんだが、問題はその後だ…」
課長の号令で、俺達国際テロ阻止組織もすぐに現場に急行してな。
着いた時に真先に目に飛び込んできたのは、崩壊した建物,次に誰の物か分からない体の一部、それから瓦礫に付着した血,血肉が燃える独特な臭いと酷い状況だった。
「犯人も……死んでいたの?」
「後々分かったことだが実行犯は爆破で死に、首謀者は遠目で同志の最期を見ていたらしい」
そう…現場で今後の事を話し合っている時だった。
その時の俺は未熟で、先輩方が言った気配に気付かなかったが、先輩たちは各々の武器に手を掛け、一斉に同じ方に向けた顔からは血の気が引き脂汗が滲みだしていた。
そして、国際テロ防止組織を率いていた課長が、みんなに『油断厳禁。我等は未だかつてない強敵に牙を向けられている』と言ったのを機に、最寄り駅で運行中の新幹線が爆破の脱線事故があったと報告を受け、課長は直ちに駅にいる者を全員避難させるよう無線で指示したが、それが届く暇もなく駅も爆破され甚大な被害がでたんだ。
「それも……ケイサツの時と同じで単独での攻撃だったの?」
「あぁ。同じ集団に属していたが、犯行自体は単独だった。しかも、新幹線を爆破した奴なんか自由席じゃなくて、すぐに身元がバレる指定席に座っていたんだぜ?」
「すぐに犯人を特定できるのは良い事じゃないの?」
「生きてたら情報を引き出せただろうが、死んだ奴から得られる情報は少ないんだ。なにより、俺は元より、先輩たちに勘づかれる事なく犯行を成功させたのに、足取りが掴める情報を残すなんて……逃げも隠れもしない、来るなら来いと言われてるようでなぁ」
まぁ、それでも収穫がなかったわけじゃない。
爆破犯の情報を調べていたら、全員に共通する事と、同じサークルに所属していた事が分かったんだ。
「全員、火の魔法使いだったの?」
「俺達の世界に魔法は存在しない。虐待,強姦,殺人……全員過去にいづれかの被害者であり、裁判や社会から不遇な扱いを受けた者達でな。笑顔の家族ってサークルに所属していることも、サークルのリーダーの名前も調べがついた」
「そのリーダーを倒せば、全て解決するんじゃないの?」
「逆に聞くが、アグニさんの居場所が分かったとして、サラはすぐ挑みにいくか?」
「無理ね。アグニ様だけじゃなく、運命を共にした騎士様が……あぁ、そういうこと」
あぁ、その件で珍しく国際テロ防止組織でも意見が分かれた。
サラのように、事態が悪化する前にリーダーを叩くべきという先輩もいれば、拠点も何名所属してるのか謎のままで挑むのは危険だという先輩もいた。
「貴方はどっちだったの?」
「どっちでもないかな。当時の俺は決心が着いてなかったからな」
「未知の相手にすぐ決断するのは難しいもんね」
「あぁ、首謀者が知り合いだったから……余計にな」
「首謀者って、貴方はリーダーと面識があったの?」
「ああ。リーダーの竹内雫は、同じ児童養護施設で育った幼馴染なんだ」
「あの……その……」
「サラは悪くないよ。あの時捕まえらなかった、あの時弱かった、俺が全部悪いんだ」
雫の目的は、自国の腐った部分を徹底的に排除して新しい社会を築くこと。
俺一人では無理でも、先輩たちに協力してもらえば、すぐに捕らえられると思っていたんだが、既に雫側には味方となる賛同者が何千人といてな。
そっから、雫たちの動きは勢いを増していった。
雫の勢力に反抗する者は、今の腐った社会制度を守ろうとする敵として、老若男女とわず……血の繋がりがある赤子であっても殺された。
「勢力が増す前に、何とかできなかったの?」
「出来なかった。社会情勢や社会体制に不満、不平を抱く者は少なくないとは思っていたが、あそこまで膨れ上がるなんて、予想すらできなかった」
それから、雫のやり方は恐怖政治だと反発する者と、雫を筆頭に新たな社会を築こうとする勢力に二分化されて、戦いも激化していってな。町には瓦礫と死体が転がり、常に何かが焼け焦げる臭いが漂うようになっていた。
戦い始めてから、どれくらいたった頃だったか憶えてないが…。
あの日……五月四日に起きたことだけは、今も昨日のように覚えてる。
「何があったの?」
「課長が……雫から俺を庇って戦死した」
「…………」
「あの時も雫が目の前にいたのに、ただ一発殴ってすぐに課長の応急手当に回った。急所を刺され助からないと分かっていたのに、目の前の主犯よりも……俺は……」
「これ飲んで。ごめん、つらい事を思い出させて」
「ありがとう。でも、話すと決めたのは俺だから、そんな顔しないでくれ」
細かい話は今度話すとして……。
この左顔の火傷と目は雫との決戦で失って、左手はその後に失った。
「そう……貴方も大変な目にあったのね」
「それはお互い様だろ」
「それど、どうしてこの世界に来たの?」
「それは……俺は始め来る気はなかったんだ」
「どういうこと?」
「あー。これは他言無用、特に紗友里には言わないでほしいんだが……」
――――
「そうだったんだ」
「あぁ、相も変わらず半端者だが、力になれる事は協力するから安心してくれ」
ん、もう夕暮れか…。
ヤベ!後で確認するって言っていた物が沢山あるんだった。
「サラ、すまん。確認しないといけない物があるから、一度戻るわ」
「そう……ねぇ、次はいつ来てくれる」
「……疲れたときに、また茶を飲みにくるよ」
実力だけじゃなくて医術の心得もあって、日中は拠点復興のために動いて、夜はこの世界の事をしるために遅くまで文献を読んでいるし、大介さん……凄い人だなぁ。
『疲れたときに、また茶を飲みにくるよ』
いつ来ても良いように、お茶の管理はしっかりしておこう。




