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第4話 祠の再確認

◇◇◇◇◇

「グレイ、あなたは夏祭の奉納の儀に参加することはなりません」


 久々に母屋に呼び出されたと思ったら義母がいきなりそんなことを言い出した。

 父であるアシュフォード男爵は苦い薬でも噛み潰したような顔してる。


「えっと、なんでですか?」

 

 奉納の儀ってのは百年前にこの地で暴れまわってたルーメアって魔族を封印した祠にいく儀式だ。

 何か邪鬼ガルグランっていうさらにやばいヤツの眷属だったとかで、当時に神託をうけて国中を回ってた勇者様に倒されて封印されてる。


 その百年前から、この村の人間はルーメアを封印した祠にいって、魔封じの効果をもつ精霊石を捧げてきた。勇者様の代わりにルーメアを封じ続けてますよっていう儀式なんだ。

 十年に一度の儀式で、毎回夏の祭に合わせて行われるって聞いてる。今年はその十年目なんだって。


 っても別に俺は行きたいとも思ってなかったけど。だいたい精霊石って多分ただの翡翠なんだよ。おまじないみたいなもんで別にやんなくても封印の維持に関係なさそうだしな。元は厄払いの儀式だった節分の豆まきみたいなもんだろ。


 でも義母は当然でしょうという顔で続けてくる。


「これは勇者様に代わりルーメアの封印を守る神聖な儀式。いわばアシュフォード家が託された神事でしょう。ならば魔法の使えないあなたが関わってなんとなるというのです」


 いや、兄二人はともかく他の取り巻きは連れてくんだろ? そいつらも魔法なんて使えないんですけど?


 そう表情に出せば、義母は無属性がいかに貴族としてありえないか、アシュフォードの名を汚すのか、わーわーと並べ立てて絶対に認めないぞっていうがんこな態度。


 とりあえず悔しそうなリアクションをしときますか。

「くっ……殺せ」


「殺……なんですって?」

「あっと、死ぬほど悔しいってことですお義母様」


――――第10話『別に悔しくないんですけど?』◇◇◇◇◇



「どうだ、巫女殿。封印の具合は」


 翌日。

 再びやってきた邪鬼ガルガルンの眷属ルーメアの封印された祠。


 ただし今回は俺たち兄妹(姉弟)だけでなく父であるアシュフォード男爵と村の祭事を司る巫女のお婆ちゃんも一緒だ。


 俺たちがルーメアに操られそうになったと父親を必死に説き伏せたのだ。

 男爵は半信半疑ながらも、巫女を呼び寄せてここまで来てくれた。


 ところが。


「男爵様、心配はございません。ルーメアめの封印はしかりと施されたままにございますよ」


 巫女の婆ちゃんは祠を念入りに調べるとそう言った。


「そうか、ご苦労であった。勇者様自らが施された封印なのだ。ほころびなど生じるはずがないと分かっていたがな」


 アシュフォード男爵はほっとした顔をすると、一転して険しい表情を俺に向ける。


「グレイ、なぜこのような嘘をついた。私も巫女殿も子どもの嘘に付き合う暇などないのだぞ!」


「嘘じゃありません。姉ちゃ……ネリィちゃんが止めてくれなきゃ俺はルーメアの封印を破ってましたよ」


「いたずらでか! 妹に止めてもらうなど、それでも兄か!」


 やばいな。言葉のチョイスを間違ったか、男爵がさらに激怒した。


「男爵様。子供が昼に夢を見てしまうなどよくあることでございますよ。坊ちゃまもお父上の役に立ちたい、褒めてもらいたい一心だったのでしょう。この婆は気にしませんから。どうかお許しくださいませ」


 巫女の婆ちゃんが割って入るようにして頭を下げた。

 俺も慌てて頭を下げ、姉ちゃんも「お父様……」と必殺の上目遣いを炸裂させる。


「分かった、もうよい。但しグレイ、やはりお前は今年の祭りの奉納の儀に参加することは許さぬ」


 アシュフォード男爵はそう言い捨てると、そのまま領内の見回りをすると言って道の先へと進んでいった。


 婆ちゃんは俺たちの頭をそっと抱きかかえて言った。

「さあ、グレイ坊っちゃん、ネリイさま。帰るとしましょう」


           ****


「あー、やられたあー」

 と布団の薄いベッドに飛び込んだ姉ちゃん。


 俺たちは家に戻って反省会。

 玄関のところで、どこで聞きつけたのか義母や兄たちが俺が嘘つきだなんだと説教に来たがそこは省略。


「くそっ、ルーメアもそこまで甘くなかったか」

「二人に見抜いてもらって裏技活用最速クリアだぜ!とか全然ダメだったじゃん」


 男爵と巫女の婆ちゃんと言えばこの村で最も魔法に長けた大人だ。

 その二人なら安全に祠のチェックができると期待していたのだけど。

 ルーメアは仮にも邪鬼の眷属だ。奥底に隠れたのか何か偽装したのか、封印の綻びには気づかせなかった。

 原作ではその辺は特に指定はしていなかったからなんとかなるかなと試したんだけど。大人が近づいたときは何もしないし、バレないようにしていたというのが裏設定ってやつだったみたいだ。


 この後も大人たちには隙をみせず、子供が近づくのを待つ構えだろう。


「やっぱもう一回ヒロトだけ近づけて、魅了されるところを見せた方がよかったって。おれ、おれ」

 琴姉ちゃんが隣に腰掛けた俺の背中に寝転んだままペシペシと足をぶつけてくる。日本でお馴染みだった構図。 


「二人を連れてく理由がないからって諦めたじゃん」

 これからルーメアに魅了されて封印を壊しにいくから止めてねって、普通に外出禁止だろ。


「で、どうすんのよこれから。原作だと儀式に来た子供に魅了かけてきたけど、あそこ普通に子供の活動圏内でしょ。いまのこの世界は現実なんだから偶然近づいちゃってそこを利用されるとか全然ありうるじゃない」


「まあ何とかなるでしょ」

 

「何とかって…………はあ、あんたそういう奴だったわよね。ミカの時も考えなしに飛び出すし」


「あれは、琴姉ちゃんだって助けようとしてたじゃん」


「私は……まあ仕方なかったし」

「それに結果的には女神さまに助けてもらえるわけだしさ」


 俺がそう言うと、姉ちゃんはため息まじりに返してくる。


「あんたほんと、そういうとこあるよね。突っ走るわりにギリギリで結果掴むところ。受験だって絶対無理って言われたのに、ギリ合格してるし」


「でもさ、あん時も姉ちゃんが過去問とかまとめてくれたし、面接の時に担当の先生に受けそうな話題も教えてくれたじゃん」


「そりゃまあ、私も近くに身内がいると便利だし、おばさんにもお礼のお小遣いいっぱいもらえたし」


「それに、小説だって最初はまったく反応なくてめげてやめちゃおうと思ったところに温かい応援コメント入れてモチベーションあげてくれたし」

「えっ、何の話?」


「だからさ、姉ちゃんが一緒にいれば何でもクリアできてきたんだからさ、今回も俺たち二人なら何とかなるって話」


 そもそも俺一人だった場合、ルーメアに騙されてあっさり封印を解いちゃってたわけだしね。


「あっ……あんた……もう……ほんとに、そういう!」

「いって!?」


 俺の背中をペシペシしていた姉ちゃんの足がいきなり勢いをつけてきた。


 慌てて俺はベッドから逃げ出し、ついでに机から勉強用の紙とペンを持ってくる。


「そんじゃ今回も対策とろうよ。まとめるとさ…………」


 俺は姉ちゃんと相談して今後の問題をリストアップしていく。



・放っておくと夏祭りの儀式でルーメアが復活する


・ルーメアを復活させたら今の俺じゃ絶対に勝てない


・夏祭り前に子供が祠に近づけばそれだけで封印が解かれてしまう


・ジャットとスニがいろいろ邪魔してくるからどう大人しくさせるか


・原作でルーメアを倒した後に会う王立学園の教師に俺がスカウトされて学園に入学できるが、今のスペックじゃ絶対無理


・ガルグランの封印の場所に行くには学園に入学していないといけない


・王都に眠る邪鬼ガルグランはすでに封印が半分ほど解かれていてこれの阻止はもう不可能


・ガルグランは5年後(原作最新話)には封印が完全解除されて全盛期の力を取り戻す


・それを知った主人公が討伐に向かうところで更新ストップ

・チート持ちの主人公でも倒し方は未定


 その他、ずらずらと書いたが結局のところ原作知識を活かそうにも俺のチートが無いってのが根本のネックなんだよな。


「くっそ、ルーメアどころかガルグランなんてどうやって倒しゃいいんだよ」


「ねえヒロト、ガルグランが復活しかけてるのは王家でも察知してるわけでしょ。そっちで何とかしてくれるんじゃない? 三爪剣連とか漆黒騎士団とかいかにも強そうな人たちが顔出ししてたじゃない」


 姉ちゃんが原作最新章に登場したキャラたちを挙げる。


「んなわけないじゃん。あいつらかませ要員だからガルグランの他の眷属にボコられるのが決定してんだよ」

 と俺が原作で予定していた展開をリーク。

 執筆してないってことは実は強いとかあるかもしれないけど、ほとんど描写してないルーメアの祠が脳内設定どうりだったことを思えば、あいつらの力量も俺が決めてたまんまだろうな。


 くっそ、グレイ君を輝かせるためのプロットだったけど、こんなことなら他の奴らにも手柄を譲っときゃよかったよ。


「そもそもさ、放っておくってのもありじゃない? 女神さまも言ってたでしょ。村でスローライフしててもいいって。ルーメアだけは何とかしなきゃだけど、そんなヒロトが無理しなくっても…………」


 姉ちゃんがだんだん力なく小声になりながらそう言った。


 たしかに女神さまは原作をなぞらなくてもいいって断言してた。俺たちが世界を観測するのが重要なのであって、ストーリーはどう展開してもいいんだって。

 最悪ガルグランが復活して王国を支配したとしても、人間が滅ぼされるまではないだろう。そもそも15歳までの観測がノルマだから、ルーメアさえどうにかできれば俺たち自身は逃げ切りで日本に帰還できる。


 でも……


 俺は机の上に置かれた小さな瓶を見る。

 巫女の婆ちゃんが別れ際にくれたフィクスの実で作ったジャム。この甘さがあればつらいことなんて吹っ飛んじゃいますよって言って渡されたんだ。


 原作ではジャムがあるなんて描写はしたことないけど、婆ちゃんはこの村の名物なんだからって誇らしげだった。

 そりゃ瓶があるくらいの文明なら果実のジャムくらいあってもおかしくない。


 部屋に入ってちょろっと舐めてみて、あんまり甘くない甘さを味わって、やっぱこの人たちは実在してるんだなって思った。

 魂があるとかないとか難しいことは分かんないけど、この世界の人たちが生きてるのは間違いないんだ。


 だからガルグランは完全復活させちゃいけない。村の人たちの命が脅かされて、こののどかな生活が無くなるなんてのはダメだ。


 そのためにもまずはルーメアを抑える。

 

 横を向くと姉ちゃんも無言で瓶を見ている。今は愛らしい幼児の外見だけどその表情は昔から見てきた通りで、姉ちゃんも同じことを思ってるんだって伝わってきた。


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