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第1話 with姉ちゃん

「ヒロトーー!!!」

 姉ちゃんの叫び声とトラックの甲高いブレーキ音が重なり、やけに引き伸ばされて聞こえる。

 伸ばした腕の先、少女が歩道にまで転がったのを確認すると、俺は訪れる衝撃を覚悟しぎゅっと目を閉じた――――


――――けど…………何もおこらないのを不思議に思いながらそっと目を開いた俺は、歓喜に身を震わせた。


 目の前に広がる光景。

 そう、俺は知っている。この距離感を失わせるどこまでも続きそうな白い不可思議な空間を。

 ゆるやかなローブに身を包み、慈愛の笑みを浮かべる美しい女性の正体を。


 そしてその人は柔らかな声で告げた。

「気が付きましたか。我が身をなげうち幼子を救った勇気ある魂の持ち主よ。私は女神リッツ=ライア。地球の一枝の添え手にして異世界の管理者です」


「キタよ異世界!」

「ふふっ、あなたなら異世界とは何か、説明はいりませんね」


「はっ、はい。俺……私、月島 大翔(ひろと)。15歳、高校一年生。かねがね異世界行きを志望しておりました。

 あっ、自己PRさせていただきますと心身ともに健康。勉強の方は数学も理科も及第点はとってたので、貴族家の運営とか錬金術とかもいけると思います。


 あと家では母が仕事に行く日は料理を担当してまして、従姉妹(いとこ)の姉ちゃんが食べるばっかのくせにリクエストばかりうるさいので、そこそこレパートリーはあります。プリンも作ったことあるんでケモ耳少女にもご満足いただけるはずです。


 それと部活は中学でバスケ部に入ってたんですが、弱小校でしたけど3年の時に皆で最後くらいはって頑張って、市の準々決勝までいけました。その経験からパーティーの皆で支えあうことの大切さというのを学ぶことができました。


 あと、一応体育会系だったんで威張るしか能がない上級生にもとりあえず敬語つかっとこうっていう要領は身につけたんで、王族の前にも安心して出していただけるんじゃないかなって思います!」


「はい、とても良い自己アピールでしたよ」


 テンションの高ぶりのままに思わず入試以来3ヶ月ぶりの面接テクを披露してしまったけど、女神様はパチパチと手を叩き褒めてくれる。


「私も今まで多くの方を異世界に送り出しましたけど、こんな話の早い方は初めてですよ」


「いやあ、予習の成果ですよ」


 俺の愛読書は異世界もののラノベ。転生転移関係なく異世界が舞台の小説は手当り次第に読んできたし、最後にはそれだけではなくて……


琴音(ことね)さんも異世界はご存知ですね」

 琴音!? 俺の母さんの妹の娘。つまりは従姉妹である姉ちゃんの名前がなぜ出てくる。疑問顔の俺に女神様が手を向ける方を見ると……


「よお」

 俺の背後にいたのは琴音姉ちゃんその人であった。

 胸を強調するかのように両腕を組み、くせっ毛の長髪をポニーテールにして

仁王立ち。

 卵型フレームのやや大きめのメガネごしに勝ち気な性格を隠さないジト目を俺に向けてくる。


「あんたが異世界小説好きなのは知ってたけどさ……」

 ため息混じりの言葉に胸の大きな赤いリボンが揺れる。リボンの色は俺より一つ上の二年生の印。ラフに着崩された制服は俺と同じデザイン。


 姉妹である親の仲がよく、家も近所にあって子供の頃から姉弟同然に育ってきた家族だ。


 いや、今はそんなことより……


「なんでここに琴姉ちゃんが?」


「誰かさんを助けようと自分もトラックの前に飛び込んでいたんですよ」

 と女神さまが言った。


「なあっ!?」

「そっか、琴姉ちゃんもミカちゃんを助けようとしてたんだ」

「えっ!? ああ……うん、そう……だよ」


 そう、俺たちがたまたま一緒に帰宅していた時、お隣に住んでたミカちゃんの幼稚園帰りに行きあって、少女が「お兄ちゃーん」と横断歩道を飛び出した所に横から信号無視のトラック。

 思わず飛びこんだ末がこの謎空間だけど、まさか姉ちゃんもいるなんて。


 正直、琴姉ちゃんはミカちゃんと仲悪かったと思ってたけどな。ミカちゃんが俺ん家に遊びにくるたびに嫌そうな顔してたし、ミカちゃんの方もなんか節々で姉ちゃんに対して挑発的な印象があったんだよな。


 聞いても「ああんっ!? そんなことない」「女のヒミツってやつだよお兄ちゃん」とか言われたけど。


「あっ、それでミカちゃんは無事なんですよね」

「ええ、打ちどころがよくてかすり傷一つありません」


 そして今更ながらに気づく。ミカちゃんは無事なのはよかったけど、この白い空間にいるってことは俺たちの方は死んだってことなんだよね。


 つい異世界ってフレーズに興奮してたけど、もう家族にも友人にも会えないってことなのか。途端に寂しさというかすっかり忘れてたことに申し訳無さが湧き上がってくるけど、女神様からはそんな気持をふっとばす言葉が。


「それですが、実際の所はあなた方の死の運命は確定していません。その直前にここに引っ張ってきた訳ですから。私の力をもってすれば助けられますよ」


「ほんとですか!?」

「嘘っ! ……よかったよぉ」


「それだけあなた方が救ったミカの命に価値があったということです」

「ミカちゃんが?」


「ええ、私が預かる一枝、あなた方の地球は数多ある平行世界の中で数少ないSクラス、太陽系内に版図を広げるまでの発展が有力視されている世界なのですよ。具体的にはあかせませんが、その鍵を握るのがミカだということです」

「ミカちゃんが!?」

「あの小娘が……」


 ミカちゃん、年の割りには賢い子だったけど将来はよほどデカイことをするみたい。重力制御の方程式でも完成させるのかな?


「ほんとうにあの子がトラックの前に飛び出した時はあせりました。お二人が動かなければ確実に命を落としていたでしょうからね」

「あれ、地球の未来とかミカちゃんの将来が分かるなら、事故のことも防げるんじゃないですか」


 俺の疑問に女神様が答える。なんでも東京から大阪へ飛行機に乗っていくとして、その大筋のルートは定まっていても途中で墜落したり乱気流の発生で別の空港に向かうとか、偶発的な事象の影響は防げないし、予測もできないという。


「なるほど……って、俺たちは女神様に死ぬ前に救っていただいたんですよね? ミカちゃんも助ければよかったんじゃないですか?」


「私達が創造した異世界ならばまだしも、地球の命運に女神が介入することは許されていません。いえ、介入した時点で期待されていたルートを大きく外れる結果になるのです」


「じゃあ俺たちは何で助けてもらえたんでしょう?」

「それは、何度計算してもあなた達の未来が世界の命運に大きく関わることはないからですよ。その程度であれば誤差の範疇でごまかしが効くのです」

 女神様が邪気のない笑顔でそう言った。


 なるほどね。モブは死のうが生きてようとあんま周囲に影響ないってことだね。


「とはいえミカと比べると、という話ですから個人としては十分満ち足りる人生が送れるはずですよ。計算上お二人の子孫はSクラス到達の時まで連々と繋がっておりますからまさに子孫繁栄……っと、これは漏らしすぎでしたね。」


「おお、この先に平凡だけど堅実な幸せが待ってると……って琴姉ちゃん何やってんの?」


 横の姉ちゃんが「あわっ、あわっ」となってた。


「どしたん、姉ちゃん?」

「ああああ、あんたは何を冷静に受けてんのよ! お二人の! 子孫って!」

「えっ? 良いことじゃん」


 それ、俺はちゃんと結婚できるってことだし、外見は良くても性格の荒い姉ちゃんも相手が見つかるってことだろ。

 叔母さんが「あの子はがさつだからちゃんと世話してくれる人にもらってほしいのよねえ」って、よく俺に愚痴ってくるからね。叔母さんも喜ぶよ。


「えっ!? いいの? いや、まああんたがいいなら私も文句ないんだけど……」

 何かいつになくしおらしい感じの姉ちゃんが両手の指をこねこねとこね合わせていた。


「ただしです。その未来を掴むにはあなた達がこのトラック事故を乗り切る必要があります」

「えっ!? それは女神さまが救って下さったのでは?」


「実を言いますとミカのようなキーパーソンだけでなく、一般人たるあなた方への生死の介入も禁じられているのです。今のお二人は死の間際の走馬灯――――主観時間を思いっきり引き伸ばしているだけの状態です。直に元のトラックの迫る時間線に戻ってしまうのですよ」


 女神様の言葉に一転、俺と姉ちゃんの顔がくもる。


「ですがご安心下さい! そんなあなた達を救う方法が一つだけあるのですよ。それがこの魂活(こんかつ)サイトへの登録です!」


 じゃーんと女神様が両手を向けたとこには椅子とノートパソコンが置かれた机が出現していた。

 その画面を覗き込むと名前とか生年月日の入力フォームが並んでいる。


「これはですねえ、異世界への転生の同意書になっておりまして、こちらに必要事項を入れて頂いた上で、お二人にある異世界へ転生してもらいます。いやあ最近は昔みたいにほいほいと異世界へ人を送り込めなくなっちゃてるんですね。


 対象を突然死を逃れられない状態の方に限定するとか。今はコンプライアンスがどうのとうるさいこと言われましてね。世知辛い世の中です、まったく」

 女神様がそう言いながらうんうんと首を振る。


「ねえ、ヒロト。私達壮大なオカルト詐欺に巻き込まれてないかな」

「ちょっ、琴姉ちゃん失礼だって、聞こえちゃうよ!」

 いや、たしかに女神様は最初のおごそかな雰囲気を失って街頭キャッチセールスっぽくなってきてるけど。


「いやあいい取引だと思うんですけどねえ。私はあなたたちに異世界に行ってほしい。代わりに成功報酬として元の場所と時間に戻すという原状回復タイプの契約を結ぶのです。そこでほんのちょっとだけ帰還ポイントをずらすことでトラック事故を回避しようという作戦なのです」

 そのくらいのごまかしは裁量なのですよ、と女神様は得意げに。


「ああ、まあ大昔の異世界ものって世界を救ったらあっさり元の地球に戻ってくるの多かったよね」

 意外と姉ちゃんも異世界小説に詳しいんだよな。


「それでその世界を救ってほしいことはやっぱり魔王とかと戦ったり?」


「いえいえ、ただその世界に行って一定期間そこで過ごしていただければいいのですよ。たしかにその世界ではかつて勇者に封印された魔族が蘇ろうとしていますが、主人公らしくさくっと倒してしまってもいいし、放っておいて田舎でスローライフを送るのもいいでしょう。目的も手段も全てがあなた次第。まさに夢のオープンワールド人生がここに!」


「おおっ」

 とゲームのキャッチコピーみたいな謳い文句に前のめりになったところで、続いての女神様のセリフに俺は固まった。


「あなた達に行って欲しい世界の名は『ラヴェーン』です」


 さっきから幾度も衝撃を受けてきたけど、最も強烈なショックがこれであった。

 なぜなら女神様が口にしたその世界の名は俺がよく知っていたものだったから。

 そう、その世界は…………


「あれ、それってヒロトの書いてた異世界ハーレム小説の舞台ですよね?」

「えっ、姉ちゃん何で知……」


 訂正。今日一番の衝撃が姉ちゃんの口から放たれた。

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