勇者はまたレベル上げに走りそうです
いつものように僕はリノンの返事を待っていた。
勉強を片手間に、交換日記が光るのを……。
ここまで繰り返していると、大体どれくらいのタイミングで来るのかわかる。
きっと……宿屋に居る時にでも書いているのだろうか。
リノンがどんな時に書くか、想像しているところで、交換日記はあわく光る。
僕は今日、どんな返事が来ているか楽しみにしながら、新しいページに目を落とす。
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馬車に乗ってます!
大好きなユウスケへ☆
今日はクエストが終わったので、街に向かってる馬車に乗ってるの。
ちょっと距離があるから、馬車で一晩過ごすことになっちゃった……(>_<)
銀行はね、お金を持ち運ぶのが不便だからあるの。
5万ゴールドって言ったら、持ち運ぶの大変で……。
装備はまだいいかも?
この間のクエストのボスも、1ターンで倒せたから。
な~んか、手ごたえ無くてね……(-ω-;)
この先の街には、固いけどたくさん経験値を落とす、モンスターが居るんだって~☆
私、もうわくわくして……。
早く、街に着かないかな……。
じゃあ、またね~☆
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いよいよ、冒険らしくなってきたように思えてきた。
馬車かぁ、バスみたいに心地は良くなさそうだ……。僕は以前に深夜バスを使った事があるが、眠れなかった記憶がある。
リノンも眠れない夜を過ごしたのだろうか?
けど……経験値が多いモンスターが居るなら、きっとリノンはそこに留まるんじゃないだろうか……。
今までの事から推測すると、十分あり得る。
それに……ボスを1ターンで倒したって……。いや、ターンってあるのかな……。少し疑問に思ってみる。
銀行は世界共通なのだろうか? 確かに紙幣じゃなく硬貨だけだと、重くて身動きが取れないだろう。
リノンの住む世界の銀行って、どんな仕組みなんだろう。
色々な想像を働かせながら、言葉少ない交換日記からリノンの世界を考える。
そうしている間に、僕は眠ってしまった。
・・・・・・
「ねぇ、ユウスケ?」
「なぁに? リノン」
「……私の事……好き?」
「な、なに言ってるの? 決まってるじゃないか!」
「……違う! ちゃんと聞きたいの!」
「うん……じゃあ、リノン……僕はリノンの事を……」
目が覚めた。
妙にリアルな夢だった……。最後の一言がつまって出てこなかった……。
「僕は、リノンと直接逢った時、好きと言えるだろうか……」
独りつぶやく。
まだ、しっかりとしない頭を何とか働かせ、朝食をとってから、学校に向かう。
「雄介、なんかだらしない顔してるぞ?」
「え?」
「うそうそ、冗談だって!」
大樹……あの夢を見た後だから、タイミング悪いぞ……。
談笑しながら学校に入り、そして授業で一日を過ごした。
・・・・・・
そして、僕の書く番。
僕としても、早く魔王を倒してほしいところだけど……寄り道しそう……。
交換日記を広げて、書き綴る。
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モンスター狩り尽くすんじゃないよ?
大好きなリノンへ。
馬車、お疲れ様!
眠れなかったんじゃない?
僕も夜行バスっていうのに乗ったことあるんだけど、その時眠れなかったのを思い出すよ。
そっかぁ、そっちのお金は重いんだね?
こっちは紙のお金もあって、持ち運びは楽だよ。
でも、大金は銀行に預かってもらうんだよ。
ボスを1ターン!?
どんだけ強くなってるの!?
今のレベル教えてほしいな……。
……経験値多いモンスター、狩り尽くしそうで怖いけど……。
じゃあ、またね!
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「きっと、またしばらく留まるんだろうな……」
そうつぶやき、そんな気がしながら、僕は交換日記を閉じる。
優しい光りに包まれ、僕の気持ちにも語り掛けてくるようだった。




