episode15.5 残された娘達
「……ッ!いつの間にか寝てしまったのですね」
ご主人様を見送った後、眠気が襲ってきてそのまま眠ってしまった。窓から見える景色は、夜の色に染まっている。
「アルカちゃん達は……フフッまだ寝ているようですね」
まだ眠っているアルカちゃんとエレナちゃん。 二人は、前と違って寝ている時も幸せそうな顔をして眠っている。
「今日は色々とありましたから、疲れてるんでしょうね」
今日一日で色々な事が起きた。
来ないで欲しいと願った朝を迎えて、いつも通りダグラス達を見送った。
今日は新人でも狩りに行く。と言いながら出ていったのを覚えている。
クエストや迷宮に行くときは、いつもアルカちゃんとエレナちゃんを連れて行っている。
二人が戻って来る時は、いつもボロボロで帰って来ていた。酷い扱いをされているのは知っていた。
宿にいる時でさえも扱いを酷くするので、いつも私が代わっていた。せめて、帰って来てからは痛い思いをして欲しくなかったから……
こんな事が今日も続くのかと憂鬱になりながら、このままダグラス達が帰って来なければいいのに。と思っていた。
そんな時。部屋のドアがノックされ出る間もなくドアが開かれ、入って来たのはギルドの職員を名乗る男女数名。
「ダグラスが決闘で敗北した。ダグラスの所有物を全て持っていく。当然お前たちもだ」
ギルドの男性職員が私に発したのは、この一言だけ。
そう告げると、職員達は部屋にある物をどんどんと運んでいく。
男性職員の発した言葉と行動に胸が熱くなった。
やっと。やっとこの生活が終わるんだっていう喜びと、次のご主人様への不安。
もし、ダグラスより酷い人だったらどうしよう……アルカちゃん達を守れるのかっていう不安が脳裏を過った。
眠っているアルカちゃんとエレナちゃんを起こして男性職員について行く。
二人には歩きながら説明した。
ダグラスが決闘で負けたこと。私達はこれから新しいご主人様に仕える事。
「……うん」
「ん……」
二人の反応も理解出来る。
これまで散々な酷い仕打ちを受けて来たのに、そのダグラスを決闘で負かす程の実力者に仕える。
希望何て持てない。今よりもっと酷い事を経験するかも知れないっていう不安が二人の表情に出ている。
二人は私が守らないと……
「では、ここで待機。すぐに勝者がくる」
ギルドのとある一室に、ダグラスの所有物と一緒に連れていかれた。
ここにもうすぐ新しいご主人様がくる。そう伝えると職員は部屋を出ていった。
待つこと数分。
男性職員と一緒に部屋に入って来たのは、仮面を付けた人。この人が新しいご主人様……
付けている仮面がより不気味さを引き立て、私達の不安を煽る。
そんな中、その人が急に棒を取り出し振り回したと思ったら頭にぶつかり、蹲り立とうとして棒を踏んで転んだのだ。
最初この行動の意味は分からなかったけど、後から思えば私達を笑わせようとしたんだと思った。
そこから色々と話た後、クラウン様と契約を結んだ。
まだクラウン様がどんな人なのかは分からないけど、あの言葉を信じたいと思ったんです。
「私は、あなた達を奴隷扱いしません」
この言葉は本当だった。
私達のベッドもある部屋を借りて頂き、食事も貰えた。これだけでも私は凄い幸せを感じていた。
アルカちゃんとエレナちゃんも、あの噴水広場でのご主人様の行動を見てからすっかりなついたみたいです。
誰もが見てみぬ振りをする泣いている女の子を笑顔にするために、あんな事が出来るなんて。
新しいご主人様は、とても優しい方で良かった。
「本当に色々と起きましたね」
トントントンッ
そんな時部屋をノックする音が聞こえた
「すいません。冒険者ギルドの者ですけど。クラウン様はおりますか?」
冒険者ギルドの人が何故?
ご主人様は冒険者ギルドに用があると言って出ていった。
あっ!他のダグラスの所有物を持ってきてくれたのかもしれない。
そんな事を考えながらドアを開けると、目の前には今にも泣き出してしまいそうな女の子が立っていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
「えっ?えっと、あの。ど、どうしたのですか?」
「私のミスで!私のせいで……クラウン様が、クラウン様がぁぁ!」
「ご主人様に何かあったのですか!?」
少し話していると女の子は急に泣き出し、謝って来た。
ご主人様に何かあったのだと私の中で不安がざわつく。
女の子から色々と聞いた。
魔物の繁殖期の事。深淵の森の魔物の繁殖期が確認されたこと。彼女のミスでご主人様が深淵の森のクエストを受けたこと。
そしてこの時間までご主人様が冒険者ギルドへ来ていないこと。
一つ一つ聞いていく度に不安が募る。冒険者ギルドに行くと言っていたご主人様がまだ帰って来ていない。それはご主人様が、クエストの為に深淵の森に行った事への証拠。
「だから、もしかしたら……クラウン様はもう…」
「言わないでください!それ以上は……言わないでください」
「っ!!はい……すいません」
「いえ。私も大声を出してしまい、すいません」
「……私は一度ギルドへ戻ります。もしかしたら入れ違いの可能性もありますから」
「……わかりました」
女の子は頭を下げ、この場を去っていく。
それを見送る事さえ出来なかった。
やっと……やっと優しいご主人様に出会い、幸せを感じられる居場所が出来たと思っていたのに……それが一瞬で崩れ去っていってしまう。
耐えられなかった。
奪うのなら与えないで欲しかった。
「ミリナちゃん?どうしたの?」
「……アルカちゃん……」
私が大声を出したせいでアルカちゃんが起きてしまったみたい。
この事は、伝えない方が良いのかもしれない……
「ご、ごめんね!虫が出てびっくりしちゃったの」
「アハハっなぁんだビックリしちゃったよ」
「ごめんね……」
「あれ?お兄ちゃんは?」
「えっ!?あ、えぇっとちょっと夜の街を散歩してくるって言ってたよ」
「そうなの!?僕も誘ってくれれば良かったのに……明日お兄ちゃんと散歩行こうっと!」
アルカちゃんの笑顔が、今はとても苦しい。
せっかく笑うようになったのに、また心を閉ざしてしまうのかも知れないって思うと凄く苦しい。
「アルカちゃん……あのね」
「ん?」
「ううん!なんでもないよ!じゃあ明日の為にまた寝よっか」
「うん!」
明日……明日ご主人様が戻って来なかったから、アルカちゃん達にも伝えなきゃ。
ですから、どうか……どうか戻ってきてください。ご主人様!




