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名前あれこれ

「鉄子って、田崎さんの家族の誰かが、鉄道好きなの?」

 誰が言ったんだっけ、夏の終わりの夕暮れの道を鉄子と歩きながら、たまきは思いだした。

 何かで、飼っているペットの話になったのだ。その時に並んだ名前は、横文字のものだったり、ひらがなの可愛らしいものだったりで、鉄子の名前はなかなか珍しいものだった。

 和犬には和っぽい名前、洋犬には横文字な名前が多い中、パグやフレンチブルドッグなどの、短口吻ギョロ目系に、フランソワーヌだの、ジョセフィーヌだの、エレガントなものや、小梅、さくら、梅子、小太郎などの和風のものが多い。が、鉄子という名前がそういう傾向から外れていることには、環自身も気付いていた。そういう名前をつけるセンスの人が犬を選ぶのか、犬がそういった名前を選ばせるのか、なかなか興味深い問題である。

「ううん。お母さんが付けたの」

 確か、そう答えたはずだ。ということは、友人の中の話だったのだろうか。

 田崎家で飼ったことのあるのは、犬が二頭のみ。初代はちゃ、二代目がてつだ。どちらもメスで、母が名づけた。もちろん、環も名づけの由来は訊いた。

「うーん、女の子だから「子」を付けたかったんだよね。あと、茶色だから、茶子。鉄子は黒いから」

 腕を組んで、思い出すように天井を見ながら母は言った。茶子は納得だが、鉄子が判らない、と言うと、鉄のことを、くろがね、とも呼ぶのよ、たしか、となんともあやふやな返答。まあつまり、色にちなんだ、ということらしい。

 それにしても、女の子だからといって、「子」にこだわる理由が判らないと、詰め寄った。なにより、環自身に「子」がついていない。

「え、だって、悠ちゃんも円ちゃんも一字だから」

 要するに、一文字の名前を考えた結果「子」を付けられなかったということらしい。

 春子とか桜子とか、雛子とかも考えたことは考えたらしい。が、一文字つながりの誘惑には勝てなかった、のだそうだ。

 ちなみに、父は、美咲だの、玲香だの、志穂だのを考えていたらしい。「子」は付かない。

 何がどうなって「環」に落ち着いたのかときけば、母に押し切られた、とのこと。母も、ふふん、と胸を張っていた。

 そこまで来ると兄たちの名前の由来も聞きたくなってくる。

「うーん」

 何故か母は唸った。

「男の子か女の子か判らない名前にしたかったんだよね」

「どうして?」

「実はあんまり意味はない」

 本当に、意味はなくて、ただそうしたかったから、らしい。

 つまり、適当だということだ。更に言うなら、兄二人についても、母が押しきったらしい。父的には、健太とか、明とか、一般的な名前しか考えてなかったようだ。

 環はともかく、兄二人は「ユウ」と読まれたり「エン」と読まれたり、結構苦労しているようだから、特に意味がないというのは、なかなか泣かせる話だ。

 結局、兄たちとそういう話をしたかどうかは覚えてないが、おそらく彼らは知っているのだろう。特に名前について話題が出た記憶がないのが、そう思う理由だ。

 影が伸びてきて、空気の色も夕暮れ色に染まってきている。そんな中をゆっくり歩きながら、鉄子を見る。子供の頃は、もっと可愛らしい名前にしたらいいのに、と思ったものだ。だが、今ではとても良い名前だと思っている。なにより、同じ名前の犬に出会ったことがないことがいい。名前を告げると一瞬驚かれるが、印象に残るのもいい。

「鉄子は、鉄子以外の名前が考えられないなあ」

 声に出してみると、鉄子がちらりと見上げてくる。それに微笑み返して、夕暮れの道を進んだ。


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