第1話:神谷町の雨と奈落の幕開け
本作は、「孤立無援の主人公サユリが、法律の知識だけを武器に巨大な陰謀へ挑む」という、乾いた緊迫感のリーガル・サスペンスです。
最先端のビル群と伝統芸能の息吹が交錯する街・東京「神谷町」を舞台に、一見バラバラに見える「クラリッツ法律事務所」「利益相反の壁」という要素が、緻密なパズルのように噛み合っていきます。
張り巡らされた罠と大人の知略戦を、どうぞお楽しみください。
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『神谷町コンスピラシー』
【登場人物】
中村 サユリ(なかむら さゆり):元「クラリッツ&NM」のエース弁護士。結婚後10年間、妻として家庭に埋もれていたが、夫の逮捕を機に極限の戦場へ引き戻される。
中村 マサヒロ(なかむら まさひろ):サユリの夫。「クラリッツ&NM」のネーム・パートナー。神谷町の頂点に君臨していたが、ある「ディスク」を巡り、国家の罠に落ちる。
エイミー・クラリッツ:シカゴ本部から送り込まれた絶対的権力者。法律を「冷徹な兵器」として扱う冷血な女王。
いとう かよこ:企業法務シニア・パートナー。数字と契約書だけを信じ、サユリの前に立ちはだかる「鉄の門番」。
松井 あさこ(まつい あさこ):離婚協議専門弁護士。一見華やかだが、裏社会や官僚の動向に最も精通する情報通。
有吉 マツコ(ありよし まつこ):民事・刑事オブ・カウンセル。国家権力を蛇蝎のごとく嫌う、凄腕の老獪なレジェンド弁護士。
市川 ノエル(いちかわ のえる):国家の通信網を揺るがす「AIセキュリティ」を開発した、若き天才経営者。
「本書(本作品)はフィクションです。作中に登場する人物、団体、名称、地名、事件などはすべて架空のものであり、実在するいかなる対象とも一切関係ありません。また、特定の思想・信条・宗教を支援または誹謗中傷する意図はございません。」
第1章:神谷町の雨と奈落の幕開け
東京タワーの赤い四肢が、低く垂れ込めた梅雨の雨雲に刺さっていた。
神谷町・麻布台エリアにそびえ立つ複合超高層ビル「神谷町タワー」の45階。
ガラスと黒大理石で構築された「クラリッツ&NM法律事務所」のフロアは、まるで巨大な宇宙船の内部のように静謐で、冷酷だった。
「サユリ。あなたのタイムチャージ(時間給)は1時間5万円に設定したわ。ブランクのある人間に払う額としては破格よ」
シニア・パートナーのエイミー・クラリッツは、仕立ての良いエルメスのスーツに身を包み、東京湾を見下ろす全面ガラスの窓を背にして言い放った。彼女のデスクの上には、今日の朝刊が広げられている。
『神谷町の超高層ビルから転落、IT企業の寵児・市川ノエル氏重体。殺人未遂容疑で弁護士・中村マサヒロ容疑者を逮捕』
サユリは10年ぶりに袖を通した既製服のジャケットの裾を小さく握りしめた。
「マサヒロの弁護チームに、私を加えてください。私は彼の妻であり、元々はこの事務所の刑事部門のエースでした」
「断るわ」
口を開いたのは、エイミーの隣に控えていた企業法務の鬼、いとうかよこだった。
かよこは冷たい銀縁眼鏡の奥の目を細め、分厚い契約書の束を叩いた。
「あなたがマサヒロの妻である以上、客観的な弁護は不可能。検察側から【利益相反】の申し立てを受ければ、事務所の信用は一発で消し飛ぶ。
あなたはマサヒロの事件、ひいては彼が担当していた『ノエル・システムズ』の案件に1ミリも触れてはならない。これは命令よ」
サユリは言葉を失った。夫が逮捕されたその日に、古巣であるはずの事務所は、自分を「人質」として監視下に置き、夫を切り捨てて「NM」の看板を外す準備を始めていたのだ。
自分のデスクにあてがわれた、窓のない狭い資料室。そこに現れたのは、離婚協議専門のシニア弁護士、松井あさこだった。彼女はサユリの前に、高級ホテルのテイクアウトコーヒーを置いた。
「サユリさん。マサヒロの逮捕、あれはただの殺人未遂じゃないわ。公安警察の裏組織が動いてる。マサヒロはね、市川ノエルが開発した『国家通信を全傍受できるAIシステム』の、政府系ファンドへの裏の資金洗浄を担わされていたのよ。
ノエルがそれを海外に売ろうとしたから、消された。マサヒロはその身代わりにされたの」
あさこの言葉に、サユリの背筋に冷たいものが走った。
国家レベルの闇が、自分のすぐ足元で口を開けていた。
【作中の技術的・法律的描写に関する免責事項】
本作に登場するサユリさん事務所の行為、およびサイバーセキュリティ、不正アクセスに関する描写は、すべて物語の演出上のフィクションです。
実際の「不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)」その他の法令に基づいた厳密な法的・技術的考証とは異なる場合があり、これら特定の違法行為を容認・推奨する意図は一切ございません。
あくまでエンターテインメントとしての社会派サスペンス、および「新橋のジャンヌ・ダルク」としてのドラマ性を重視した演出としてお楽しみいただけますと幸いです。




