12.それは二重の証拠
温室内でマリアとレヴィリアがお茶会を開いてから数時間後。
調合室で薬草の選別をしていた王室付き魔法使いマリアのもとに、アレン王子がやってきた。
「あら、殿下。ごきげんよう」
立ち上がったマリアは、両手で裾を摘まんで一礼をした。
「ここにいたのか。探したぞ」
薬草が入った大きな籠たちを避けたアレンがマリアの前まで歩み寄った。
「王宮の中庭に来てくれ」
「あら、何かございまして?」
「ああ。魔法使い……恐らくレヴィリアだ。彼女からの贈り物がきている」
「まぁ」
マリアは口許に手を当てて驚いた――振りをした。
贈り物は十中八九、あのブラッディ・ベアだろう。
アレンの様子からして、当人に会ったわけではないのだろうことも察した。
レヴィリアはどうにかこうにか、証拠品の押し付けに成功らしい。
「魔法が関連していると思われる。あなたに検分してもらいたい」
「すぐに参りますわ。しかし、どうして殿下が直々にこちらへ?」
王室付き魔法使いは身分制度の外にあるとはいえ、使用人に呼びつけさせても良かったはずだ。
マリアは何も知らない風を装いながら、穏やかに問いかけた。
今のアレンは側近すら連れていない――正確には調合室の外に待機させている。
つまり、ふたりきりでなければ話せないことがあるのだ。
そう察したマリアは、すぐには動き出さずにアレンを見上げた。
「他にも、お話があるのでしょう?」
「……あなたには敵わないな」
「ふふふ、殿下のことは御幼少の頃より存じておりますもの」
マリアの言葉に対してアレンは観念したように肩を小さくした。
「レティのことだ。……彼女は私との件について、承諾していると聞いた」
「ええ、そうですわ。お飾りの結婚相手になるという条件を飲んでおります。それが何か?」
マリアは緩やかに首を傾げた。
アレンに対しては、条件をクリアできる上に余計なことをしない娘を用意すると伝えた。
そして、レティもといレヴィリアに対しては、王子の望みを叶えるなら借金をチャラにすると伝えたのだ。
実際、王子は未だにレヴィリアにお熱で、妻であるレティを離宮に追い遣った。
一方のレヴィリアは、レティとして離宮の生活を満喫しようとしている。
今のところ問題は起きていないはずだ。
レティがレヴィリアであることを除けば。
対するアレンは少し迷ってから口を開いた。
「彼女は私のことを、どう思っているだろうか」
「と、言いますと?」
「いや……なんだ。私は彼女に不自由を強いている」
いいえ全くあの人は自由そのものですわ。
という言葉をマリアは飲み込んだ。
「政略結婚でさえない。互いの利益を最大化するための契約だ」
「……ええ、そうですわね」
言いたいことは色々とあったが、マリアは再び言葉を飲み込んだ。
「だが、私の都合ばかりを押し付けているのではないかと」
「ご心配でしたら、わたくしからお話を伺っておきましょうか?」
「ああ、そうしてくれると助かる。苦労をかけるな」
「とんでもございませんわ。殿下のためですもの」
にっこりと笑みを浮かべたマリアは、つい数時間前に会ったレヴィリアのことを思い浮かべた。
都合の押し付けは確かにその通りだ。
だが、レヴィリアは押し付けられた都合を最大限に利用している女。
ある意味で相性は良い。
アレンの想い人がレティの正体でなければ、だが。
「それと、もうひとつ」
アレンは真剣な眼差しでマリアを見据えた。
「レヴィリアの贈り物から、レティと同じ香りがした」
「……はい?」
「恐らくは石鹸の香りではないかと思う。調べてくれないか」
「……はい??」
マリアは頬を引き攣らせた。
証拠を残してしまったレヴィリアにも、香りに気づくアレンにも、言いたいことは山ほどあった。




