11.ふたりの魔法使い
王宮の最奥にある王室付き魔法使いが住まう棟。
本来は異なる時期に花を咲かせる植物たちが、一斉に咲き誇っている不可思議な温室。
その温室の中央にあるテーブルセットでは、ふたりの魔法使い――私、レヴィリアとマリアが対峙していた。
「嫌ですわ」
「そこをなんとか!」
心底嫌そうに眉を寄せるマリアに、私は必死で両手を合わせた。
「嫌だと言ったら嫌ですわ。あなたご自身で引き渡してくださいな」
「そういうわけにもいかないんだってー」
「わたくしも、そういうわけにはいきませんの」
つんとそっぽを向いたマリアは、冷めかけているお茶の入ったカップを持ち上げた。
「お願いよ。レヴィリアから託されたってことにして、このブラッディ・ベアを王子に渡してくれるだけでいいの」
「だから、それを嫌だと言っておりますの」
「どうしてよ!」
耐え切れずにテーブルを叩いてしまった。
ガシャン! と、ティーカップ達が揺れる。
「わたくし、魔法使いレヴィリアとは知人ではないということにしておりますの」
紅茶を飲んだマリアの眼差しが鋭くなった。
「繋がりがあると知られてしまったら、王子がしつこく詮索してくるに決まっておりますわ」
「でも、そこをなんとか!」
食い下がった。
ブラッディ・ベアを回収したところは王子に目撃されている。
だから、しれっと証拠品として放置するわけにはいかない。出元を探られる。
そして王子が、外交に関係する案件でブラッディ・ベアを求めている。
だから、証拠隠滅をしてしまうのは申し訳ない――という気持ちはあった。
問題は、どうやって渡すか。
「なんとか? なんともなりませんわ」
マリアは冷たく言い放った。
「王子に目撃されたのは、あなたの落ち度でしてよ」
「それはそうなんだけど」
「こちらがあの夜の魔物ですと、一言残して立ち去れば良いでしょう?」
「そんなことしたら、私のところに正式な申し込みが来ちゃうかもしれないじゃないのー」
「自分で蒔いた種ですわ。自身でどうにかなさい」
撃沈。
取り付く島もないマリアの様子に、私はしょんぼりと肩を落とした。
既に王室付きになっている魔法使いであるマリアから渡してほしかった。
そうすれば、自分は矢面に立たず、それでいて王子が求めるブラッディ・ベアを引き渡せる。
「仮に正式な申し込みが来たとして、あなたは困りますの?」
マリアは呆れた調子で言った。
「あなたに王室付きになる気がないのなら、きちんとお断りすれば良いでしょう?」
「そ、そうだけど」
「まさか、正式なお断りを手間に感じておりますの?」
「……はい」
「呆れて何も言えませんわ」
深い溜め息をついたマリアの様子に、とうとう居た堪れなくなった。
確かに色々と押し付けようとしている自覚はある。
だから、そろそろ引こうかと考え、カップに口をつけた。
「わたくしが、どうしてあなたを花嫁探しに参加させたのか――お分かり?」
思いがけない言葉をかけられて、きょとんと目を丸くして顔を上げる。
ある日、私とマリアは賭けをしていた。
私は賭けに負けたけど、既に借金が膨れ上がっていてちょっとやそっとでは返せそうにもなかった。
お金を払えない私に対して、マリアは言った。
第二王子の花嫁探しが始まりますわ。その宴に参加なさい。そして王子の望みを叶えなさい――
「……あれって、もう叶ってない?」
つい首を傾げた。
第二王子であるアレンの花嫁探しは、確か王妃が望んだことだ。
そして、アレン当人は乗り気ではなかった。
それでわざわざ、ただの小娘に変装して結婚をして、今は無事に白い結婚のまま。
王子が望んだのは結婚そのものであって、夜の生活どころか夫婦らしいことは何もない。
離宮で悠々自適研究ライフは願ったり叶ったりだったから良かったものの、王子の求め自体はなかなか横暴だった。
私の言葉に、マリアは上品な顔立ちを歪めた。
「これ以上は言いません。きちんと、叶えて、差し上げなさい」
マリアからのヒントがないことには、どうしようもない。
私は、『王子の望み』とは何かを考えながら、紅茶を啜るしかなかった。




