10.もしかして、詰んだ?
隣国の実験体?
これが?
私は私室に戻って、すぐにブラッディ・ベアを引っ張り出した。
確かに通常個体よりも大きい。
体格は良し。状態も良し。
でも、これだけでは何とも言えない。
「……嘘吐かれた?」
そうは思ったけれど、王子が私に嘘を吐く理由もない。
レティのことをレヴィリアだと疑っているのならまだしも。
今のところは、そんな気配だって特になかった。
(……どうする?)
今すぐ「ここにありますわ」と差し出せば、王子としては助かるに違いない。
でもだめ。バレる。さすがにバレる。
王子に「どうやって手に入れた?」とか詰問されちゃう。
最悪、私が隣国のスパイとか言われかねない。
そうなったらマリアのことも巻き添えにしてやる。
さすがに「気づいたら部屋にありました!」はない。
そうなったら、それこそ使用人たちが咎められてしまいそう。
むしろ、速攻クビを切られてもおかしくない。物理的に。
一番良いのは、マリアに押し付けて「討伐したのは私です」と言わせること。
なんだけど。
「見られてるのよねぇ……」
昨日の目撃が痛い。
どの戦略も一手で潰してくる破壊力。
昨日の時点でマリアの振りをしてやれば良かった。
そうしたら、少なくともこれを差し出すことで私は正体がバレず、マリアは株が上がる。はず。
私の正体が魔法使いであることはバレたくない。
そうなったら、レティとしてのこの離宮生活はなくなってしまう。
それどころか、王室付きになってくれとか言われかねない。
正式に断るにしても手順が面倒くさい。あんな書類いっぱい書きたくない。
そもそも、そんなことになったら研究どころではなくなる。
(詰んだ……?)
いや、まだだ。まだイケる。
ええっと、整理しよう。
重要なのは、私――レティがレヴィリアだとバレないこと。
そして、レヴィリアとして王子に接触しないようにすること。
レヴィリアがこのブラッディ・ベアを持ち帰った様子は見られてる。
「……あれ?」
そうなったら、あれじゃないの。
魔法使いレヴィリアが隣国のスパイだと思われない? 大丈夫?
「……」
王室スカウトどころか、指名手配魔法使いになってしまう。
それは良くない。だめすぎる。
えっと、そうなってくると。
(レヴィリアがこの国のために動いたように見せる方が良い……?)
ブラッディ・ベアを前にしてしばらく屈み込んでいた私は、一息をついて立ち上がった。
王室付き魔法使いマリアに会いに行こう。それしかない。




