表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/70

第46話 仕入れ封鎖を突破


「リリアーナ様、緊急事態です!」


朝一番、ゼルドが青ざめた顔で駆け込んできた。透明性戦略で情報戦に勝利してほっとしていたのに、今度は何?


「どうしたの?」


「仕入れ業者が...軒並み取引停止を通告してきました」


「え?全部?」


「はい。メインの3社、サブの2社、すべてです」


そんな...一斉に取引停止なんて、明らかに組織的な圧力ね。


「理由は?」


「『上からの指示で』『申し訳ないが仕方がない』『会社の方針として』...みんな歯切れが悪くて」


やっぱりヴェルナー商会の仕業ね。情報戦で敗北したから、今度は物流を止めて兵糧攻めにするつもりでしょう。


「在庫はどのくらい持つ?」


「現在の売上ペースだと、3日が限界です」


3日!?それは深刻な事態よ。


「このままでは営業できなくなってしまいます...」


ミアが不安そうに言う。確かに、商品がなければ店は開けられない。


でも、ちょっと待って。これは本当にピンチなのかしら?


◇◇◇


「みんな、落ち着いて考えてみましょう」


私はスタッフを集めて緊急会議を開いた。


「確かに仕入れルートが断たれたのは事実。でも、これは逆にチャンスかもしれないわ」


「チャンス?」


ロウが首をかしげる。


「そう。今まで中間業者に頼り切っていたけれど、この機会に生産者と直接契約してみない?」


実は以前から考えていたアイデア。中間業者を通すと、どうしてもマージンが発生して価格が高くなる。生産者と直接取引できれば、コストダウンできるはず。


「でも、個別に契約するのは大変ですよ」


ゼルドが心配そうに言う。


「確かに手間はかかるけれど、長期的には絶対にメリットがある」


前世の記憶では、大手スーパーなどは生産者直契約で大幅なコストダウンを実現していた。


「それに、生産者との距離が近くなれば、品質向上も期待できるわ」


「なるほど...」


「ミアの父親のトーマスさんとは既に契約しているし、成功事例もある」


そうよ、すでに基盤はあるのよ。これを拡大すればいい。


「よし、やってみましょう!」


◇◇◇


まず手始めに、近隣の農家を回ることにした。


「トーマスさん、お忙しいところすみません」


ミアの父親の畑を訪問。


「おお、リリアーナさん。どうしたんだい?」


「実は、直接契約を拡大したくて。他の農家さんにも声をかけたいのですが、紹介していただけませんか?」


「それはいいアイデアだね。中間業者を通すより、お互いにとって良いはずだ」


トーマスさんが快く協力してくれる。やはり、生産者にとっても直接取引はメリットが大きいのね。


「じゃあ、まずはヨハンさんのところに行ってみよう」


◇◇◇


ヨハンさんの農場で、詳しく事情を説明した。


「なるほど、中間業者が取引停止したと」


「はい。でも、これを機に生産者の皆さんと直接お取引したいと思っています」


「それは面白いアイデアだね」


ヨハンさんが興味深そうに聞いている。


「具体的な条件は?」


「市場価格の1.2倍で買い取ります。ただし、品質基準をクリアしていることが条件です」


「1.2倍!?それは破格だね」


「中間マージンがない分、生産者にも還元したいんです」


「Win-Winの関係ということですね」


「その通りです」


ヨハンさんが即座に契約を決めてくれた。


「ぜひお願いします。他の農家にも声をかけてみますよ」


◇◇◇


1日で5軒の農家と契約成立。でも、配送が問題ね。


「個別に取りに行くのは非効率ですね」


ゼルドが指摘する。確かに、5軒の農家を個別に回っていたら、配送コストが膨大になる。


「共同配送はどうかしら?」


「共同配送?」


「そう。複数の農家の商品をまとめて運ぶシステム」


これも前世の記憶にあるアイデア。効率的な物流システムの基本。


「農家の皆さんに集積地点を作ってもらって、そこから一括で運ぶ」


「なるほど、それなら効率的ですね」


「それに、農家同士の連携も深まるでしょう」


◇◇◇


翌日、農家の皆さんを集めて共同配送の提案をした。


「みんなで協力すれば、配送コストを大幅に削減できます」


「具体的には?」


「村の中央に集積所を作り、そこに各農家の商品を集める。私たちが一括で引き取りに行きます」


「それは効率的だね」


「配送コストが下がれば、その分を買取価格に上乗せできます」


農家の皆さんの目がキラキラ輝いている。


「じゃあ、古い倉庫を集積所にしようか」


「配送スケジュールはどうする?」


「週3回、定期便でお願いします」


あっという間に共同配送システムが決まった。


◇◇◇


川沿いの漁師組合にも足を運んだ。


「魚も直接取引できませんか?」


「魚は鮮度が命だからなぁ...」


組合長が難しい顔をする。


「氷の魔道具で鮮度保持します。朝獲れた魚を、その日の夜には店頭に」


「そんなに早く?」


「ゼルドの配送網なら可能です」


ゼルドが自信を持って答える。


「新しいルートを開拓して、最短2時間で配送できます」


「2時間!?それなら鮮度も保てるな」


漁師組合とも契約成立。これで海の幸も確保できた。


◇◇◇


新しい仕入れシステムが稼働して1週間。結果は驚異的だった。


「コスト、なんと25%削減です!」


ゼルドが興奮して報告する。


「中間マージンがなくなった効果ですね」


「それだけじゃないわ。品質も格段に向上している」


確かに、生産者との距離が近くなったことで、より新鮮で良質な食材が手に入るようになった。


「お客さんからも好評です」


ミアが嬉しそうに言う。


「『最近、野菜が特に美味しい』『魚の鮮度が抜群』って」


生産者の顔が見える商品は、やはり品質が違う。


「トーマスさんも喜んでました。『直接取引だと、お客さんの反応が分かって嬉しい』って」


それもWin-Winの効果ね。生産者のモチベーションも上がっている。


◇◇◇


そんな時、元の仕入れ業者の一人が店を訪ねてきた。


「リリアーナさん、お話があります」


元々取引していた業者の一人、マーチンさん。


「どうされました?」


「実は...取引再開をお願いしたくて」


「取引再開?」


「圧力があって仕方なく取引停止したんですが、やはり良いお客さんを失うのは痛くて」


マーチンさんが頭を下げる。


「お気持ちは嬉しいですが...」


「条件は今までより良くします。価格も下げますし、配送も柔軟に対応します」


でも、もう新しいシステムが軌道に乗っているのよね。


「申し訳ありませんが、もう生産者直契約に切り替えました」


「そうですか...」


マーチンさんが残念そうな顔をする。


「でも、新しいシステムの方が、コストも品質も上なんです」


「まさか...そんなに違うものなんですか?」


「25%のコストダウンと、品質の大幅向上を実現しました」


「25%も!?」


マーチンさんが驚愕している。


「中間マージンがないと、こんなに違うものなんですね...」


そう、これが生産者直契約の威力。


◇◇◇


新システムから1ヶ月後、驚くべき変化が起きていた。


「他の店からも相談されてるんです」


ゼルドが報告する。


「共同配送システムを利用したいって」


「本当に?」


「はい。私たちが作った配送網が評判になって、『うちも参加させて』という要望が次々と」


これは予想外の展開ね。


「配送効率を更に上げるチャンスですね」


「そうね。規模が大きくなれば、更にコストダウンできる」


「物流ハブとして機能し始めてるということですね」


そう、単なる仕入れ先変更が、物流革命につながっている。


「ヴェルナー商会の攻撃が、逆に新しいビジネスモデルを生んだということですね」


◇◇◇


その夜、一人で今回の出来事を振り返っていると、深い満足感が湧いてくる。


仕入れ封鎖という危機が、結果的に大きなチャンスになった。コストダウン、品質向上、そして新しい物流システムの構築。


「敵の攻撃で逆に強くなった」


これは逆転の論理ね。相手の攻撃を利用して、より良いシステムを構築する。


「ピンチはチャンス」とはよく言ったものだわ。


でも、これは偶然じゃない。常に改善を考えていたから、危機をチャンスに変えることができた。


「次はどんな攻撃が来るかしら?」


でも、もう怖くない。どんな攻撃でも、それを利用して更に成長してやる。


窓の外を見ると、村の配送トラックが新鮮な食材を運んでいく。新しい物流システムが、もう村の一部として機能している。


ヴェルナー商会は私たちを潰そうとして攻撃してきたけれど、結果的に私たちを強くしてくれた。


「ありがとう、ヴェルナー商会」


皮肉な感謝の気持ちを込めて、夜空にそっとつぶやいた。


◇◇◇


翌週、さらに驚くべき展開が待っていた。


「リリアーナ様、王都新聞の記者が取材に来てます」


「また取材?今度は何について?」


「新しい物流システムについてです」


なるほど、共同配送システムが注目されているのね。


記者との面談で、詳しく事情を説明した。


「仕入れ封鎖をきっかけに、生産者直契約システムを構築したと」


「はい。結果的に大幅なコストダウンと品質向上を実現しました」


「これは画期的ですね。従来の流通システムに一石を投じる革新です」


記者が興奮している。


「他の商店にも影響を与えているとか」


「共同配送システムに参加したいという要望が増えています」


「つまり、新しい物流インフラが生まれつつあると」


「そうですね。より効率的で、生産者にも小売業者にも有利なシステムです」


翌日の新聞記事は、私たちの物流革命を大きく取り上げ、「新時代の流通システム」と評価した。


これで、ヴェルナー商会の攻撃は完全に裏目に出たことになる。彼らが私たちを潰そうとした結果、より強力で革新的なシステムが生まれてしまった。


「まさに『敵の攻撃で逆に強くなった』ですね」


ゼルドが感慨深げに言う。


「そうね。でも、これで終わりじゃない。この新システムを更に発展させていきましょう」


物流革命はまだ始まったばかり。これから更に大きな変化を起こしてやる。


ヴェルナー商会の皆さん、次の攻撃もお待ちしてますよ。どんな攻撃でも、私たちの成長の糧にしてやるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ