第37話 王都の目
「申し訳ございません、突然お邪魔いたします」
夕方の準備時間中、見慣れない立派な馬車が店の前に停まり、格式高い服装の男性3人が現れた。
「いらっしゃいませ」
ミアが丁寧に応対する。
「王都商業ギルドの者です。視察のため参りました」
中央の男性が身分証を提示する。
『突然の来訪者』
私の心臓が高鳴る。王都の商業ギルドとは、商業界の最高権威。
「商業ギルドの視察ですって?」
私が慌てて前に出る。
「はい。噂の夜営業店舗を拝見したく」
「王都からわざわざ...恐縮です」
『王都からわざわざ』
◇◇◇
「緊張するっす」
ロウが小声で言う。
「大丈夫よ。私たちは正しいことをしてきました」
私がスタッフを落ち着かせる。
「堂々としていましょう」
視察団の3人は、それぞれ専門分野が違うようだった。
「私はマーカス、経営分析担当です」
「エドワード、市場調査担当です」
「ルシウス、政策立案担当です」
『専門家チームによる本格視察』
「それぞれの専門分野から、詳しくお話を伺えればと思います」
マーカスが説明する。
◇◇◇
「まず、営業データを拝見できますでしょうか?」
マーカスが経営分析の立場から質問する。
「もちろんです」
私が帳簿を取り出す。
「売上、回転率、利益率...どちらから?」
「すべてお聞かせください」
『営業データの開示』
「月商:15,000銅貨」
「在庫回転率:週3.2回転」
「粗利益率:35%」
「客数:平均180人/日」
「リピート率:87%」
数字を読み上げると、視察団の表情が変わった。
◇◇◇
「この数字は...本当ですか?」
マーカスが驚愕している。
「はい。帳簿をご確認ください」
私が自信を持って答える。
「在庫回転率3.2回転というのは...」
「王都の一流店でも2.5回転程度なのに」
『視察団の驚愕』
「それに、この利益率は驚異的です」
エドワードも興奮している。
「通常の店舗の1.5倍近い数字」
「なぜこれほど高い数字が出せるのでしょうか?」
ルシウスが本質的な質問をする。
◇◇◇
「深夜営業の意義を説明させていただきます」
私がプレゼンテーションを始める。
「この時間帯には、確実に需要があるんです」
「具体的には?」
「夜勤の衛兵、深夜作業の職人、出発前の冒険者...」
「彼らは従来、干し肉と水で我慢していました」
『潜在需要の可視化』
「でも、温かい食事と安心できる場所を提供すれば」
「喜んで適正価格を支払ってくれます」
「なるほど...未開拓市場への参入ですね」
マーカスが理解する。
「それに、競合がないため価格競争もない」
◇◇◇
「理論は分かりましたが、実際の様子を拝見したいのですが」
エドワードが実地調査を要求する。
「もちろんです。営業時間まで少々お待ちください」
「それまでの間、システムについてご説明いたします」
私が店内を案内する。
『実際の営業見学への準備』
「こちらが効率化された厨房」
「動線を最適化して、処理能力を倍増させました」
「予備設備も万全で、停電などの緊急時にも対応可能」
「素晴らしい...」
視察団が感心している。
◇◇◇
夜営業開始の時間。
「それでは実際の営業をご覧ください」
私が案内する。
店内に明かりが灯ると、待ちかねた常連客が次々と来店し始める。
「これが噂の夜営業か」
ルシウスが興味深そうに見つめる。
『実際の営業風景』
「いらっしゃいませ」
ミアが明るく声をかける。
「今夜もお疲れ様です」
常連のハンスに自然に声をかけている。
「いつものおでんセットですね」
「ああ、頼む」
『客との自然な交流』
◇◇◇
「お客様との関係が非常に良好ですね」
エドワードが観察結果を述べる。
「単なる取引ではなく、コミュニティとして機能している」
「そうです。お客様一人一人を大切にしています」
私が説明する。
「名前を覚え、好みを把握し、困った時はサポートする」
「本当に愛されている店だ」
マーカスが感動している。
『顧客との深い信頼関係』
次々と来店する客を見て、視察団の評価が変わっていく。
「これほど自然に客が集まるとは」
「しかも皆、満足そうな表情をしている」
「リピート率87%も納得です」
◇◇◇
「特に興味深いのは客層の多様性ですね」
ルシウスが分析する。
「衛兵、冒険者、職人、農民...職業も年齢もバラバラ」
「でも皆、同じ空間で和やかに過ごしている」
「それが夜営業の魅力の一つです」
私が説明する。
「昼間は職業や立場で分かれている人たちが」
「夜は同じ客として、自然に交流できる」
『社会統合の場としての機能』
「これは...社会政策の観点からも重要ですね」
ルシウスが政策担当らしい視点で評価する。
「階級を越えた交流の場を提供している」
◇◇◇
営業が本格化すると、さらに驚きの光景が。
「この回転の速さは何ですか?」
マーカスが驚愕する。
注文から提供まで2分、食事時間は平均15分、次の客への対応も流れるよう。
「効率化の成果です」
私が説明する。
「動線設計、メニュー構成、スタッフ訓練...すべてを最適化しました」
『圧倒的な効率性』
「この効率なら、確かに高い回転率も実現できる」
「それに、客の満足度も損なわれていない」
エドワードが舌を巻く。
「むしろ、スピーディなサービスに満足している」
◇◇◇
深夜1時頃、視察団が総括を始めた。
「想像以上の成果ですね」
マーカスが率直に評価する。
「数字だけでなく、実際の運営も見事」
「王都でも需要があるはずです」
エドワードが市場性を評価する。
「むしろ王都の方が、夜勤者の数は多い」
『王都での需要可能性』
「政策的にも支持できる事業です」
ルシウスが政治的観点から評価する。
「雇用創出、治安改善、社会統合...すべてにメリットがある」
「ありがとうございます」
私が感謝する。
◇◇◇
「実は、ご提案があります」
マーカスが重要な話を切り出す。
「ぜひ王都でも展開していただけませんか?」
『進出への打診』
私の心臓が大きく跳ねる。ついに来た、王都進出への誘い。
「王都で?」
「はい。私たちが全面的にサポートします」
「営業許可、店舗確保、初期投資...すべてバックアップします」
『全面的なサポート体制』
「ただし、条件があります」
エドワードが付け加える。
「このスノーベル村での成功事例を、そのまま再現していただきたい」
「品質、サービス、理念...すべてを王都でも」
◇◇◇
「少し時間をいただけますか?」
私が慎重に答える。
「これは重大な決断ですので」
「もちろんです」
マーカスが理解を示す。
「ただし、私たちの熱意だけはお伝えしたい」
「この事業モデルは、必ず王都でも成功します」
『確信に満ちた評価』
「それに、業界全体への影響も計り知れない」
ルシウスが大きな視点で語る。
「夜営業という新しいスタンダードを作ることになる」
「光栄です」
私が素直に感動を表す。
◇◇◇
翌朝、視察団が帰る前に最後の話し合い。
「一晩じっくり観察させていただきました」
マーカスが総括する。
「結論として、このモデルは完璧です」
「売上、効率、顧客満足、社会貢献...すべてが高水準」
「王都でも確実に成功するでしょう」
『最終的な高評価』
「私たちも、ぜひ王都進出を検討させていただきます」
私が前向きな姿勢を示す。
「ただし、このスノーベル村での事業を犠牲にするわけにはいきません」
「当然です」
エドワードが同意する。
「むしろ、ここを本店として残していただきたい」
◇◇◇
「それでは、この書類をお渡しします」
ルシウスが正式な文書を手渡す。
「王都商業ギルド推薦状です」
「これがあれば、王都での営業許可は確実に取れます」
『王都進出への切符』
「ありがとうございます」
私が感謝を込めて受け取る。
重い責任と、大きな可能性を感じる。
「必ずやご期待にお応えします」
「楽しみにしています」
マーカスが握手を求める。
「王都で再会しましょう」
◇◇◇
視察団が去った後、スタッフと興奮を分かち合った。
「ついに王都からの注目ですね」
ミアが喜んでいる。
「王都進出が現実的になってきたっす」
ロウも興奮している。
「でも、責任も重大です」
私が身の引き締まる思いを伝える。
『次のステージへの入り口』
「王都は全く別の市場」
「競合も多いし、客のレベルも高い」
「でも、私たちならできると思います」
ミアが自信を見せる。
「これまでの実績がそれを証明してます」
◇◇◇
その日の夜営業で、常連客にも報告した。
「王都の商業ギルドが視察に来てくれました」
「おお、それはすごいじゃないか」
ハンスが驚く。
「王都進出の話もいただきました」
「それは...複雑だな」
ベルトが心配そうに言う。
「ここの店がなくなるのは困る」
『常連客の不安』
「大丈夫です。ここは絶対に続けます」
私が安心させる。
「ここが私たちの原点ですから」
「それなら良かった」
客たちが安堵する。
「でも王都でも頑張ってくれ」
◇◇◇
一人になった私は、推薦状を見つめていた。
『王都商業ギルド推薦状』
重みのある羊皮紙に、金の封印が押されている。
これが王都進出への切符。
長い間夢見ていた、大きなステージへの招待状。
『ついに王都からの注目』
でも、浮かれてはいけない。
王都は厳しい市場。
中途半端な気持ちでは成功できない。
◇◇◇
視察団の評価を思い返す。
「この事業モデルは完璧」
「王都でも確実に成功する」
「業界全体への影響も計り知れない」
専門家からの高い評価。
でも、評価と実際の成功は別物。
『期待と責任のプレッシャー』
それでも、挑戦してみたい。
スノーベル村で培ったノウハウを、
より大きな舞台で試してみたい。
◇◇◇
窓の外を見ると、いつものように村人が歩いている。
この村での成功があったからこそ、
王都からも注目された。
『原点を忘れずに』
どんなに大きくなっても、
この村での理念は変えない。
お客様第一、社会貢献、Win-Winの関係。
これこそが私たちの強みだから。
◇◇◇
推薦状を大切にしまいながら、
私は決意を新たにした。
王都進出は魅力的な提案。
でも、慎重に検討して、
準備万端で臨みたい。
『次なる挑戦への準備』
成功の秘訣は、準備にある。
視察団も、私たちの準備の良さを評価してくれた。
王都でも同じように、
完璧な準備で臨もう。
今夜も、王都の目が見つめている。
期待を裏切らないよう、
今日も最高のサービスを提供しよう。