第34話 夜祭りふたたび、外敵登場
「もうそんな時期ですね」
ミアが暦を見ながらつぶやく。
「第二回夜祭りが来月ですよ」
「あら、もう一年経ったのね」
私が感慨深く答える。
昨年の夜祭りでは初出店で大成功を収めた。あれから村の夜営業は完全に定着し、私たちの店も大きく成長した。
「今年も出店しましょう」
私が提案する。
「もちろんです!」
ミアが嬉しそうに答える。
「去年は大成功でしたからね」
「今年はどんなメニューにするっすか?」
ロウも興味深そうに聞く。
『第二回への期待』
◇◇◇
「昨年は焼き串とスープでしたね」
ミアが振り返る。
「今年はもっと豊富なメニューで挑戦しましょう」
私が計画を練る。
「肉まん、おでん、新おにぎり、それに祭り限定メニューも」
「祭り限定メニュー?」
「特別な炊き込みご飯とか、季節の野菜を使った温かいスープとか」
『昨年を上回る充実したラインナップ』
「楽しみっすね」
ロウが興奮している。
「でも、今年は他の店も夜営業を始めてるから、競争が激しそうですね」
ミアが心配そうに言う。
「競争は歓迎よ。切磋琢磨して、みんなでレベルアップしましょう」
◇◇◇
夜祭り当日の夕方。
「準備完了です」
ミアが報告する。
屋台には色とりどりの料理が並び、温かい湯気が立ち上っている。
「今年も大勢の人が来てくれそうですね」
私が会場を見回す。
昨年以上の賑わいで、村人も他村からの来訪者も大勢集まっている。
「あら?」
ミアが困惑した声を上げる。
「どうしたの?」
「あちらに見慣れない豪華な屋台が...」
『予想外の出店者』
◇◇◇
「何だあの立派な屋台は」
会場の人々もざわめいている。
見ると、普通の村の屋台とは格が違う豪華な設備の露店が設営されている。
「『王都商会直営・格安販売』...」
私が看板を読み上げる。
「王都から来たんですね」
ミアが驚く。
「でも、なぜわざわざこんな辺境の祭りに?」
『王都商会の露店が突然参戦』
そして、その価格設定を見て愕然とした。
「肉まん:2銅貨」
「おでん:1銅貨」
「おにぎり:1銅貨」
私たちの価格の半分以下だった。
◇◇◇
「明らかな価格破壊ですね」
ミアが困った顔をする。
「原価割れしてるのでは?」
「そうね。これは商売というより、何か別の目的がありそう」
私が分析する。
『ヴェルナー商会の嫌がらせの可能性』
王都商会の係員が大声で宣伝している。
「格安で販売します!どこよりも安い!」
「王都の味を格安で提供!」
早速、価格に引かれた客が集まり始める。
「リリアーナ様、どうしましょう?」
ミアが不安そうに聞く。
◇◇◇
「値下げ競争はしません」
私が断言する。
「え?でも...」
「私たちは質で勝負します」
私が経営哲学を語る。
「価格競争に巻き込まれたら、誰も幸せになれない」
『値下げ競争は拒否』
「でも、お客さんが向こうに流れちゃいそうっす」
ロウが心配する。
「大丈夫。本当に良いものを求めるお客様は、必ず戻ってきます」
「そのために、今日は特別なサービスを用意しましょう」
◇◇◇
「試食サービスを強化します」
私が作戦を説明する。
「まず味を知ってもらいましょう」
「味で違いを感じてもらえれば、価格以上の価値を理解してもらえます」
「なるほど!」
ミアが理解する。
「それに、温かいサービスも大切」
「笑顔とおもてなしが私たちの武器よ」
『質とサービスで差別化』
「了解っす!俺たちの本領発揮っすね」
ロウが意気込む。
「みんなで力を合わせて、本当の価値を伝えましょう」
◇◇◇
「いらっしゃいませ!まずは味見からどうぞ」
私たちが試食サービスを開始する。
「あ、試食できるの?」
興味を示した客が立ち寄る。
「はい。こちらが自慢の肉まんです」
ミアが温かい肉まんを切り分けて提供する。
「おお...これは」
一口食べた客の表情が変わる。
「すごく美味しい!皮がふわふわで、中の餡も濃厚」
『味の違いを実感してもらう』
「こちらがおでんです」
今度は私が出汁のきいたおでんを提供する。
「この出汁...何だこの深い味は」
客が感動している。
◇◇◇
「向こうの安い店で買ったけど...」
王都商会の露店で購入した客が戻ってくる。
「なんか味が薄くて、物足りないのよね」
「こちらで試食させていただけますか?」
「もちろんです」
ミアが笑顔で応対する。
「あら、全然違う!こっちの方が断然美味しい」
『やっぱりこっちの方が美味しい』
「値段は少し高いけど、この美味しさなら納得です」
「ありがとうございます」
私たちが心を込めて接客する。
◇◇◇
一方、王都商会の露店では...
「安いのは嬉しいけど、味がちょっと...」
「なんか手抜きされてる感じがする」
「店員さんも愛想がないし」
客足が伸び悩んでいる。
『安いだけじゃダメなのか』
商会の係員が困惑している。
「なぜあちらに客が戻っていくんだ?」
「価格では圧倒的に勝ってるのに」
「わからん...」
◇◇◇
夜が更けるにつれ、客の流れが明確になってきた。
「最初は価格に引かれて向こうに行った人も」
ミアが観察を報告する。
「結局こちらに戻ってきてますね」
「そうね。一度食べ比べれば、違いは歴然」
私が満足そうに言う。
「それに、私たちの接客を体験すると、温かさの違いも分かってもらえる」
『温かいサービスの効果』
「笑顔で『ありがとうございます』って言われると、嬉しくなりますもんね」
ロウが実感を込めて言う。
「お客様も人間だから、心のこもった接客に価値を感じてくれる」
◇◇◇
祭りの終盤、王都商会の係員が私たちの屋台にやってきた。
「すみません、少しお話を」
中年の男性が申し訳なさそうに声をかける。
「はい、何でしょうか?」
私が応対する。
「実は、負けを認めに来ました」
「負け?」
「価格では圧倒的に勝っていたのに、お客様は皆さんの方を選んだ」
『商会側の敗北宣言』
「なぜなのか、教えていただけませんか?」
◇◇◇
「価格だけでは、お客様の心は掴めません」
私が丁寧に説明する。
「大切なのは、商品の質とサービスの心です」
「質とサービス...」
係員が考え込む。
「お客様は、単に安いものを求めているわけではありません」
「本当に価値のあるもの、心のこもったサービスを求めているんです」
『価値重視の経営哲学』
「なるほど...勉強になります」
係員が深く頭を下げる。
「私たちは価格しか見ていませんでした」
「お客様の気持ちを考えていなかった」
◇◇◇
「今からでも遅くありません」
私が励ます。
「お客様のことを第一に考えて商売をすれば、必ず良い結果が出ます」
「ありがとうございます」
係員が感謝する。
「今日は貴重な教訓をいただきました」
「王都に戻ったら、経営方針を見直します」
『敵も味方に変える器の大きさ』
「頑張ってください。応援しています」
私が心から応援する。
「商売は競争ではなく、お客様の笑顔を作ることが目的ですから」
◇◇◇
夜祭り終了。片付けをしながら振り返る。
「今年も大成功でしたね」
ミアが嬉しそうに言う。
「王都商会との勝負も、圧勝でした」
「価格競争に巻き込まれずに済んで良かったっす」
ロウも満足している。
『圧勝で祭り終了』
「でも、一番良かったのは...」
私が続ける。
「お客様が私たちの価値を理解してくれたこと」
「値段じゃない、価値で選んでもらえた」
『質の高さが評価された』
◇◇◇
「今日の売上はどうでしたか?」
ミアが集計を報告する。
「昨年の1.5倍です」
「1.5倍?」
「はい。客単価も上がってます」
「質の高いサービスを提供したら、お客様もそれに見合った対価を払ってくれたんですね」
『価値に見合った価格設定の正しさ』
「そうよ。適正な価格で、適正な価値を提供する」
「それが持続可能な商売の基本」
「勉強になりました」
ロウが感心している。
◇◇◇
翌朝、嬉しい知らせがあった。
「リリアーナ様、昨夜の王都商会の方から連絡が」
ミアが伝える。
「どのような?」
「『昨夜の教えを胸に、心のこもった商売を始めました』って」
「そうなんですか」
「『お客様の笑顔が見られるようになりました』とも」
『敵も改心して良い商売へ』
「それは素晴らしいことね」
私が微笑む。
「みんなが良い商売をすれば、業界全体が良くなる」
「競争より共存共栄の方が、みんな幸せになれる」
◇◇◇
その日の夜営業で、常連客から感想を聞いた。
「昨夜の夜祭り、すごかったな」
ハンスが言う。
「王都の店と食べ比べたけど、全然違った」
「どのように違いましたか?」
「まず味が段違い。それに、君たちの接客は心がこもってる」
「向こうは機械的で、愛想もなかった」
『お客様からの評価』
「値段は高くても、君たちの方が絶対いい」
ベルトも同意する。
「安いだけじゃダメなんだな、って実感した」
◇◇◇
「今回の経験で、改めて確信しました」
私がスタッフに話す。
「私たちの経営哲学は正しい」
「価格競争ではなく、価値競争」
「お客様の笑顔と満足を第一に考える」
『経営哲学の確立』
「はい。今日のお客様の笑顔を見て、それがよく分かりました」
ミアが同意する。
「値段じゃない、価値で選ばれる店になりましたね」
「そうっす。俺たちの本当の価値を理解してもらえた」
ロウも満足している。
◇◇◇
一人になった私は、今回の夜祭りを振り返っていた。
突然の価格攻撃。
しかし、私たちは価格競争に巻き込まれることなく、
質とサービスで真っ向勝負した。
結果は圧勝。
お客様は確実に価値を理解してくれる。
『値段じゃない、価値で選ばれる店』
それが私たちの目指す姿。
◇◇◇
そして、敵対していた王都商会の係員も、
最終的には私たちの経営哲学を理解してくれた。
競争相手を排除するのではなく、
みんなで良い商売をする仲間に変える。
これこそが本当の勝利だと思う。
『チームワークの力』
ミア、ロウ、そして私。
三人が力を合わせて、困難を乗り越えた。
一人では決してできなかった勝利。
◇◇◇
窓の外を見ると、祭りの余韻で村がまだ賑やかだ。
今夜も多くの人が私たちの価値を認めてくれた。
価格ではなく、質で。
安さではなく、心で。
『第二回夜祭りの大勝利』
これからも、この方針を貫いていこう。
お客様の笑顔が、何よりの報酬だから。
今夜も、温かい灯りで村の夜を照らしていこう。