第25話 ギルド連携の深化
「リリアーナさん、お忙しい中申し訳ありません」
朝の仕込み作業中に、冒険者ギルドのエリオットが慌てた様子で来店した。
「エリオットさん、どうされました?」
私が手を止めて振り返る。
「実は、緊急でご相談があります」
「緊急?」
「遠征の需要が急増しているんです」
エリオットが困った表情で説明する。
「最近、魔物の活動が活発化して、大規模な討伐遠征が相次いで組まれているんです」
『大規模遠征...』
私の脳内で前世の物流管理経験が蘇る。
「どれくらいの規模なんですか?」
「一度に50人規模の遠征が、週に3回は出発します」
「50人×3回...週に150人分の補給か」
私が暗算する。
「現在の個別対応では、とても間に合いません」
◇◇◇
「具体的には、どのような問題が?」
私が詳しく聞く。
「まず、注文の受け付けが混乱しています」
エリオットが説明する。
「一人一人バラバラに注文を取ると、数量の把握ができません」
「なるほど」
「そして当日の受け渡しも大混乱です」
「50人が一度に押し寄せて、誰が何を注文したか分からなくなってしまう」
『典型的な物流パニックね』
「それで、何とかシステム化していただけないでしょうか?」
エリオットが頭を下げる。
「もちろんです。まさに私の得意分野ですから」
私の目がキラリと光る。
◇◇◇
「まず、補給キットのセット化を行いましょう」
私が戦略を説明し始める。
「個別商品をバラバラに販売するのではなく、パッケージ化するんです」
「パッケージ化?」
「はい。遠征に必要なものを全部セットにして、種類別に分ける」
私が紙に図を描いて説明する。
「例えば、Aセット:1日用、Bセット:3日用、Cセット:1週間用」
「おお、なるほど」
「それぞれに保存食、回復茶、簡易火種、応急薬品を適量セットします」
『前世のコンビニ弁当の発想ね』
「これなら冒険者も選びやすく、私たちも準備しやすい」
◇◇◇
「素晴らしいアイデアです」
エリオットが感心する。
「でも、パッケージはどうしましょう?」
「そこも重要ですね」
私が考え込む。
「中身が分かりやすいように、パッケージデザインを工夫しましょう」
「どのように?」
「麻袋に商品名と内容を明記します。そして色分けも」
「色分け?」
「Aセットは茶色、Bセットは緑色、Cセットは青色の紐で縛る」
『視覚的な識別が重要』
「遠くからでも、どのセットか一目で分かるようにするんです」
◇◇◇
「それと、予約システムも改良しましょう」
私が続ける。
「前日までに注文すれば確実に確保できるシステムです」
「どのような仕組みで?」
「ギルドで遠征メンバーをまとめて、一括で注文していただきます」
「なるほど」
「注文書には、メンバーの名前と希望セットを記載」
「そして当日は、その注文書に基づいて準備したものを引き渡す」
『予約制で在庫リスクを回避』
「これなら在庫の無駄もなく、確実に準備できます」
◇◇◇
「大口注文への対応も考えましょう」
私が戦略を拡大する。
「50人分の遠征でも大丈夫なように、大量生産体制を整えます」
「本当に可能でしょうか?」
「はい。事前に注文が分かっていれば、計画的に生産できます」
私が自信を持って答える。
「保存食は3日前から仕込み開始」
「回復茶は前日に大量煎煮」
「火種と薬品は常時在庫を潤沢に」
『生産計画の最適化』
「ロウにも手伝ってもらって、人手を増強します」
◇◇◇
翌日から、さっそく新システムの準備に取りかかった。
「ロウ、麻袋に商品名を書いてくれる?」
「了解っす!」
ロウが几帳面に文字を書いている。
「Aセット:1日用、内容:保存食2個、回復茶1袋、火種1個、薬草1包」
「字が上手ね」
「元冒険者だから、読み書きは一応できるっす」
『頼りになるスタッフ』
一方、ミアは色分け用の紐を準備している。
「茶色、緑色、青色...これで良いですか?」
「完璧よ」
私も保存食の大量生産準備を進める。
「まずは試験的に、20セットずつ作ってみましょう」
◇◇◇
午後、エリオットが注文書を持参してきた。
「明日の遠征の注文です」
「どれどれ...」
私が注文書を確認する。
「Aセット:15個、Bセット:20個、Cセット:10個、合計45個」
「45人の遠征ですね」
「はい。これまでで最大規模です」
『いきなり大口注文のテスト』
「分かりました。明日の朝6時に準備完了させます」
「本当に大丈夫でしょうか?」
「ご安心ください。新システムの真価をお見せします」
私が自信に満ちた笑顔を見せる。
◇◇◇
その夜は総動員で準備作業。
「保存食の準備完了っす」
ロウが報告する。
「回復茶も煎じ終わりました」
ミアも続く。
「火種と薬品も所定数量確保」
私も最終チェックを完了。
「パッケージング開始」
三人でセット作業に取りかかる。
「Aセットは茶色の紐...」
「Bセットは緑色の紐...」
「Cセットは青色の紐...」
『流れ作業で効率アップ』
「これで45セット完成」
深夜2時、ついに全ての準備が完了した。
◇◇◇
翌朝6時。
「おはようございます」
エリオットが冒険者たちを引き連れてやってきた。
「すごい人数...でも準備万端です」
私が迎える。
店の前には、色分けされた45個のセットが整然と並んでいる。
「おお、これは壮観だ」
冒険者のリーダーが感心する。
「全部準備できてるじゃないか」
『視覚的インパクト抜群』
「それでは効率的な受け渡しを開始します」
私が番号札を取り出す。
◇◇◇
「まず、注文書の順番で番号札をお渡しします」
私が説明する。
「1番から順番に、該当するセットをお受け取りください」
「番号札で整理するのか」
「はい。これで混乱を避けられます」
番号札を配り終えると、受け渡し開始。
「1番の方、Aセットです」
「2番の方、Bセットです」
「3番の方、Aセットです」
スムーズに進んでいく。
『待ち時間ゼロで効率的』
「すげー、あっという間だ」
冒険者たちが驚いている。
◇◇◇
15分後、45人分の受け渡しが完了。
「こんなに楽に準備できるなんて」
冒険者の一人が感動している。
「いつもなら1時間はかかってたのに」
「本当に助かります」
口々に感謝の声が上がる。
「エリオットさん、いかがでしたか?」
私が振り返る。
「完璧です。これまでとは比較になりません」
エリオットが感激している。
「システム化の威力を実感しました」
『新システム、大成功』
◇◇◇
「リリアーナさん、実は重要な報告があります」
遠征隊が出発した後、エリオットが興味深い話をしてくれた。
「何でしょう?」
「生存率が明らかに向上しているんです」
「生存率?」
「はい。あなたの店から補給を受けた遠征隊の、帰還率が格段に上がっています」
私が驚く。
「どれくらい?」
「以前は80%程度でしたが、今は95%を超えています」
『15%も向上している』
「これは補給品の質が良いからだと思います」
◇◇◇
「具体的には?」
私が詳しく聞く。
「まず、保存食の品質が高いので、体力の維持ができる」
「なるほど」
「回復茶の効果も抜群で、疲労回復が早い」
「そして何より、必要な物が確実に揃っているので、装備不足による事故がない」
『総合的な品質向上が結果に』
「つまり、システム化によって品質が安定し、それが生存率向上につながったということですね」
「その通りです。数字で見ても明らかです」
エリオットが感謝を込めて言う。
◇◇◇
「それと、もう一つ提案があります」
エリオットが続ける。
「何でしょう?」
「他の地域のギルドからも、同様のシステムを導入したいという要望が」
「他の地域から?」
「はい。噂が広まって、視察に来たいという申し出が複数あります」
『影響が広がってる』
「もちろんです。ノウハウは喜んで共有させていただきます」
「ありがとうございます」
「システム化すれば、みんなが幸せになりますからね」
私が経営哲学を語る。
◇◇◇
その日の午後、早くも成果が現れた。
「リリアーナ様、注文が殺到してます」
ミアが興奮して報告する。
「どういうこと?」
「遠征から戻った冒険者たちが、口コミで宣伝してくれてるんです」
「本当?」
「『あの補給セットは最高だった』って」
『口コミ効果が凄まじい』
「特に回復茶の評判が良くて、個人でも買いたいという人が続出です」
「それは嬉しいわね」
「セット販売も個人販売も、両方伸びそうです」
◇◇◇
夕方、ロウが嬉しそうに報告してきた。
「リリアーナ様、俺、すげー達成感っす」
「どうして?」
「今日の荷物運搬、完璧にできたっす」
ロウが胸を張る。
「45個のセットを、一つも間違えずに配置できました」
「素晴らしいわね」
「前は冒険者として役に立てなかったけど、今は別の形で冒険者を支えられてるっす」
『みんなが成長してる』
「あなたの貢献は本当に大きいのよ」
「ありがとうございます」
ロウが嬉しそうに笑う。
◇◇◇
その夜、システム化の効果を改めて実感していた。
「今日一日を振り返ると...」
私が独り言をつぶやく。
「朝の大口注文処理:45分→15分に短縮」
「冒険者の待ち時間:平均30分→0分」
「商品準備の正確性:100%達成」
「顧客満足度:劇的向上」
『数字で見る成功』
前世のコンビニ経験が、この世界でも活かされている。
「システム化の威力って、本当に凄い」
◇◇◇
翌朝、エリオットが新しい提案を持ってきた。
「リリアーナさん、定期便はいかがでしょう?」
「定期便?」
「毎週決まった曜日に、決まった数量を自動で準備していただく」
「面白いアイデアですね」
「遠征の頻度がある程度予測できるようになったので」
『さらなるシステム化』
「例えば、月曜日にAセット20個、木曜日にBセット30個といった具合に」
「在庫管理も楽になりますね」
「はい。お互いにメリットがあります」
◇◇◇
「分かりました。定期便システムを導入しましょう」
私が決断する。
「ただし、柔軟性も持たせましょう」
「柔軟性?」
「急な大型遠征にも対応できるよう、臨時注文も受け付けます」
「それは助かります」
「定期便は基本ライン、臨時注文は特別対応という二本立て」
『ハイブリッドシステム』
「これで完璧ですね」
エリオットが満足そうに言う。
◇◇◇
一週間後、定期便システムが本格稼働。
「月曜日の定期便、準備完了です」
ミアが報告する。
「Aセット20個、予定通りですね」
私が確認する。
時計を見ると、約束の時間より30分早い。
「余裕をもって準備できるようになりました」
「システムが安定してきた証拠ね」
『余裕のある運営』
定刻にエリオットが到着。
「今日も完璧ですね」
「定期便のおかげで、計画的に準備できます」
「我々も遠征計画が立てやすくなりました」
◇◇◇
その日の夕方、予想外の来客があった。
「すみません、王都のギルド本部から来ました」
立派な服装の中年男性が現れた。
「本部から?」
「はい。こちらのシステムを本部でも導入したいと思いまして」
『王都のギルドが注目』
「光栄です」
私が丁寧に応対する。
「実際のシステムを見学させていただけますか?」
「もちろんです」
明日の定期便処理を実際に見ていただくことになった。
◇◇◇
翌日の定期便処理。
王都の担当者が真剣に見学している。
「番号札システム...」
「色分けパッケージ...」
「予約システム...」
「どれも理にかなっていますね」
担当者が感心している。
「15分で30人分の処理とは、驚異的な効率です」
『専門家からの評価』
「これを王都に導入すれば、大幅な効率化が図れます」
「ぜひ技術移転をお願いしたい」
「喜んで協力させていただきます」
◇◇◇
その夜、スタッフと成功を祝った。
「ギルド連携の深化、大成功ですね」
ミアが嬉しそうに言う。
「王都からも注目されるなんて、すごいっす」
ロウも興奮している。
「みんなのおかげよ」
私が感謝を込めて言う。
「でも、これで終わりじゃない」
「次は何をするんですか?」
「更なるシステム改良よ。もっと効率的に、もっと正確に」
『継続的な改善』
「そして、他の分野にも展開していきましょう」
私の頭の中で、また新しいアイデアが湧き始めていた。
◇◇◇
一人になった私は、今日の成果を振り返っていた。
「システム化の威力って、本当に凄い」
効率化により、全員が幸せになれる。
冒険者は楽に準備でき、ギルドは管理しやすく、私たちは計画的に運営できる。
そして何より、生存率の向上という、命に関わる成果まで上げている。
『これぞWin-Win-Winの関係』
窓の外を見ると、明日の遠征に向かう冒険者たちが準備をしている。
彼らの無事を祈りながら、私は明日への準備を続けるのだった。
『システム化で世界をより良く』
それが私の新しい使命だった。