表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/70

第13話 泥棒、鳴る警報


 夜営業開始から10日目の深夜。


 いつものように常連客で賑わう店内で、私は売上の計算をしていた。


「今夜も順調ね」


 ミアちゃんが最後の客を見送りながら報告してくれる。


「ハンスさんとベルトさんは1時に帰られて、ディランさんは2時に...」


「お疲れ様。もうすぐ閉店時間ね」


 時計を見ると午前3時45分。あと15分で営業終了だ。


 深夜3時を過ぎると客足はぐっと減る。この時間帯は片付けと翌日の準備の時間だった。


「今夜は何事もなく終わりそうですね」


 アンナが安堵の表情を見せる。


『確かに平和な夜だった』


 でも、そんな油断した瞬間だった。


 『ピー!ピー!ピー!』


 突然、けたたましい警報音が店内に響いた。


◇◇◇


「えっ!?」


 ミアちゃんが驚いて振り返る。


「泥棒!?」


 私も一瞬緊張したが、すぐに冷静さを取り戻した。


『これは警報魔法陣の音』


 マーリンじいさんが設置してくれた侵入者感知システムだ。


「ミアちゃん、落ち着いて。お客さんから離れて」


 店内にはまだ一人の客がいたが、その人は侵入者ではない。常連の老人客だ。


「大丈夫ですよ」私はその客に声をかけた。


「防犯システムが作動しただけです」


 警報音は店の外からの侵入者を感知したことを意味している。


『システム通りに対応しよう』


 私は迷わず伝令札を手に取った。


「こちら店舗、侵入者発生。至急対応を要請します」


 魔力を込めて伝令札に向かって告げる。


 数秒後、衛兵詰所から返信があった。


『了解。すぐに向かう』


 グリム隊長の声だった。


◇◇◇


 警報音は継続している。


『侵入者はまだその場にいるということね』


 私は窓から外の様子を確認してみた。


 店の裏手に人影が見える。黒い服を着た人物が、窓の鉄格子を調べているようだ。


「あれが侵入者?」ミアちゃんが小声で聞く。


「そうね。でも慌てる必要はないわ」


 私は冷静だった。防犯システムは完璧に機能している。


 警報で侵入者を牽制し、衛兵隊に通報済み。物理的な侵入も鉄格子で防いでいる。


『すべて想定内よ』


 侵入者は窓の鉄格子に阻まれて、中に入れずにいるようだ。


 そして警報音に慌てたのか、逃げようとしているのが見えた。


 その時、街道の方から足音が響いてきた。


「衛兵隊の到着ね」


◇◇◇


 衛兵隊が到着したのは、通報から5分後だった。


「リリアーナさん、大丈夫ですか!」


 グリム隊長が息を切らして店に駆け込んできた。


「はい、問題ありません。侵入者は店の裏手にいます」


「5分で現着とは...さすがです」


 私は衛兵隊の迅速な対応に感心した。


「警報が鳴り続けているということは、まだ近くにいるはずです」


「分かりました。すぐに確保します」


 グリム隊長が部下に指示を出す。


「ハンス、ベルト、店の周囲を包囲しろ」


「はい!」


 二人の衛兵が店の外に散っていく。


 そして数分後...


「隊長、確保しました!」


 ハンスの声が外から聞こえた。


◇◇◇


 侵入者は店の裏で御用となった。


 三十代くらいの痩せた男で、明らかに小物の泥棒といった風体だった。


「まだ何も盗んでないのに...」


 男が情けない声で呟いている。


「侵入未遂でも立派な犯罪です」


 グリム隊長が厳しく言う。


「それに、この店の防犯システムは完璧だった。何も盗めるわけがない」


『防犯システム完璧だった!』


 私は内心でガッツポーズした。


 警報魔法陣による早期発見、伝令札による迅速な通報、鉄格子による物理的防御...


 すべてが設計通りに機能した。


「被害はありませんか?」グリム隊長が確認してくれる。


「はい。侵入すらされていませんから、被害はゼロです」


「素晴らしい」


 隊長が感心している。


「君の準備の良さに脱帽だ」


◇◇◇


 事件処理が終わると、村人たちが様子を見に集まってきた。


 警報音で起きてしまったようだ。


「何があったんですか?」


「泥棒が入ったって聞いたけど...」


 心配そうな声が上がる。


「大丈夫です」私は村人たちに説明した。


「防犯システムが正常に機能して、被害はありませんでした」


「本当ですか?」


「はい。侵入者は店に入ることすらできませんでした」


 村人たちが安堵の表情を見せる。


「すごいですね、あの店は夜でも安全なのね」


「防犯システムがしっかりしてるから」


「これなら安心して夜営業を利用できるわ」


『信頼度アップにつながった』


 むしろ今回の事件で、店の安全性が証明された形になった。


◇◇◇


 翌朝、事件の報告書を作成していると、ガレオ村長がやってきた。


「昨夜は大変でしたね」


「おはようございます。ご心配をおかけしました」


「いえいえ、むしろ感心しています」


 村長が座り込んで詳しく話を聞いてくれる。


「グリム隊長から報告を受けましたが、防犯システムが完璧に機能したそうですね」


「はい。事前の準備のおかげです」


「素晴らしい。これで村の人たちも、夜営業の安全性を実感できたでしょう」


 村長が満足そうに頷く。


「実は」村長が続ける。


「今回の事件で、夜営業への反対意見が完全になくなりました」


「そうなんですか?」


「『あれだけ安全対策がしっかりしているなら安心』という声ばかりです」


『逆に信頼が高まったのね』


 事件がかえって良い結果をもたらした。


◇◇◇


 昼過ぎ、常連のハンスとベルトが様子を見に来てくれた。


「昨夜は驚いたよ」


「大丈夫だったか?」


 二人とも心配してくれている。


「ありがとうございます。お二人のおかげで迅速に解決できました」


「俺たちは当然のことをしただけだ」ハンス。


「でもあの警報システム、すごいな」ベルト。


「瞬時に侵入者を感知して、俺たちに連絡が来た」


「これなら、どんな悪党が来ても大丈夫だ」


 二人とも感心している。


「それに」ハンスが続ける。


「あの鉄格子も効果的だった。泥棒は全然侵入できなかった」


「見た目は綺麗だけど、防犯効果は抜群だな」


『オルフさんの職人技ね』


 美観と機能を両立させた設計が功を奏した。


◇◇◇


 夕方、マーリンじいさんが点検に来てくれた。


「警報魔法陣の調子はいかがでしたか?」


「完璧でした。設計通りに動作してくれて」


「それは良かった」


 マーリンが魔法陣を詳しく調べている。


「感知精度、警報音量、持続時間...すべて正常ですね」


「ありがとうございます。おかげで安心して営業できます」


「それに」マーリンが嬉しそうに言う。


「今回の事件で、他の店からも同じシステムの依頼が来ています」


「そうなんですか?」


「『あの店と同じ防犯システムを』と」


『技術の普及にも貢献してるのね』


 セキュリティ技術が村全体に広がれば、治安向上にもつながる。


◇◇◇


 その夜の営業時間。


 いつも以上に多くの客が来店した。


「昨夜の事件、大丈夫だった?」


「防犯システム、すごいって聞いたよ」


「これなら安心して利用できるね」


 皆さん、安全性を確認しに来てくれたようだ。


「ありがとうございます。昨夜の事件で、防犯システムの有効性が証明されました」


 私は客たちに説明した。


「これからも安心してご利用ください」


「それを聞いて安心した」


「夜でも怖くないな」


「家族にも教えてやろう」


 口コミでさらに安全性の評判が広がりそうだ。


◇◇◇


 営業終了後、今回の事件を総括した。


「結果的に、すべてが良い方向に向かいましたね」


 アンナが感想を述べる。


「はい。被害ゼロで、信頼度は向上」


 ミアちゃんも安堵している。


「防犯システムの重要性を実感しました」


「そうね。事前の準備がいかに大切か」


 私は改めて防犯対策の価値を確認した。


『これで安心して営業できる』


 最大の懸念事項だった治安問題が、完全にクリアされた。


「でも」私は注意を促した。


「油断は禁物よ。今回は小物の泥棒だったけど、もっと巧妙な犯罪者もいるかもしれない」


「はい、気をつけます」


「定期的にシステムの点検も必要ね」


 継続的な安全管理の重要性も確認した。


◇◇◇


 翌朝、昨夜の客の一人が家族を連れて来店した。


「昨夜お話しした通り、本当に安全な店なんですよ」


 妻と子供に説明している。


「防犯システムが完璧で、衛兵隊との連携も万全」


「へぇ、それなら安心ね」


 奥さんが感心している。


「今度、夜の買い物も利用してみましょう」


『家族客の獲得』


 安全性の評判が、新しい客層の開拓につながっている。


「それに」客が続ける。


「村全体の治安も良くなったような気がします」


「どういうことですか?」


「夜に明るい店があると、街全体が安全に感じられるんです」


『なるほど、そういう効果もあるのね』


 店の明かりが、地域全体の安全感向上に貢献している。


◇◇◇


 午後、グリム隊長が最終報告に来てくれた。


「犯人の取り調べが終わりました」


「何か分かりましたか?」


「小物の窃盗犯で、たまたま通りかかった旅の泥棒でした」


「計画的な犯行ではなかったんですね」


「はい。『金目のものがありそうだから』という単純な動機でした」


 隊長が続ける。


「でも、あなたの防犯システムを見て諦めたそうです」


「諦めた?」


「『こんなに厳重な警備では、プロでも無理』と言っています」


『プロでも無理って...』


 意外な評価だった。


「これで、他の犯罪者への抑制効果も期待できますね」


「そうですね。噂が広まれば、最初から狙われなくなるかもしれません」


『予防効果も期待できる』


◇◇◇


 夜、いつものように営業を開始すると、常連のディランが声をかけてきた。


「昨夜は大変だったな」


「ご心配をおかけしました」


「でも、あの防犯システムは見事だった」


 ディランが感心している。


「俺たち冒険者の宿舎でも、同じシステムを導入したいくらいだ」


「そうですか」


「野営の時とか、夜襲対策に使えそうだ」


『冒険者からの評価も高い』


 プロの目から見ても、システムの有効性が認められている。


「それに」ディランが続ける。


「この村の治安レベルが上がった気がする」


「どうしてそう思うんですか?」


「夜に明るい店があって、衛兵の巡回も増えた」


「犯罪者にとって、この村は『やりにくい場所』になったと思う」


『地域全体への波及効果』


 店一軒の防犯対策が、村全体の治安向上につながっている。


 私は深い満足感を味わっていた。


 商売の成功だけでなく、地域社会への貢献も実現できている。


『これこそが理想的な事業よね』


 追放された王女は、また一つ大きな成果を手にしたのだった。


 そして、安全で便利な夜の世界が、確実に根付いていくのを実感していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ