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045 新しい日常 - 稜太 -

 放課後、稜太は終礼が終わると真っ先に教室を飛び出して、旧校舎の音楽室へと向かった。




 学校→帰宅→塾→帰宅→ご飯と風呂→寝る→起きる→学校→帰宅→塾→帰宅…


(今日って、何曜日だったっけ…。ま、何曜日でもいいや。)


 起きた瞬間思い浮かぶ投げやりな思考はすぐさま封印する。ベッドから起き上がると、またいつも通りのルーティンが始まる。


 稜太は中学受験が終わっても尚続く学校と塾だけの生活に嫌気が刺していた。だからといってそれ以外の生活を過ごせるわけでもない。


「行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」


 玄関を出ると、毎朝同じ歩数で門まで辿り着く。そのまま駅まで向かい、改札を抜け、階段を降りる。そしていつもと同じ場所に並び、やがてホームに入って来た電車に乗る。


(遠くへ…。なるべく遠く、少しでも…。そして次地上に出た時には、何か奇跡でも起きればいい。)


 そんな夢みたいな期待も、もう抱かなくなった。


 この学校には、自分が行きたかったわけではなかった。父親が選んだ学校を受験し、その中で合格した一番偏差値の高い学校がここだった。特進科には入れたものの、その中では後ろから数えた方が早い順位に父親は当然黙っておらず、中学受験が終わっても学校が終われば塾に入り浸る、そんな毎日だった。しかし稜太の努力も報われ、2学期が終わる頃には順位は一桁まであと少しというところまで上がっていた。

 稜太は帰宅部だった。だから下校時はいつもまだたくさんの生徒がいた。しかし稜太に話しかけてくる子は1人もいなかった。それは入学してから声をかけてくる子が皆ニ言目には"昭和総合病院の息子"と言ってくるので、稜太はそれがすこぶる嫌でずっと塩対応をしていた。するととうとうぼっちになり、一人とぼとぼと歩いていても、もう誰からも声を掛けられなくなった。そんな毎日を過ごす稜太は、もう何もかもに嫌気が刺していた。


 しかしいよいよすべてがどうでもよくなりかけていた2学期の半ばを過ぎた頃、帰るために校門の近くまで歩いて来ると、3階の音楽室からとても賑やかなピアノの音が聞こえてくるようになった。稜太は妙に惹かれるその音色に、次第にそのピアノはいったい誰が弾いているのか気になって仕方がなくなった。そして年が明け3学期に入ってもやはりその音は聞こえて来るので、稜太はとうとう意を決し、一度その音楽室を覗いてみることにした。


 校門の近くに位置するその音楽室は、いつも使う音楽室とは違い旧校舎にあるため、とりあえず場所だけ確認しておきたいと思った稜太は昼休みに遠く離れたその音楽室まで遥々足を運んでみることにした。すると、まだたどり着くだいぶ前からいつものピアノの音色が聞こえて来た。稜太は思わず胸が高鳴った。


(こんなワクワクした気持ちを味わうのはいったいいつぶりだろう…。)


 稜太の足は、気付いたら駆け足になっていた。




 放課後音楽室に向かう稜太の足は、やはり駆け足になっていた。


(あの時、勇気を出してあのまま尋ねてみてよかった。)


 稜太は今日の授業が全て終わり再び旧校舎の音楽室に向かう中、僅か2〜3時間前の自分の勇気を改めて褒めてやった。






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