第16話 初めてのグランピング
猫まみれを後にすると高速道路に乗り一路大洗へ。
途中、サービスエリアで休憩を挟んで走ること約二時間。
高速道路を降りて海岸沿いの道に出ると目の前に海が広がった。
「すごーい!」
助手席の夏鈴は楽しそうな上げながら窓を開ける。
すると、風と一緒に潮の香りが車の中に流れ込んできた。
青い海と真っ白な雲が浮かぶ空の先、海と空を繋ぐ水平線がどこまでも続く。
視界いっぱいに広がる海と、夏の日差しを受けてキラキラと輝く海面。沖にいくほど青みが増していくグラデーションに目を奪われずにはいられない。
誰もが言葉を忘れて見惚れていたると。
「……海って、こんなに広いんだね!」
隣に座る悠香が風になびく髪を押えながら感嘆の声を漏らした。
「悠香は海に来たことがないって言ってたよな」
「うん。子供の頃は連れてきてもらえなくて」
それは当時、病気を抱えていたからだろう。
「だから、今日は思いっきり楽しみたいな!」
「無理だけはしないでくれよ」
「うん。心配してくれてありがとう」
大丈夫だと思うけど気に掛けるようにしよう。
夏祭りの夜に気づいたように、悠香は夢中になっていると疲れや痛みに鈍感になる。菫さんじゃないけど病人とメンヘラの『大丈夫』は信じちゃいけない。
病気が治ったとはいえ、悠香が楽しんでいる時の大丈夫は要注意。
まぁ心配ないとは思うけど念のため。
「目的地が見えてきたぞ」
海に向けていた視線をフロントガラスの先に向ける。
すると海岸沿いに見慣れない建物が並んでいるのが見えた。
「さぁ、到着だ」
こうして本日お世話になるグランピング施設に到着。
駐車場に車を停めて敷地内へ向かうとドーム型の白いテントが並んでいる。
テントの隣にはプレハブみたいな小屋があり、キッチンやトイレの他、シャワーなどを完備したサニタリールームになっているとホームページに書いてあった。
敷地内には似たようなテントが二十棟ほど並んでいて『海までゼロ秒!』というキャッチコピーの通り広大な海と砂浜が広がっていた。
「菫さん、あたしたちが泊まるテントはどれですか!?」
「そう焦るな。受付を済ませてくるから少し待て」
「はい。お願いします!」
夏鈴は管理棟へ向かう菫さんをハイテンションで見送る。
すると、我慢できないらしく敷地内を見て回りだした。
「みんな見て。キャンプファイヤーがある!」
夏鈴が指を差す先にある広場に目を向ける。
そこにはレンガで囲ったスペースがあり、中に木材が積み重ねられていた。周り椅子が並べられていているのを見る限り観賞用のスペースといったところだろう。
パタパタと走っていく夏鈴の後を追いかける。
「夜になると火がつくのかな?」
「ああ。そうだと思うぞ」
「超楽しみだね!」
夏鈴のハイテンションは留まること知らず鼻歌交じりに超ご機嫌。
そんな夏鈴の姿を見て、俺は少しだけホッとしてた……というのも、菫さんが海水浴旅行の話を持ち掛けた時、なぜか夏鈴だけが乗り気じゃなかったから。
なにかあったのかと心配していたけど元気そうでひと安心。
「待たせたな。さぁ部屋へ行こう」
受付を済ませて戻ってきた菫さんの後に続く。
俺たちが利用させてもらうのは海に一番近いテント。
菫さんが鍵を開けてドアを開くと夏鈴を先頭にいざ入室。
「やばっ!」
足を踏み入れた瞬間、夏鈴が感嘆の声を上げる。
それもそのはず、テントの中は驚くほどお洒落な空間が広がっていた。
南国の海を思わせるようなエメラルドグリーンの生地に覆われ、床には砂浜に似た模様の白い絨毯。鮮やかなピンク色のカーテンは海中のサンゴ礁を連想させる。
海をコンセプトにした内装はもちろん窓から望む美しいオーシャンビュー。
海までゼロ秒を謳っているだけあって最高のロケーションだった。
「えいっ♪」
夏鈴は荷物を床に置くなりベッドへダイブ。
ベッドの上でくつろぐ姿はさながら生足へそ出しマーメイド。
思わず窓の外の絶景よりも夏鈴の無防備は素肌に目を奪われる。
「グランピングのテントって広いんだね!」
「それに設備も整っています」
続けて入ってきた悠香と莉乃さんの言う通り。
外観からして広そうとは思ったけど、中に入ると実寸以上に広く感じる。
それは単純に広いからだけじゃなく、高い天井がそう感じさせるんだろう。
室内にはエアコンやテレビ、冷蔵庫はもちろん、ベッドとテーブルとソファーも備え付けられていて、テントというよりもお洒落なリビングといった感じ。
ここに住みたいくらいの快適空間が広がっていた。
「これで温泉も付いてたら最高なんだけどね」
「さすがにそれは贅沢すぎるだろ」
「だよねぇ」
思わず苦笑いを浮かべる夏鈴。
まぁでも、その気持ちはわかるよ。
以前、再建活動後に日帰り温泉施設に行って依頼、実はみんなで度々足を運んでいるんだけど、最近の夏鈴は温泉がマイブームらしくて一人でも通っているらしい。
作業で疲れる度に『温泉に行きたい!』と口癖のように言っている。
「よし。さっそく準備を済ませて——」
「その前にちょっといい?」
海へ行こうと言うより早く、夏鈴が待ったを掛けた。




