エピローグ
猫まみれの再建を始めてから三年が経った春。
俺たちは高校を卒業し、この春から大学生になる四月の上旬。
今日は待ちに待った猫まみれの再オープンの日。
庭にある満開の桜が祝福するように咲き誇る中、俺は長い時間を掛けて再建してきた築百年を超える古民家を前に一人感慨深い気持ちで眺めていた。
「……いや、一人じゃなかったな」
どこからともなく『うにゃうにゃ』言いながらあげぱんが現れ、俺の足に何度もタックルする勢いで身体をこすりつけながら抱っこをせがむ。
そっと抱き上げると爆音で喉を鳴らす。
「そろそろみんな来る頃かな」
スマホで時間を確認すると朝の七時半過ぎ。
オープン時間は九時だけど準備があるから早めの八時集合にしたんだけど、できればその前にみんなで思い出話の一つも交わしたいと思っていると。
「いよいよオープンだね!」
聞きなれた天真爛漫な声が聞こえて振り返る。
すると、のりべんを抱っこしている悠香の姿があった。
「あれからもう三年も経ったんだね……」
「ああ……」
悠香は穏やかな風に揺れる髪を押さえながら過去に想いを馳せる。
再会した頃よりも大人びた悠香の横顔に思わず見惚れていると、腕の中でゴロゴロしていたあげぱんが不意に飛び降り、入り口の門の方に向かって走りだす。
「あれ、二人共めっちゃ早いじゃん♪」
そう言って現れたのは相変わらずハイテンションな夏鈴。
あげぱんを抱っこしながら笑みを浮かべてやってくる。
「あたしが一番乗りだと思ったんだけどなー」
三年の時を経て白ギャル味の増した夏鈴は別の意味でも増していて、あげぱんが増したシンボルともいえる豊かな双丘を一心不乱にふみふみしている。
羨ましいことこの上ないのはさておき。
「目覚ましのアラームより早く目が覚めてさ」
「実は私も。日が昇る前に起きちゃった」
「ふふっ。みんな一緒だね♪」
なんて話していると足元に別の猫が現れる。
ふわふわの白い毛を揺らしているのはもちろんわたあめ。
「みなさん、お揃いですね」
声の先に視線を向けると穏やかな笑みを浮かべる莉乃さんの姿。
「莉乃さんも早く目が覚めたんですか?」
「遠足当日の子供みたいでお恥ずかしい限りです」
「みんな一緒だから気にしないでください♪」
そんな挨拶を交わすと、俺たち並んで猫まみれを眺める。
「長いようで、あっという間だったね……」
「ほんと、色々あったよねぇ……」
「はい……感慨深いです」
三人は今日までの過去に想いを馳せる。
その想いは俺も一緒だった。
「こうして今日を迎えられたのは三人のおかげだな。あの日、みんなが俺の無茶な夢に協力すると言ってくれなかったら今日という日は迎えられなかった」
「そんなことない。みんなで一緒に頑張ったからだよ」
「そうだな……」
悠香の言う通り、地元の人たちも含めてみんなのおかげ。
この三年間、俺たちは紆余曲折ありがならも全員で頑張ってきた。
その全てを語っているとオープンに間に合わないから省略するけど、猫まみれを再建するという夢を叶えるために、俺たちは今日まで共に歩んできた。
何度も躓きながら、それでも諦めずに進み続けて今がある。
そんな日々の思い出を少しだけ振り返る——。
二年目の夏。
莉乃さんとの答え合わせを終えた後、萩原さんの協力のもと水道管の交換工事を進め、全ての作業が終わった頃にはすっかり夏になっていた。
「時間は掛かったけど、これで水回りはひと安心だな」
「うん。やっぱり水が使えないとなにかと不便だよね」
悠香の言う通り、工事中に使えた水道は早めに直したキッチンだけ。
それも工事によっては一時的に断水していたし、なによりお手洗いを使えなかったのがとても不便でもよおす度に近くのコンビニのお世話になっていた。
「ついでにお手洗いもリフォームしてもらえて良かったね!」
「その点についてはマジで運がよかったよな」
というのも、萩原さんの紹介で窓ガラスの交換をお願いした工務店さんが誤発注したトイレ一式が余っているからと、ついでに交換してくれた。
もちろんお金は払ったけど定価の半分ほどで超お得。
トイレも古かったからいずれは交換しないといけないとは思っていたけど、まさかこのタイミング&格安でしてもらえたのはマジでラッキーだった。
「じゃあ、次の作業の——ぶはっ!?」
相談をしようと言うより早く顔面に水をぶっかけられる。
一瞬なにが起きたのかわからず驚きながら顔の水を払うと、庭の立水栓の前で散水用のゴムホースを手にしている夏鈴の姿があった。
「ごめーん。手が滑っちゃったー♪」
めちゃくちゃ棒読みで嘘がバレバレ。
「水が使えるようになったから庭の水やりをしようと思ったらつい♪」
「もう少し上手な嘘を——ちょ、やめろって!」
大笑いしながら追撃を食らわせてくる夏鈴。
すると隣で笑っていた悠香にまで水を掛ける。
油断していた悠香は逃げる間もなくびしょ濡れに。
「……夏鈴、なにしてくれるのよ!」
「悠香が暑さで倒れないように冷やしてあげようと思って♪」
「このっ——!」
悠香は夏鈴からホースを奪い取ろうと手を伸ばす。
奪おうとする悠香と奪われまいとする夏鈴がくんずほぐれつ。水を出しっぱなしでそんなことをしていれば、どうなるかなんて言うまでもない。
「「あっ——!」」
揉み合いの末にホースは二人の手を離れてあっち向いてほい。
ホースの先は傍でとめようとあたふたしていた莉乃さんへ。
「「あっ…………」」
案の定、莉乃さんは頭から水を被ってずぶ濡れに。
俺は首から掛けていたタオルを手に莉乃さんに駆け寄る。
「莉乃さん、大丈夫ですか?」
「はい。少し驚きましたが大丈夫です」
タオルを渡した瞬間、咄嗟に顔を背けた。
「りっちゃん、どうかしましたか?」
「えっと、別の意味で大丈夫じゃないと言いますか……」
だけど悲しき男の性か、顔を背けても目線は莉乃さんに向いたまま。
莉乃さんは不思議そうに首を傾げると俺の視線の先に目を落とす。
「あ……」
ただでさえ夏で薄着の上に濡れたせいで下着が透けまくり。
しかも水で張り付いているから身体のラインが浮かび上がり、実は着やせする莉乃さんの夏鈴にも勝るとも劣らない隠れ巨乳っぷりが露わになっている。
目の保養——じゃなくて目のやり場に困る俺。
「すみません。わざと見ようとしたわけじゃないんです」
「りっちゃんになら見られても平気です」
「「え——!?」」
驚きの声を上げたのは俺じゃなくて悠香と夏鈴。
「ここにいる男性はりっちゃんだけ。他の方に見られる心配はありませんから隠す必要もないでしょう。むしろ好きな男性に意識してもらえて嬉しいです」
照れながらも胸元を隠そうとしない莉乃さん。
「夏鈴が言うならわかるけど、莉乃さんが……?」
「料理上手で胃袋を掴んでる上に、実はスタイルも良くて、しかも清楚なのにエロにも寛容……本当のライバルは悠香じゃなくて莉乃さんかも」
この日から二人のライバル心は莉乃さんに矛先を変更。
いがみ合っていた二人に妙な絆が芽生た夏になった。
二年目の秋。
続いて傷んだ床板や外壁の張替えに着手した俺たち。
畳を干しために剥がした時に気づいたんだけど、特に座敷は経年劣化と床下からの湿気で床板が傷んでいて、子供が飛び跳ねたら床が抜けそうなほど緩い。
さらに言えば家の重みで微妙に傾いている酷い状況。
工務店の方の指導のもとDIYで直すことに。
「さっそく畳を上げて床板を剥がしていこう」
「「はーい!」」
一緒に作業をしてくれるのは夏鈴と悠香。
軍手をはめて畳を剥がし、床板を外していた時だった。
「きゃー!」
不意に耳をつんざくような悲鳴が響いて振り返る。
瞬間、半泣きの夏鈴がラガーマンよろしく押し倒す勢いで抱き付いてきた
「ど、どうしたんだ夏鈴?」
「ねねね、ネズミ……ネズミがいる!」
夏鈴が指を差した先、根太を支える束の陰にネズミの姿。
しかも一匹じゃなくて確認できるだけでも三匹はいた。
夏鈴ほどじゃないにしろ俺もネズミは抵抗がある。
「ネズミくらいで驚くなんて、夏鈴も怖がりね」
夏鈴とは対照的に全く怖がりもしない悠香。
それどころか小動物でも見つめるように瞳を輝かせる。
「悠香は平気なのか?」
「小さい頃にハムスターを飼ってたから」
「……ハムスター?」
いや、まぁ言わんとしていることはわかる。
どちらも同じ齧歯類で尻尾の長さの違いはあれど見た目も似ている。でも細かく比べると別種で違う部分の方が多いし、なによりハムスターほど愛らしくない。
「よく見ると可愛いでしょ?」
申し訳ないけど全く賛同してあげられない。
夏鈴に抱き着かれたまま一歩後退。
「…………」
反応の悪い俺たちを見て悠香は残念そう。
すると、なにかに気づいたようにはっとした表情を浮かべ。
「や、やっぱり私も怖いかもー」
めちゃくちゃ棒読みな口調で俺に抱き着いてきた。
「ちょっと、なんで悠香まで抱き着くわけ!」
「夏鈴と一緒。ネズミが怖いんだもーん」
「一秒でバレる嘘吐かないで!」
お願いだから俺を間に挟んで喧嘩をしないでほしい。
なんやかんや言い争う二人をとめようとは思うものの、高校二年生になってさらに成長した二人の双丘を味わいたい気持ちもあって気分は複雑。
十秒だけ堪能してからとめようと思ったんだけど。
「騒がしいようですけど、どうかしましたか?」
三秒も経たずに莉乃さんが様子を見にやってきた。
「床板を外してたらネズミが出たんです」
「ネズミ?」
莉乃さんは床下を覗き込む。
「なるほど……わたしに任せてください」
そう言うとポケットからラップに包んだスルメの切り身を取り出す。
ラップを剥いでスルメを天高く掲げ、香ばしい香りが周りに漂い始めた次の瞬間、まるでRPGで召喚獣を呼び出す召喚士よろしく猫たちが現れる。
集まったのは総勢十匹を超える猫の群れ。
「みなさん、よろしくお願いします!」
ゴーサインを出すと同時に一斉に猫たちが床下に潜り込む。
しばらく慌ただしく走り回る足音と鳴き声が聞こえたかと思うと、みんなネズミを咥えて戻ってきては莉乃さんの足元に置き、再び床下へ潜っていく。
そんな光景が繰り返えされること数回。
数十匹のネズミが駆除された。
「みなさん、ご苦労様でした」
猫たちを順番にもふりながら対価のスルメをプレゼント。
相変わらずの猫使いっぷりには惚れ惚れするけど……さすがにキモい。
莉乃さんが猫を使う姿を見るのは初めてだからか、悠香と夏鈴は驚いた表情を浮かべているんだけど、あまりのキモさに俺から離れようとしない。
そんな二人を見て莉乃さんも気づいたらしい。
「えっと……きゃ、きゃー」
悠香以上に棒読みで悲鳴を上げる莉乃さん。
「わたしもネズミは苦手なんです」
「「「いやいや、絶対嘘ですよね!?」」」
全員で突っ込まずにはいられない。
左右に加えて前からも抱き着かれ、男としては幸せ極まりないんだけど、この日を境に隙あらば抱き付いてくる美少女三人に悩まされる日々。
告白して照れも遠慮もなくなった女の子の積極性は留まることを知らない。
こんなことばかりしていたら再建が進むはずもなく……。
色々な意味で大変な秋が続いた。
二年目の冬。
この頃になると、再建の噂が広がり協力者が増えて活動は加速。
地元の内装業者さんの力を借りて壁紙を張替えたり漆喰を塗ったり、古くなった設備の修理や壊されたテーブルを買い替えたり、店内をメインに作業を進める。
特に拘ったのは子供たちが過ごす座敷のリフォーム。
「ずっと思ってたんだけど、座敷って狭くない?」
「うん。子供たちがみんなで遊ぶには手狭だよね」
「六畳の和室ですから五人も入ればいっぱいです」
夏鈴の発言に悠香と莉乃さんも同意。
実は俺も子供の頃から狭いとは思っていた。
「もう少し広くできないかな?」
「そうだな……」
片付け中に押し入れから出てきた猫まみれの図面を広げる。
「座敷と従業員の休憩室は隣同士。壁をぶち抜けば間取りの変更はできると思う。もともと休憩室の方が広いし、座敷を広めにして壁を作り直そうか」
「休憩室は着替えをするくらいだからいいんじゃない?」
今度は悠香の発言に夏鈴と莉乃さんが頷く。
そんなわけで、内装業者さんと工務店さんに相談して間取りを変更。
アルバイト先のホームセンターの社割を使い、柱に使う木材や石膏ボードなどの材料を安く購入。部屋を仕切っている壁を壊して座敷を広めに作り直す。
こうしてリフォームが完了が完成したのは俺の誕生日前。
「めっちゃ広くていい感じ♪」
夏鈴は広くなった室内で嬉しそうに飛び回る。
「やっぱりこのくらい広くないと布団を敷くには狭いよね」
「「「布団を敷くには?」」」
仲良く首を傾げる俺たち。
すると上機嫌な夏鈴はぽろぽろ本音を漏らす。
「去年のりっくんの誕生日に布団を敷いた時、六畳じゃ狭いと思ったんだよね。このくらいの広さがあれば、今年は布団を二枚敷いても余裕がありそう——あっ」
ほぼ言いかけた後に慌てて口を押える夏鈴。
当然の如く悠香が突っ込む。
「夏鈴、今年も猫まみれをラブホ代わりに使う気!?」
「べ、別にあたしがなにをプレゼントしようと自由でしょ!」
「百歩譲って自由だとして、ここは子供たちが遊ぶ場所なんだからラブホ代わりに使っちゃダメでしょ。なんで夏鈴はいつも頭の中がピンク色なわけ!?」
それは本当にそう。
さすがにフォローできずにいると。
「高校二年生にもなって、これだからお子様は……」
すると夏鈴は深海よりもなお深い溜め息を吐く。
「だからいつまで経っても処女なのよ」
「しょ、処女——!?」
「どうせエッチなことは付き合ってからって思ってるんでしょうけど、今は付き合う前に身体の相性を確かめたいと思う男の子は少なくない。貞操観念がしっかりしてるのはいいことけど、身持ちの固すぎる女は行き遅れる運命なのよ!」
「そ、それだけは嫌……!」
悲痛に叫ぶ悠香をよそに、夏鈴は俺の耳元で『ね……りっくん♪』と囁く。
二年生になってさらに思春期男子の理解が深まっているのはさすがだけど、お願いだから女性同士の踏み込んだ下ネタは男のいないところでしていただきたい。
さすがに同意を求められてもコメントに困る。
「そ、そう言う夏鈴だって処女じゃないの!?」
「だから好きな人にあげようって話でしょう。好きな人と出会った思い出の場所で、一生の思い出を作ろうってピュアな気持ちのなにがいけないわけ?」
「だから子供たちが遊ぶ場所だって言ってるでしょ!」
悠香が必死になればなるほど悪戯に笑う夏鈴。
そのやり取りを見ていて気づく。
「と、とにかく猫まみれでエッチなことは——」
「悠香、落ち着け。去年の誕生日と同じだ」
「……え?」
悠香はきょとんとした表情で首を傾げる。
次の瞬間、顔を真っ赤にして怒髪天を衝く。
「夏鈴、また騙したでしょ!」
「ほんと、悠香は出会った頃からからかい甲斐があるよね♪」
夏鈴の言う通り、このやり取りを何度見てきたかわからない。
悠香には悪いけど今では俺たちの日常に欠かせない恒例行事になっている。
「まったく……夏鈴こそ二年生にもなって子供みたいなことしないでよ。まぁ本気だとしても、家主の莉乃さんが許すはずないんだから。ですよね、莉乃さん」
さも当然のように悠香は確認したんだけど。
「はい。せめて休憩室でお願いします」
「「「えっ……」」」
まさかの休憩室ならオーケー宣言。
こうして冬が終わるまで、休憩室には常に布団が一組敷かれることに。
もちろん使わなかったから安心(?)してほしい。
そして迎えた三年目。
莉乃さんは高校を卒業して大学生になり、俺たちは本格的に受験勉強を始めるために再建活動はペースダウン。
とはいえ二年目に店舗のリフォームは概ね終わり、あとは庭を残すのみ。
庭の芝生を張り替えたり花壇や家庭菜園を整備したり、子供たちが遊ぶ遊具を新調したり。勉強の合間の息抜き程度に進めても一年あれば終わりが見えるくらい。
こうして受験勉強と再建活動を両立させて無事志望大学に合格。
三年間に渡る再建活動の全てが終了した。
そうそう、ついでに菫さんの恋愛事情についても触れておきたい。
とはいえ、これこそ全て話していると開店時間に間に合わないどころか一日あっても足りないから結論だけ伝えておくと、俺が責任を取る必要はなくなった。
今では元彼を引きずっていたのが嘘みたいに幸せにやっている。
どうか祝福してあげてほしい。
——そんな感じで日々を過ごして今に至る。
「ようやく今日、夢が叶うんだね……」
「でも夢を叶えて終わりじゃないでしょ?」
「はい。ここから先は夢の続きです」
そう、今日が新たなスタート。
「みんなで頑張ろう!」
「「「おー♪」」」
こうして俺たちは店内に入り準備を始める。
みんなで分担して準備を進め、終わったのは十分前。
オープン前にひと息吐いている時だった。
「ところで凛久」
「ん? どうかしたか?」
悠香が作業をしながら訪ねてきた。
「オープン前に言うことがあるんじゃない?」
「言うことっていうか決めることって感じ?」
「再会してから三年、さすがにそろそろ……」
迫りくる美少女三人とおまけに猫三匹。
女子大生を相手に美少女っていうのも失礼か。
美女は怒った顔も綺麗だから困るよな……なんて冗談はさておき、凄まじい圧で迫る三人から逃れる術はなく、一歩二歩と後退したまま玄関まで追いやられる。
なにを言わんとしているかなんて聞くまでもない。
「「「結局、誰と付き合うの?」」」
できれば触れずにいたかったんだけど……。
そう、俺は未だに誰とも付き合わずに今に至る。
「えっとぉ……」
いや、ちょっと待ってほしい。
みんなの言いたいことはよくわかる。
三人と叶わなかった恋の答え合わせを済ませてから二年。
今までなにをしていたんだと言われるだろうけど理由はちゃんとある。
宣言通り、あれから恋をやり直すべくみんなを意識しながら日々を過ごしてきたんだけど……その結果、みんなのことを同じくらい好きになってしまった。
つまり、答え合わせをする前みんなへの想いが消えてしまって選べなかったけど、今はみんな同じくらい好きになってしまったせいで選べないというオチ。
我ながら節操がないと思う。
昔は時期が被らずに好きになった女の子たちを、今度は同時に好きになってしまったんだから気が多いと思われても仕方がない。
でもさ、自分に置き換えて考えてみてほしい。
誰が見ても綺麗でタイプの違う女の子たちが、みんな揃って自分を好きだと言ってくれて、さらに日々猛アプローチをされて好きにならずにいられるか?
いられるわけないだろ?
「「「ねぇ、聞いてるの!?」」」
「は、はい。聞いてます!」
こうしている間も刻一刻と迫るオープン時間。
目の前には美女三人と玄関を挟んだ背中にはオープンを待つ子供たちの姿。
「え……選べるわけないだろ!」
追い詰められた俺は思わず本音をぶちまける。
「こんなに綺麗な女の子たちに好きって言われて一人だけ選ぶなんて無茶すぎる。ぶっちゃけ、三人とも好きだから誰か一人だけなんて決められないんだよ!」
俺からみんなに好意を伝えるのは初めてだからだろう。
三人は驚き以上に照れた様子で頬を染める。
「わ、私のこと、好きなの……?」
「ああ。好きだよ!」
もうやけくそ気味に答える俺。
「あ、あたしのことも?」
「もちろん。好きに決まってるだろ!」
「わたしも……ですか?」
「当然、めちゃくちゃ好きです!」
だらしなくにやついた表情を浮かべる三人。
「そ、そっか……」
「みんなのことが好きなんだ……」
「これは困りましたね……」
三人は顔を見合わせ無言で意思疎通を図る。
「誰か一人だけ選ばれて、自分が振られるくらいなら……」
「そうね……もう少しだけ今のままでもいいんじゃない?」
「りっちゃんの気持ちが聞けただけでもよしとしましょう」
三人が納得してくれたのは開店時間ジャスト。
「さぁ、お客さんをお出迎えしよう!」
強引に話を切り上げてお客様を出迎える。
「「「猫まみれへようこそ!」」」
そんなこんなで三人の恋のレースは少しだけ延長戦。
あの日の恋は、まだまだ終わってくれないらしい。
あの恋は以上で完結となります。
最後までご愛読・応援ありがとうございました!




