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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
二章 一色夏鈴

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第51話 いつかの問い

「準備ができたら呼ぶから廊下で待っててね」

「ああ。わかった」


 教室へ入っていく夏鈴を見送り、廊下に立って呼ばれるのを待つ。

 ふと周りに目を向けると、入り口には喫茶店の店頭でよく見かける立て看板が置いてあった。どうやら夏鈴のクラスの出し物は喫茶店らしいんだけど。 


「……猫まみれ出張版?」


 疑問の声が漏れた通り、看板には『猫まみれ出張版in花女♪』と書いてある。

 出張版って、どういう意味だろう——なんて思っていると、教室から出てきたお客さんの足元をすり抜けるように見慣れた柄の猫が現れた。


「まさか……」


 茶色と白の毛並みと歩く度にお腹が揺れるわがままボディ。

 揚げたてのパンを彷彿とさせる美味しいそうな黄金色の毛並み。

 まさかとは思いつつも抱っこしてお腹に顔をうずめてみると、窓際で日向ぼっこでもしていたのか、ふわふわの毛から干したての布団のような匂いがした。

 見た目はもちろん、この匂いは間違いない。


「なんであげぱんが教室から……?」


 思わず首を傾げた直後だった。


「りっくん、お待たせ!」


 勢いよくドアが開き、現れた夏鈴の姿を前に目を疑う。

 それもそのはず、夏鈴は頭に猫耳を付けてメイド服を着ていた.


「夏鈴……その格好は?」

「うちのクラスの出し物は喫茶店なの。ただの喫茶店じゃ面白くないからメイド喫茶にしようってなって、せっかくなら猫耳メイドでやろうってなって、なんなら猫カフェもやろうってなって。莉乃さんに相談して猫まみれの子たちを連れてきてもらったの」


 この前、夏鈴が猫の手を借りたいと莉乃さんに相談していたのを思い出す。

 なるほど、だから猫まみれ出張版なのか。


「さあ、入って」


 夏鈴に手を引かれて教室内へ入る。

 瞬間、猫耳メイドの女子たちに囲まれた。


「この人が夏鈴の彼氏!?」

「カッコいいじゃん。羨ましい!」

「いいなぁ。私も彼氏欲しい!」

「中の上ってところね」


 身動きが取れないほどに囲まれて戸惑う俺。

 こんなに大勢の女の子に迫られたことはかつてない。

 飛び交う悲鳴にも似た黄色い声にあたふたしていると。


「ちょっと待って。他のお客さんもいるんだからね!」


 夏鈴が一喝するとクラスメイトたちが我に返る。

 つまらなそうにしょんぼりしながら仕事に戻っていった。


「騒がしくてごめんね。女の子って人の恋話が大好物だから仕方ないんだけど、みんな学園祭でテンションが上がってるせいもあるんだと思う」

「驚いただけだから気にしなくていいさ」

「では、奥の席にご案内します♪」


 夏鈴はスイッチが入ったように接客モードに切り替わる。

 教室内を見慣れた猫が歩き回る中、通されたのは窓側の席だった。


「こちらがメニューです。ご注文はいかがなさいますか?」


 渡されたメニュー表を開いて視線を落とす。

 各種ドリンクにケーキなど、一般的な喫茶店のメニューが並ぶ中、ふと目に留まったのは価格表記の部分だった。

 なぜなら、全てのメニューに二種類の金額が表記されていたから。

 その金額差は百円——よく見ると通常価格と支援価格と表記が別れていて、注釈として下の方に『差額は花崎市こども基金に寄付します』と書かれていた。


「夏鈴、これって——」

「りっくんのアイデアを試してみようと思ったの」


 これは海水浴旅行中、古民家カフェで俺が話したアイデア。

 猫まみれを地域の懸け橋にするべく、大人と子供の繋がりを作る方法。

 大人が直接支援するような活動は心理的にも時間的にもハードルが高いと思い、間接的かつ気軽に支援できる方法はないかと考えた末に思いついた一案。


「りっくん、効果検証したいって言ってたでしょ?」

「ああ。いつか良い機会があればとは思ってたけど……」

「あたしもあれから考えてたんだけど、学園祭のメニューについて話し合ってた時に思い出してさ。みんなに相談したら『ぜひやってみよう!』ってなったの」

「そうだったのか……」


 こんなに早く機会を作ってくれたことだけじゃない。


「夏鈴、ありがとうな」

「結果、楽しみにしててね♪」


 夏鈴が俺のアイデアを真剣に考えてくれていたことが嬉しかった。


「じゃあ、アイスコーヒーとチョコレートケーキ。どちらも支援価格で」

「かしこまりました。ちなみにケーキはアンデスから仕入れたの」

「え……アンデスって、あのアンデスか?」

「りっくんが誕生日に用意してくれたケーキがすごく美味しかったから、お礼を言いにいったんだよね。そしたら『お店は辞めたけど、なにかあれば協力するよ』って言ってくれて、じゃあ、学園祭でやる喫茶店でアンデスのケーキを出したいですって」

「マジか……」


 俺が誕生日に一つだけお願いしたのとはわけが違う。

 模擬店用だと結構な量が必要なはずなのに受けてもらえるなんて。

 クラスメイトへの価格設定の相談から、ケーキの仕入れ交渉まで……夏鈴は明るく人当たりもいいから、こういう調整事が得意なのかもしれない。思い返せば、猫まみれの持ち主に掃除の許可を取りに行こうって言い出したのも夏鈴だった。

 夏鈴には人を巻き込む魅力があるんだろう。


 本当……変わったよな。


「では、少々お待ちください♪」


 夏鈴は注文を取るとバックヤードへ消えていく。

 あげぱんを撫でながら待つこと五分。

 夏鈴がトレイを手に戻ってきた。


「お待たせしました~♪」

「あれ? 頼んだのは一つずつのはずだけど」


 なぜかトレイの上にはコーヒーとケーキがツーセット。


「一つはあたしの。みんなが早めに上がっていいって」

「そうか。じゃあ一緒に食べよう」

「うん!」


 夏鈴は向かいの席に座りケーキをぱくり。

 天にも昇るような感じで表情を蕩けさせた。


「やっぱりアンデスのチョコレートケーキは絶品だよね♪」

「ああ。またアンデスのケーキが食べられるなんて思わなかったよ」


 アイスコーヒーを片手に思い出の味を楽しむ俺たち。

 しばらくするとお客さんがはけ、客席に残っているのは俺と夏鈴だけ。

 すると、このタイミングを待っていたかのように猫耳メイドに扮したクラスメイトたちが俺と夏鈴を取り囲み、怒涛の質問ラッシュが始まった。


「二人はいつから付き合ってるんですか!」

「小学生の頃からの知り合いなんだよね!?」

「夏鈴と初めてキスしたのはいつですか?」

「ぶっちゃけ。どこまで進んでるの?」


 思春期女子の恋話への興味は留まることを知らない。

 答えやすい質問から答えにくい質問まで、いくら答えても終わりが見えない。

 男よりも女子の下ネタの方がえぐいなんて聞く通り、人に言えないような質問もされて照れていると、みんなから『照れて可愛い!』なんてからかわれる始末。

 勘弁してほしいけど、お客さんがいないから仕事に戻れとも言えない。

 すると一人の女子から——。


「いつから夏鈴のことが好きなんですか?」


 そう尋ねられた。


「いつから、か……」


 それは、なんてことのない質問。

 誰もが恋人同士に尋ねるお決まりの質問の一つだろう。

 答えに詰まったのは『夏鈴を好きか』と聞かれたのが二度目だったから。


 ——凛久って夏鈴のことが好きなんだろ?


 あの日、夏鈴との仲を冷やかされて思わず口から出た言葉。

 恥ずかしさのあまり吐いてしまった心にもない嘘。

 あれから約六年、罪悪感を覚え続けていた。

 あんな思いは二度としたくない。


「俺は——」


 だから、いつか同じ質問をされる時が来たら。

 その時は嘘偽りのない想いを口にしようと決めていた。


「子供の頃、夏鈴のことが好きだった」

「「「キャーッ!!」」」」


 答えた瞬間、周りにいた女の子たちが一斉に黄色い声を上げる。

 廊下はもちろん、隣のクラスまで届きそうなほど大きな声が響き渡る。

 教室にいた猫たちも飛び起きて何事かと大慌て。


「子供の頃って、夏鈴が転校する前からですよね?」


 尋ねてきたのは小学校時代の夏鈴を知る詩音さん。

 その一言に深く頷いてみせる。


 そう……俺は独り寂しそうに勉強している夏鈴に惹かれ、同じ片親という境遇に自分を重ね、母親の期待に応えようと頑張りすぎる姿を危うく思い、そんな夏鈴を支えたいと思い——支えられているのは自分の方だと気づいた時には好きになっていた。


「まぁ、夏鈴の変わりようには驚いたけどな」

「ですよね。私も初めは気づかなかったです」


 なんて、昔の夏鈴を知る者同士で盛り上がる。


「……嘘でしょ?」


 そんな話をしている隣で疑問の声を漏らす夏鈴。

 その表情は驚きに満ちていた。



 しばらく夏鈴のクラスでお茶をした後。

 俺たちは二人きりで花女の学園祭を見て回った。

 各クラスの模擬店やアトラクションを回ったり、文化部の展示や、ダンス部や軽音楽部のステージ発表を見に行ったり、限られた時間の中で目いっぱい楽しむ。

 楽しい時間はあっという間に過ぎるとはよく言ったもの。

 気づけば日も暮れ、終了の時間が迫っていた。

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