62 [ユイリス]軍神、竜と対峙する。
ガドウィンはああ見えてかなりレベルが高い。確か【ウォリアー】のレベル78だったかしら。
しかも、その固有魔法がまた厄介。〈頑強〉という魔法で、肉体が強靭になり、全身が独自の魔力防壁に覆われる。言ってみればこいつは防御特化の戦士ね。
とにかくしつこくて硬い。頻繁に私の前に現れて本当にうんざりする。
「そういえばガドウィン、どうして私の移動ルートを知ってるの?」
「そりゃ知ってる奴から聞いたからだ」
「別動隊の人ね……。殺さなかったでしょうね?」
「おいおい、オレは野盗じゃないぞ。情報に対してちゃんと報酬も支払った」
何その律儀さ。ともかくこいつが変な奴だったおかげでうちの隊員は大丈夫みたいね。
胸を撫で下ろしていると、その隊員の一人が私の進路から馬で駆けてくるのに気付いた。
「シェリル様! 攻撃目標の変更をお願いします!」
「どういうこと? 何か問題でも起こったの?」
「竜が出現しました!」
……今のは、聞き間違いだろうか?
思わず私はガドウィンと顔を見合わせていた。二人で知らせにきた隊員の顔をじっと見つめる。彼はめげずにもう一度同じ言葉を繰り返した。
「竜が出現しました!」
やっぱり竜と言っている。そんな生物がこの世に存在するはずないけど、彼も嘘をついているようには見えないわね。何にしろ私を呼びにきたということは味方に相当な被害が出ているってことだろうし、とりあえず行ってみるしかないか。
「そういうわけでガドウィン、私は急用ができたからもうあなたの相手はできないわ。帰りなさい」
竜がいるという場所を隊員から確認した私はすぐに走りはじめる。
背後に目をやると、ガドウィンが配下達を率いて追いかけてきていた。
「帰れって言ったでしょ!」
「オレも竜が見たい!」
あっそ、勝手にすれば。私に追いつくのは無理でしょうけど。
速度を上げてドタドタと走る大男を置き去りにした。
何が待ち受けているのか少し楽しみではあるが、やはり竜などいるわけないと思う。子供向けの童話なんかにしばしば登場するあれは創作であり、実在するはずがない。この世に竜なんて……、
……本当にいたわ。
トラドネザム王国の端にある渓谷に辿り着いた私は、現実を受け入れざるをえなかった。谷までまだ距離があるものの、ここからでも充分に分かる。そこそこ深い谷の上に、角の生えた巨大なトカゲの頭が見えているのだから。
接近して上から回りこむと、その全身を確認できた。背中に翼を生やした体長五十メートル近くある、竜としか呼びようのない生物が渓谷に立ち塞がっている。紺色の鱗に、一本一本が人と同じくらいの大きさの牙と爪。
まるで城だわ……! こんな巨大な生物がいたなんて……! ……それより、あの竜から私達人間が持っているのと同様の魔力が伝わってくるんだけど。
そして、感じるその魔力は人間のものより遥かに強大。
どうやら渓谷での戦闘の最中にこの竜が現れたらしく、竜の背後の谷底には敵味方多くの兵の遺体が、その反対側にはこちらも両軍入り乱れる形で兵がひしめき合っていた。一本道の谷底でこの圧倒的なサイズ差、生存者がいる側では逃げ切れないと覚悟を決めて武器を構えたり矢を射っている者もいる。
ついさっきまで戦争していた者同士が、そんなことなど忘れてしまったかのように共に巨竜と向かい合っていた。
私ほど魔力感知ができなくてもはっきりと殺意を感じ取っているのだろう。その上で一つの認識を共有しているんだわ。この巨大生物は人類の敵だと。
とはいえ、とても彼らの敵う相手じゃない。レベル10台や20台の戦士もいるようだけど、その魔法も竜には虫に刺されたほども効いてないんだから。
……私だってこんな怪物相手に勝てる気がしない。私、どうして呼ばれたの? 軍神ならどうにかできるって思われた? 無理無理、私が神でいられるのはあくまでも対人の戦争だけよ……。
……でも、下で追い詰められている人達が逃げる時間くらいは稼げるかもしれないか。数千人の命を助けられるわね。
思えば強化魔法を使うのもずいぶん久し振りだわ。
〈アタックゲイン×魔法倍化〉、〈ガードゲイン×魔法倍化〉、〈スピードゲイン×魔法倍化〉。
準備が整うと私は双剣を抜いて立っている崖から跳んだ。二つの刃に魔力を行き渡らせる。
〈マジックスラッシュ×二段斬り×魔法倍化〉×2。
双剣から放たれた八つの魔力の波動が、竜の頭から首にかけて命中した。わずかに呻き声を上げた敵は、目の前に着地した私を睨みつける。
多少は効いたらしい。そうじゃないと困るわ。
私は大きく振り返ることなく、ちらりと後ろの両軍の兵達を見た。
「ここは私が引き受けるから行きなさい」









