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「歯が自慢」の方でした

 六年弱前に、老健から特養入所された方でした。


 結婚歴、仕事に就いた経験なし。年の離れた妹さんがキーパーソン。何度も開腹手術をしていて、何個か臓器を摘出されていました。が…

「え?ではこのお腹の中に、何が入っているの?」

と言うくらいに、中心肥満、既に手足の筋力がなく、それでもポータブルトイレ希望なので介護員さん達は

「こっちが倒れちゃうよ!この体重どうにかならないの?」

と、嘆いていました。


 入所されてすぐに、右半身の痛みを強く訴えられて、ほんとに痛いのだろうと思います。びっしょり汗をかかれていました。

「どこか折れちゃったのかしら?体重に潰される可能性はあるよね」

と、整形受診して検査すると

「背骨が曲がっているから」と言う診断で、カロナール処方されただけて帰ってきました。痛みはその後も続いていたと思います。「痛い、痛い」が口癖のようになり、介助する介護員さん達は「あ、そうね」と受け流し、「病院受診!」とは、言わなくなりました。


 腎臓からのステント交換の為、数か月に一回総合病院へ。膀胱留置カテーテル交換の為に近所の泌尿器科へ三週に一回。これは、妹さんが付き添ってくれました。コロナで面会中止となっていた期間も

「受診で面会できるから」と、それは、続いていました。

 その内、妹さんの足の具合が悪くなり(年が離れているとはいえ、高齢者)、泌尿器科の受診は止めて、施設で看護師が膀胱留置カテーテルの交換をするようにしました。ほかの方々は、みんな施設でやっていたのですが、この方の場合、施設に妹さんが来るよりも、病院待ち合わせの方が妹さんにとって楽だからという理由でそうしていました(施設、高台でしかもバスが通っていない)


 ステント交換は、日帰りなのですが、まあ、疲れると思います。帰ってくるとぐったり…しかも、病院受診したからと「別エリア対応」みんなと離れて食事を取ってもらわなくてはなりません。そうすると~

「また、食べなくなっちゃった、というか~食べ方忘れた?」

って、なってしまいます。スプーンの持ち方が「え!?」って感じになってしまい、そこにご飯があることすらわからない様子に…そこまで普通に召し上がっていたのに…

 隔離期間中はほぼ食事介助、また元の席に戻ると、少しずつ感覚を取り戻してくれます。これも、認知機能の低下なのでしょうか?


 この方の自慢?は

「私は一本も虫歯がないのよ!」

でした。確かに綺麗な歯がびっしり?と並んでいます。問題は「歯磨き」、ホールの共用の洗面台を一時間占拠します。洗面台を使わずに、「自分の席で歯磨きをしてガーグルベースンでうがい」と言う方が(介助が多いので)ほとんどなのですが、自分で洗面台を使う方もいて、二台しかないため、渋滞してしまいます。しかも、介助でベッドに移乗なので、歯磨きが終わってくれないと、仕事が滞る…

 初めは声掛けしていたのですが、聞き入れてくれないので、砂時計((笑)まあ、見もしてくれません。

 口から流れ出る泡ぶくで、洋服はべちょべちょになるし~だいたい、磨いているというよりはくわえているだけ…それでも本人的には「こうしているから、虫歯がないのよ!ちゃんとやらせて!」です。


 ずっとそんな感じだったのですが、三年ほど前にそのバトル?はなくなりました。それは

「○○さん、歯磨き「不良」です」

と、歯科衛生士さんに言われてしまったから。そこで、本人を説得して、「夕食後は仕上げ磨きを介護員さんにやってもらう」となりました。これが、ひと悶着に…


 いつも通り、ステント交換の為に病院へ行くと

「○○さん、ステント交換前にコロナ検査をしたところ、陽性でした」

と、連絡があったのです!え~~~~~です。その頃は、コロナ流行してきたばかりで、まだ職員も感染していなかったし~ニュースでしか、コロナなんて知らない頃。対応も今と違って大掛かり。保健所の職員の方に来てもらい指導を受けて~で、入所者さん全員、派遣された業者の方が検査!これは、公費でやってくれたのですが、職員は公費がもらえず…でも、心配だからと、業者を探し「松竹梅」…え~と、翌日結果が出るのは(松)15000円、二日後は(竹)10000円、三日後は(梅)5000円、施設長は(竹)を選び…今思えば、完全に「ぼったくられた」んだと思います。

 結局、だあれも陽性者は出ずに…それでも「濃厚接触者」として、その「口腔ケア」をした職員たちは皆さん、出勤停止となりました。何だったんだか?


 施設では隔離できないからと、その病院で感染期間が終わるまで入院させてくれました。でもね~何にも症状出なかったらしいし~その検査結果???なんですけれど、まあ、予行練習ってところだったのかしら?その後、本物のクラスターに見舞われたので…


 そのクラスターで、居室で使い捨てのくるりーなブラシとなったあたりから、認知症が更に進んできたような感じはします。まったくブラシを動かさずにくわえているだけになってしまいました。歯ぎしりをするようになり、それを指摘しても、やっているという自覚がありません。


 ステント交換すると、一日ぐらいは血尿になるのですが、三か月前あたりから、ちょくちょく血尿が出るようになりました。

「移乗する時に、膀胱留置カテーテルを引っ張っちゃっているんじゃないかしら?それで、膀胱が傷ついて出血?」

介護員さんには、注意をしてもらうように伝えました。その頃から、食事量が減ってきて、話もなんかピントが合っていないというか?表情もさえません。

 一か月ほど前から、尿が混濁酷くなり、先生に伝えました。

「膀胱炎?なのかな~でも、食事が取れなくなってきている今の段階で、抗生剤を飲んでもね~水分もだいぶ減ってきているし…」

ということで、食事形態を変えたり、好きな飲み物を促したり、そして、妹さんにも報告しました。


 最近、○○さんの弟、妹さんのお兄さんが亡くなり、今度はお姉さん…「辛いけれど、順番だから」と、面会の時にいろいろお話をされて、ここでのお看取りを了承してくださいました。


 自慢の歯にガードされてしまい、なかなかスプーンが入りません。

「食べますか?」

と聞くと「うん」と答えられますが、少し入っても、ダラダラと出てきてしまいます。亡くなる一週間ぐらい前はそれでもストローを吸ってくれていたのですが…それも出来なくなり


 水分も取れなくなり、口腔ケアだけとなり、それでも、声を掛けるとキョトンとした表情でこちらを見てくれました。そう、「痛い」という口癖も言わずに…


 亡くなったのは夜。その日遅番で、帰る時訪室すると、眠っていました。呼吸がだいぶ早くなってきたので、そろそろかしら?と思ったけれど、痛いような感じなく眠っていたので、声を掛けずに帰りました。


 亡くなったと聞いて、先ず

「歯磨きしてあげた?」

「前日は口腔ケアしたけれど、綺麗だったよ。亡くなった後は口をギュッと結んじゃっていたから、口の中は見れなかったけど~多分綺麗だよ」


 そう、「歯が命」だったので、そこ、大事です。


 昨日、お掃除に来ている会社の方が、医務室に来て

「あの~○○さん、亡くなられたんですか?」と…

「お部屋の掃除に行くと、○○さんから声をかけてくれて…ねぎらってもらったり、この辺の土地の話をしてくれたり。私はまあ仕事なんですけれど、こうして施設で働いていると、挨拶をして挨拶を返してもらえたりすると嬉しいんです。仕事以上のことをしたような、そんな感じ。みなさん、寂しいのかと…だから、こんな私でも、少しは役に立ったのかな~って思えて…」


 ○○さんに代わって、いっぱいお礼を言いました。

 そして

 「これからもよろしくお願いします」と…

 

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