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胃瘻を離脱出来たのに~

 入院中の病院へ面接に行った時

「なんて綺麗な方だろう!」って思いました。京都生まれで、ゆっくりと話される様子も、風情があり…

入所された時

「あれ?だれ?」

ああ、マスクをしていたからなのか(笑)

ちょっとイメージ変わりましたが、それでもここでは「美しい人」だと思います。


 ラクナ梗塞から、脳幹梗塞…それで胃瘻になったとか。でも、その後リハビリをして今はお昼だけ口から食事を取っていると…ただ、それではカロリー足りないので胃瘻からの注入が一日に三回。


 つなぎを着ていらっしゃいました。

「なんでつなぎなんですか?」

と、看護師さんに聞くと

「胃瘻を保護している腹帯を取ってしまうから」

という説明。

「食べることは嫌がっていらっしゃいませんか?」

と聞くと

「楽しみになさっています」

「胃瘻を使わなくても大丈夫になる可能性は?」

「今のところ、誤嚥するような兆候はありません」

それならば…

 つなぎを着せられているのは、胃瘻から栄養を入れられるのが嫌だからなのか、そこはわかりませんでしたが、口から食べれるのならば、そのほうがいいですよね~と、病院の看護師さんとも話しました。

 そんな話をしている間、本人は微笑んで…


 その面接から一か月後、病院から「経口摂取だけになりました」と報告があり、家族が施設見学にいらっしゃいました。


 いつも通りに色々説明した後

「口から食べれるようになられたのは、お母様の努力と病院のおかげだと思います。施設にお入りになったらば、病院では食べれなかったようなものでも、食べれる機会ができると思います。胃瘻は、抜いてしまえばすぐに塞がってくれます。そのほうが、お身体の負担はないかと。どうしても、穴が開いているとそこからの感染も起きますから。ただ、この梗塞は再発する可能性が高い…今度梗塞を起こした時どうなさりたいのか?それを決めてから、抜かれるかどうか決められたらよいかと…抜いてしまったとしても、又胃瘻にすることは可能ですが…」

と話しました。ご家族は、相談してみますと言っていましたが、結局入所する時、抜かずにそのまま。再梗塞した時どうするかも、あいまいなままになっていました。


 入所して数日後、朝ごはんを食べて臥床して直ぐ、嘔吐してしまいました。まったく嚙んでいないご飯粒とおかず…義歯が入っていない!どうやら、入院中にだいぶ瘦せてしまい、義歯が合わなくなって使っていなかったようです。歯医者さんに義歯の調整をお願いしました。出来上がるまでの間は、「刻み食とお粥」本人はちょっと残念そうでしたが

「早く入れ歯が出来るといいわ~待ってます」

食事を残しがちな時も

「入れ歯が出来れば、もうちょっと美味しそうな食事になりますからね」

というと、あと数口は食べてくれました。


 介護員さん達も、話しかけてくれて、笑顔が増えました。


 「今日は木の芽和えですよ。いかがですか?」

と言うと

「私、このベタ~とした感じのは、あまり好きじゃなくって…」

と言われたので

「待ってて、いいもの持ってくるから」

家の山椒の新芽摘んできていたので、それを目の前でポンと叩いて和え物に乗せると、目を細めて

「あら~本物!なんて贅沢な…ありがとう」

と言って美味しそうに召し上がってくれました。

そう、今度旅行に行くからと、京都のお勧め教えてもらうはずでした。いっぱい教えてもらうはずでした。


 亡くなる前日のおやつは「ケーキ喫茶」の日で、入れたてのコーヒーと、大きなイチゴのモンブラン。抹茶のスポンジの上に生クリーム、ピンクのモンブランがたっぷりと…滅茶苦茶美味しそうだったな~

食べ終わりホールに座っていたので

「どう?美味しかったですか?」

と、聞くと

「ええ、とっても美味しかったですよ。皆さんは?」

「残念ながら、私たちの分はないのよ~」

と言うと、申し訳なさそうな顔

「いいのいいの、たまにはここの方たちも美味しいもの食べなくちゃね」

「ここのお食事、美味しいですよ。早く入れ歯が出来れば、もっといいのに」


 翌朝、私は日勤で、出勤して直ぐ

「○○さんがベッド上で吐いています」

と、介護員さんから報告がありました。吐くのは初めてではなかったし、朝ご飯、半分以上食べて直ぐだったから

「すぐ寝かされたから?」

と思いましたが、早番と二人で様子を見に行くと、いびきをかいています。両腕がピンと突っ張っています。二人で顔を見合わせ

「ダメなやつだね…」バイタル的には問題なかったけれど…さてどうしようか…


「先ずは、今迄入院していた病院をあたってみようよ。再梗塞したのだから…」

連絡すると

「診断名は付けられますが、治療となるとうちでは難しいです。ご家族がどうしたいのか?もし、治療をと言うのならば、大きな病院へ行ったほうが良いと思います」


 ご家族の緊急連絡先、二人の携帯に連絡するも繋がらず、各々の②が職場だったので、そこに連絡

「なんで、家じゃなくここにかけてきたんですか?ここからだと一時間はかかるので、かけてこられても困ります!」

え~と、緊急連絡先ですよね?緊急なんですけれど…


 家(高齢の夫)にかけ直して(耳が遠い)

「救急車呼んで大きな病院へ連れて行ってください。場所が決まったらばそこに私が行きます」

と、なりました。


 着替えが終わり、リクライニング車椅子で医務室前にスタンバイしていたのですが、救急車を待つ間に又噴水のような嘔吐…声をかけ続けないと、呼吸が止まってしまいそう…


 早番の看護師には、家族到着次第帰ってくるように…検査に時間かかると言われたけれど、どんな結果が出たとしても、そのまま施設には戻れないわけだし…と。


 一命はとりとめたようです。その後、胃瘻から流すことも出来たらしいです。ただ、吸引を4時間おきぐらいはやる必要があり、熱も続いているとかいう病状説明が病院からあり、退院後施設に戻れるかの確認の電話がありました。

「もう、病院に居ても施設に戻っても同じだと思います」

と、言われましたが

「施設では夜間看護師がおりませんので、吸引が出来ません。ご家族が救命を望まれたのですから…ここに戻るという選択は今の状態では難しいかと…」

救急搬送する前に、入院していた病院へ連絡した経緯を話すと

「では、○○病院の方に連絡を取ってみます」


 「お看取りで帰ってくるのはありだけれど、胃瘻から流し続ければ、痰も続くだろうし…うちでは看れないよね~家族、どうしたいんだろう?」

「お話が出来る人だったし~ここにも慣れて穏やかに過ごしていたから、本人に聞けばよかったかな?又梗塞起こしたらば、どうしたいか?どこまで治療したいか?どうされたくないか…」

もう、聞くことは叶わない…あとは、ご家族次第…ご家族だって辛い決断はしたくないだろうし。なんとも切ない…


 そして、昨日の夜、家族から施設に電話がありました。


「病院からお聞きだと思いますが」

と言われて

「はい、病院からお電話を頂きました。4時間おきの吸引が必要と言うことなので、夜間帯看護師不在のうちでは、対応が出来ません」

「帰れないということですか?」

「今のままの状態を維持することはここでは出来ません」

「又、吐いたんです。それで胃瘻は使えなくて、今点滴しているそうです」

「そうだったんですね…病院の方には、ここに来る前○○病院に居たことをお伝えしてあります。病院から連絡を取ると言われていまたが…どうなったのかはわかりません」

「あ、そうですか…」

電話を切ろうとされる感じだったので慌てて

「ご家族にお伝えしたいことがあるんです!再梗塞をした前日、施設ではケーキ喫茶で、入れたてのコーヒーとイチゴのモンブラン、お母様、「とっても美味しい!」と、完食されたんですよ。入れ歯が出来ることも、とっても楽しみにされていました…職員ともよく話をなさるようになってきたし」

そう一気に伝えると涙が出てきて…電話の向こうでも…

「母は、そう、笑っていたんですね…よくして頂きありがとうございました」


 「戻ってきてくださいね」は、言えませんでした。それは、「お看取り入所」でも、病院で寂しい思いをしているのならば


  「ここに、戻って来てね、コーヒーや山椒の香りと、みんなの声が待ってるよ」


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