シークレットトラック パンタイル・ライジング
一人の少女が、早朝から墓に祈りを捧げていた。
早朝の墓地は、日が昇る前に降った雨のせいで、草木は濡れ、墓石も濡れて黒ずんでいる。
墓石に祈りを捧げる少女のスカートは、裾が濡れてしまっていたが、当人は全く気にしている素振りは感じられない。
「お嬢様」
少女は控えめにかけらた声に振り返る。
声の主が浮かべる、邪魔をして申し訳ございません、という表情に苦笑を浮かべる。
別に大した事を祈っていた訳ではない。それに祈っていたと言うよりも、近況報告に近かったのだ。
報告ついでに確かに友人の前途を祈ってはいたが、まぁあの男は平然と、かつ泰然と、人を唖然とさせる道ばかり歩いて行く奴なのだ。
大抵の困難は自業自得であるだろうから、存分に苦労すれば良いと思う。どうせ踏み砕いて行くのだから。
「これを。オルクラ王国と往復している商会の者が道中で受け取った手紙で御座います」
手紙? 少女は表情に出さずに、心中だけで首を傾げる。
仕事柄、そして立場上でも日々大量の手紙を受け取るが、自分の最も近しい部下である彼女が、この場で祈りの最中に手紙を渡してくる、というのは奇妙な事だった。
祈りの邪魔をされて気分を害した訳ではない、単に疑問だったのだ。
何せ彼女自身が申し訳なさそうな顔をしているのだから。
まぁ良い。
少女は手紙を受け取りながら、部下の女性に誰からの手紙だと尋ねようとして絶句した。
少女の表情の変化に気が付いた部下の女性が苦笑を浮かべる。やっぱりそうなったか、という顔だった。
それに対して、こんな顔になるに決まっているだろうと、少女は心中で文句を言いながら、固まった自分の顎を何とか動かす。
「あの馬鹿は」
上手く言葉が続かない。
言葉を続けようと口を開けようとするが、口の端が引き攣って動かない。
「お嬢様、行方不明だったご友人からのお手紙を受け取ったのですから、素直に笑われてはどうでしょうか?」
「おいおい、主人を侮ってくれるなよ? 行方は疾うに掴んでいたさ」
部下が首を傾げる。
知っていたのなら何故ここに居るのですか? そう問いたげな顔だった。
それに対して素直に答えようとした少女は、すんでの所で言葉を飲み込む事に成功した。
危うく、何も言わずに居なくなったのは自分にはその程度の価値しかなかったからでは?と思ったからだ、と口にする所だった。
「あー、そのアレだ」
言い淀む主人に向けられる、物珍しげな視線から目を逸らす。
「一月かからずにフラれて帰ってきた時に、迎えてくれる友人が一人ぐらいは居ても良いだろうさ」
「成る程、あのお方であれば、そういう事もあるでしょうね」
何せ感受性の天敵ですから、部下にそう納得される友人を、少女は不憫に思った。
「だがまぁ、手紙を送ってきたと言う事は、その必要は無かったという事だろうね」
開けたら泣き言だらけの手紙かもしれないが。
少女は手の中でくるりと手紙を回すと部下に言う。
「ではさっそく家に帰って読むとしようか」
今ここで読まないのですか? 部下の無言の問いに少女は言う。
「私は手紙を読んでスッ転ぶ趣味は無いからな。せっかく持ってきてくれたが、椅子に座って読ませてもらうよ」
苦笑しながら頷く部下を促して少女は歩き出す。
数歩進んだ所で、ふと振り返る。
「そういうワケで、しばらく間が空くが許してくれ。我が笑顔どの」
そう言って少女は歩き出した。
墓石から、我が笑顔、という墓碑銘に相応しい笑い声が聞こえた気がした。
これにて第三章は終了となります。
唐突に出てきたこのジェニファーリンって誰だよって人は
短編を読んで頂けると幸せになるかと思います。
面白いと思って頂けたら、ブックマークや評価などして頂けると
作者にとっては大変に助かります。
また、発売日はまだ決まっておりませんが
本作「追放された侯爵令嬢と行く冒険者生活」は今度、3巻が発売されます。
これも皆様の応援のおかげです。深く感謝致します。
また既刊の1巻と2巻はweb版から結構な量を加筆しておりますので。
よろしければ買って頂けたら、等と贅沢な事を思っております。
それでは引き続き読んで頂ければ幸いです。




