第60話:自爆
リアース歴3236年 6の月21日6時過ぎ。
同棲を始めてから1カ月近くになる。
俺達の仲の良さは周囲にすでに知れ渡っており、今ではからかうのも馬鹿らしいと云う感じになってしまっている。
アイシャとはこれまでに小さな喧嘩を2回やったが、すぐ仲直りをしている。
喧嘩する度に愛情が更に深まっている気がします。
そして喧嘩する度にアイシャの怖さを知る気がします・・・
前世の記憶で確か『女は結婚後に態度が豹変する』とか云う内容の本を読んだ事があるんだけど、俺は今まさに実感している感じがする・・・お・女って怖ぇ~!
冒険者生活も今のところなかなか順調です。
貯金も順調に増えて来ていますよ~。
実はあの守銭奴・・・嫌、ハンナ師匠に教わった薬学が思いの外、周りから好評で、ポーション以外にも毒消し、麻痺直し、魔物除け、魔物寄せなどあらゆる薬の注文が舞い込んで来ています。
もうハンナ師匠には足を向けて寝られませんね・・・向けて寝ているけど。
薬作りで貯金が溜まって行くのは凄く嬉しいんだけど、その代わり冒険者のポイントの方があまり稼げていないのが少し悩みです。
結婚してルタの村に遊びに行ったら、狩り中心でガッツリポイント稼ぐかな~。
あ!ルタの村で思い出した。
昨晩、ジークの奴が町に来たはずだ。
朝一で冒険者ギルドに会いに行ってあげないとな。
「アイシャ~・・・ジークが昨晩のうちに・・・こっちに来ているはずだから・・・今朝は早めに・・・宿出るからね~」
俺は宿の庭先で、木刀で素振りしながらアイシャに話しかける。
一振り一振りする間に少しずつ話すから話し方が変になってしまう。
アイシャは同じ庭で洗濯の真っ最中だ
水と風の精霊術を付与した洗濯用の魔石を使って、衣類を次から次へと水で洗い乾燥させて行くアイシャ。
アイシャって良妻賢母タイプだよねぇ。
「分かったわ!朝食はどうするの?ジークちゃんと一緒に何処かで食べる?」
鼻歌を歌いながら手際よく洗濯をするアイシャ。
洗濯しながら余裕でお喋りって、魔石洗濯恐るべし。
「そうだね・・・そうしようか」
ふ~疲れて来た。
汗が噴き出して来るよ。
「よし、洗濯が終わった!私から女将さんに今日は朝食いらないって話しておくね」
洗濯が終わった衣類を籠に入れて立ち上がるアイシャ。
「よろしく!」
俺もそろそろ素振り止めようかなぁ。
俺も一緒に部屋に戻って、アイシャと一緒に違う汗を掻きたいなぁ。
「ルークはもう少し頑張るんでしょ?」
え!それを言っちゃうのアイシャさん。
もしかして俺の心を読みましたか?
「う・うん・・・」
うぅ~、泣いても良い?
渋々素振りを続けるしかない俺であった・・・
7時半頃に俺達は冒険者ギルドにやって来た。
周りを見渡す・・・ん~、ジークが見当たらない。
「イナリ!ジークの匂いする?」
俺の肩に乗っているイナリに尋ねる。
イナリはクンクンと匂いを嗅ぐ。
「キュ!」
(あっち!)
イナリはギルドの2階に通じる階段の方を見る
と云う事はまだ寝ていやがるなジークめ。
師匠が居ないからって、気を抜いてダラダラしよって。
「アイシャ!ジークは仮眠室でまだ寝ている様だよ。
俺、起こして来るから依頼でも見ながらイナリと一緒にちょっと待ってて」
イナリはアイシャの胸に飛び移る。
ぬぬぬ!このバカ狐。
アイシャのおっぱいは俺だけのものだ!
イナリがこっちを見ながら舌を出す。
いい気になりよって~、この腐れ外道が~。
嫌、イカンイカン。
落ち着け俺。
イナリには大事な任務をして貰うのだ。
少しくらい我慢をせねば。
俺が離れている間にアイシャがナンパでもされたら大変だ。
イナリは護衛としてアイシャの傍に居て貰わなきゃならん。
ここは耐えるんだ俺。
「あら、ジークちゃんはまだ寝ているの?キャ、イナリちゃんくすぐったいってば!」
プチン!
何かが切れました。
「このエロ畜生が!表へ出ろ!ギャフンと言わせてやる!」
「キュキュキュ!」
(望むところだ!エロルーク!)
睨み合う俺とイナリ。
まさに一触即発である。
「ルーク、バカやってないで早くジークちゃんを起こしてらっしゃい!」
アイシャの雷が落ちた。
キャー、メッチャ怒っている。
「ハ・ハイ~!」
イナリの奴が笑っている。
く~、許せん!
「イナリちゃん!君は私の胸に飛びついたり、寛ぐのは禁止ですからね。
この胸はルークだけのものです!」
へ!ざまぁみろイナリめ!
それにしてもアイシャさん、こんな所で何爆弾投下しているんですか。
周りの男共が血の涙を流しているじゃないですか。
皆さん、ゴメンなさい!
「キャー!私何て恥ずかしい事を・・・」
自分の飛んでもない発言に気付き、その場にうずくまるアイシャ。
自爆しちゃってねぇ。
かなり恥ずかしい発言だったからなぁ。
慰めの言葉が見つからないよ・・・
「朝から何を騒いでいるのさ兄さん!」
目をこすりながら、眠たそうな顔で階段から降りて来るジーク。
のほほんとした雰囲気を醸し出しやがって。
「ジーク!お前がここで待っていないからこんな事になっているんだよ」
怒りの矛先をジークに向けた俺。
キョトンとした顔しやがって・・・相変わらず可愛い顔しているじゃねぇか。
先ほどまで血の涙を流していた男共が目にハートマークが見えている。
言っておきますけど、可愛い顔しているけど、そいつ男っすよ~。
「え!ぼ・僕のせい?アイシャお姉様、そんな所で何うずくまっているの?」
俺は『さん』付けでアイシャは『様』付けかよ。
随分、格の差がある様だね、ジーク君。
ど・どうしてだい?
アイシャの肩に手を掛けようと近寄るジーク。
そこでアイシャがガバっと起き上がり、逆にジークの腕を掴んだ。
「え!?」
「早くここから出るわよジークちゃん!ルークも行くわよ」
「「ハ・ハヒ!」」
あ!噛んじゃった・・・ジーク、お前もか!
アイシャ怖かったもんなぁ。
俺達はアイシャに引っ張られてその場から逃げ出したのであった。
「あ~、恥ずかしかった!顔から火が出るかと思ったわ」
何時もの様に俺の左腕に絡みつき腕を組んでいるアイシャ。
俺の右腕にはジークがアイシャと同じ様に絡みついている。
俺は両腕をガッチリとホールドされた状態で食堂のカウンターに座っている。
う!これ又男共の視線が痛い。
両手に花・・・嫌、違うな・・・片方は男だもんな。
でも、これはどう見ても2人の美少女をたらし込んでいる間男にしか見えんわな。
「ジークちゃん、ルークから離れなさい。あなたは男の子でしょ!」
ジトーっとした目でジークを睨むアイシャ。
「で・でもお姉さま、僕も兄さんに久しぶり会ったのでこれくらいは許してくれても・・・」
怯えたジークが勇気を振り絞ってアイシャに抵抗している。
お前、蛇に睨まれた蛙みたいだな。
「ジークちゃん!」
もう一睨みするアイシャ。
ア・アイシャさん、本当に怖いよ。
周りが引いていますって。
「ご・御免なさいお姉さま・・・」
ジークが渋々と命令に従う。
ジークよ、お前はやはりアイシャの下僕となり果てたのだな。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・
俺とジークは久しぶりの再会であったが、この日はひたすらアイシャに仕えるジークであった。
ど・どうしてこうなった?
アイシャさん怖いの((( ;゜Д゜)))
次回『第61話:縁者』をお楽しみに~^^ノ




