第59話:願望
ルークとアイシャが出て来ない・・・
リの国を支える4伯爵の一つ東の聖龍バニング家。
その実力は政治・武力共に国に影響を及ぼすほどで、まさに国の要となっている。
バニング家は代々、『聖の加護にて民を救い、武によって国を救う』を家訓として来た家だ。
バニング家の一族は銀髪で容姿端麗な者が多いと言われている。
現当主もそうである。
今、バニング家は後継者問題で揺れている。
現当主の一人娘が16年前に突如失踪して、直系で後を継ぐ者が居なくなったのである。
バニング家は一族をあげて当主の娘の捜索に当たったが、今のところその成果はない。
国王からは現当主の年齢も踏まえて、後々揉めない様に次期後継者を催促して来た。
取りあえず次期候補を決めて、事を先延ばしにしたバニング家であったが、事もあろうにその候補の内の一人が事件を起こした。
バニング家はされに揺れ動くのであった・・・
リアース歴3236年 5の月25日。
ルークとアイシャが同棲生活を始めた頃、首都ザーンの一角では・・・
「バニング家の名を汚しよって、あの馬鹿者が・・・」
バニング伯爵は怒りを露わにしていた。
伯爵の執務室は重々しい空気となっている。
そのすぐ傍ではオーレの元副官をしていたマルタが苦渋の顔をして立っている。
「わ・私が付いていながら、誠に、誠に申し訳御座いません!」
何度も何度も頭を下げて謝罪するマルタ。
オーレを縄に縛り連れ帰ると、バニング家は天地がひっくり返る様な騒ぎとなった。
オーレは国王の名の下ですぐに裁判が決行され罰せられた。
婦女暴行未遂の罪によりオーレのイチモツは去勢。
貴族の名も取り上げられ、バニング家の一兵士として一生飼い殺しと決まった。
「マルタ、確かにお前にもオーレの行いを止められなかった責があるとは思うが、それでもその後の相手に対する誠意ある謝罪・対応は見事であった。
オーレの罪を隠さず公にして罰した事によって、民衆の間では逆に受けが良かった様だ。お陰で多少なりとも家名の傷を軽くする事が出来た様だ。
よって、今回の件でお前の事は不問と致す」
伯爵は執務室のソファに座り、気を落ち着かせようと葉巻を手に取る。
「有難う御座います!これからも忠義を持って働かせて頂きます」
伯爵の寛大な処置に感激するマルタ。
目からは涙が溢れていた。
伯爵は葉巻を吸い、手元にある報告書に目をやる。
「それで、この報告書にあるアイシャなる女人はそれほどまでの人物なのか?」
マルタが提出した書類をパラパラめくりながら半信半疑で問う。
オーレを狂わせた女、それだけで伯爵にとっては不愉快な女と感じていた。
「ハイ!少女の様な可愛さだったり、大人の女性の様な何とも言えない色気を出したりと、妙に魅力的な絶世な美少女で御座います。
聖女候補だった時の学力や精霊術に関する成績もお渡しした書類に書かれている通り、周りからも頭一つ飛び抜けた成績だった様です。
エターナの奇跡の活躍で、町の者からは『エターナの聖女』として慕われております。
私やオーレ様に対する接し方も凛とした態度で気品溢れる立ち振る舞いで御座いました」
「ふむ・・・そこまでの逸材か・・・」
マルタが陶酔した様な感じで語るので、未だ半信半疑の伯爵。
マルタも狂わせているのではと疑いたくもなる。
「それにですね・・・報告書には書いていないのですが、彼女は銀髪でして。
銀髪で容姿端麗、聖の加護持ちで、貴族の様な気品・・・私としてはまるでバニング家の血を引いているかの様な・・・」
確かに条件は少しか整っている様だが、これは彼の妄想、嫌、願望である。
銀髪は割と珍しい色だが、王家や他の貴族でも銀髪はいるのだ。
「な・何だと!」
伯爵の目が大きく開かれる。
「アイシャ嬢は事故により3歳前の記憶がなく、その時に親は亡くなったとか・・・もしかしたらと私は睨んでおりまして・・・」
勿体ぶる言い方をするマルタ。
「も・もしかしてとは何じゃ?」
「アイシャ嬢は14歳。お嬢様が居なくなられたのは16年前、計算的には合うのではと思いまして・・・」
「ま・まさか!容姿は似ておるのか?」
慌ててマルタに詰め寄る伯爵。
アイシャへの嫌悪感はすでに吹っ飛んでいた。
「私はお嬢様をあまり近くで拝見した事が御座いませんので、そこは何とも・・・
出来ますれば、お嬢様をよく知る方にでも1度見て頂ければと。
もし間違っていたとしても、アイシャ嬢をバニング家にお迎えする事が出来ますれば、後々としても損はないかと思いまする」
マルタは自分が思っている事を全部伯爵に話した。
それが妄想・願望だと分かっていたとしても。
「うむ・・・確かイスカルは首都に滞在しているはずだったな。
お前はイスカルに事情を話、共にエターナの町へ行け。
アイシャ嬢の事を今1度調べ上げ、何としてもご同行して頂く様に説得するのじゃ。
ただし無理強いだけは絶対ならんぞ!オーレの二の舞は御免だからな」
伯爵の気持ちはすでに孫かもしれないアイシャで一杯になっている。
娘はもういないのか?そんな事は思いたくもない。
しかし、もし孫がいるのであれば・・・伯爵の思いはマルタと同じ様になって行く。
そうであって欲しいと信じて・・・
「かしこまりました!このマルタ、直ちにイスカル様と共にエターナへ向かいます」
マルタは敬礼し、踵を返して部屋から出て行こうとする。
伯爵はマルタの背に一かけらの希望を見出していたのであった。
マルタはその日の内に次期候補者のもう一人イスカル・ルザクと合流して、翌日エターナの町に向けて旅立った。
イスカルとマルタ、それと随従する他の3名を含め計5人である。
「マルタ、そのアイシャ嬢と云うご令嬢は本当に従姉殿の娘である可能性があるのだな?」
馬車の中でイスカルがマルタに聞いた。
イスカルはバニング夫人の甥であり、従姉とは幼い時によく遊んで貰った記憶がある。
綺麗だった従姉の事は今でもハッキリと覚えている。
「幾つかの条件が揃っている程度であります。私はお嬢様の事をあまり拝見した事が御座いませんので、そこはイスカル様に見て頂いてと云う訳です」
伯爵にも語った幾つかの条件をイスカルにも聞かせるマルタ。
「ふむ、後は従姉殿に似ているかどうかと云う事か・・・」
「そうで御座います!」
「マルタ、もし彼女が従姉殿の娘だった場合、彼女を説得して一緒に連れ帰り、私の伴侶にしろと云う事なのであろうか?」
イスカルはその後の事を考える。
「伯爵様にしてみればそれが理想だと思いますが、言われてみればそこまでの指示を頂いておりませんでした・・・
取りあえずイスカル様と共にアイシャ様がお嬢様の娘であるかどうかを確認して、答えはどちらであってもアイシャ様を説得してお連れする様にとの事ですから」
「ん~、従姉殿の娘であれば事情を説明すれば一緒に首都まで来てくれるとは思うが、娘でなかった場合は難しいのではないのか?エターナの英雄殿の婚約者なのだろう?」
「確かに違った場合は難しいかもしれませんね。ただ、伯爵様はそれだけの逸材ならば、是非ともバニング家に迎え入れたいとも思っているようでして・・・イスカル様の美貌で上手く行けばとお思いなのでは?」
これは半分嘘である。
マルタが伯爵にけしかけたから、そうなっただけだ。
「ハァー!難しいお役目だねぇ。無理やり連れ出すとオーレ殿の二の舞になり兼ねないし、慎重に説得するしかない訳か~、気が重いなぁ」
ため息しか出て来ないイスカルであった。
馬車はエターナの町へ向けてひたすら走り続けている・・・
次回『第60話:自爆』をお楽しみに~^^ノ




