第97話:ラドの町
ラドの町。
リの国の首都ザーンから南西の位置にあるこの町は、エターナの町の様に冒険者が集まる町である。
町の南側に流れる大河の先にはラウの大森林が見える。
この大森林はエターナの森林よりも深く深く広がっており、魔物の巣窟となっている。
高ランクの魔物なども多数おり、この高ランクの魔物を狙ってベテランの冒険者が多く集まるのだ。
高ランクの魔物から獲られる素材は多種にわたり、かなり高額な値段で取引される物もが多く、皆が一攫千金を狙ってこの町にやって来る。
ラドの町とは、一攫千金を夢見る冒険者達が集まる町・・・
リアース歴3236年 11の月18日。
荷商隊は予定よりも2日ほど遅れてラドの町に着いた。
今回の旅は盗賊や魔物に数回襲われて大変な旅であった。
最初は色物扱いされた俺達夫婦だったけど、戦いの中から仲間の信頼を得て、度重なる戦闘でその信頼は絆へと変わって行き、誰も欠ける事無く無事に任務を達成出来た喜びは格別なものであった。
各々の事は未だによく知らないけど、一時の任務上で深まった絆。
かなりドライな関係だけど、こう云うのも何だか良いなと思う。
ラドの町に着いた晩は居酒屋を貸し切って打ち上げをやった。
皆で盛大に食べて飲んで歌いました。
酒の勢いだったけど、俺のオカニカの伴奏でアイシャが歌った時が一番盛り上がったかな。
アイシャが歌う異国の言葉(日本語)は、何故か皆の心に感じるものがあたっらしい。
しっとりとした曲の時には泣き出す人も居たくらいだ。
別れを惜しみつつも、セルドさん達はラドの町に着いた2日後に新しい積荷を摘んで交易都市ルーラに帰って行った。
一緒に護衛任務をした人達も大半一緒にだ。
少し寂しいです。
俺達夫婦はこのラドの町で1週間くらい滞在してから次の町を目指す予定です。
一攫千金を夢見る者が集まるラドの町。
俺達は危ない事をしてまで狙うつもりはないけどね・・・
「なかなか良い依頼がないわねぇ」
「そうだね・・・」
「キュ!」
(だねぇ~!)
俺達は朝一でラドの町の冒険者ギルドに顔を出し、掲示板にて依頼を物色中であります。
「あっ、グリフォン討伐求むですって。グリフォンもいるのねぇ」
「へぇ~、地球での想像上の生物が何でもいるね」
「そ・そうね・・・」
「あっ、ハーピー討伐まである!」
「ハーピーって翼のある人みたいな魔物だっけ?」
「そうだね。地球の物語の中では亜人扱いされているのもあるけど。この世界では魔物扱いみたいだね」
「そうなんだぁ・・・で、依頼どうしようか?」
「ん~、俺的にはこれが気になるなぁ」
「どれ?」
「この魔薬草採集さ」
そう、魔薬草だ!
魔薬草からは魔力回復ポーションが出来る。
マジックポーションと言われる物だ。
魔薬草は魔物が多く集まる所に生える傾向がある。
原因はハッキリと解明されていないが、魔物の体内からあふれ出る魔力が溜まりやすい場所に生えるのではないかと言われているのだ。
高ランクの竜などが住んでいる傍には、極上の魔薬草の群生地があると言われているくらいなんだよ。
話は戻るけど、このラウの大森林では他よりも魔薬草が取れ易いそうなんだって。
魔薬草は普通の薬草に比べると価値が3倍以上違って来る。
魔薬草10束からマジックポーション1瓶が出来、それを売ると大銅貨4枚(日本円の価値で4000円)。
もし200束くらい採集出来たならば銀貨8枚(日本円の価値で8万円)くらいになりぼろ儲けになる。
「魔薬草って見つけ難いのよね?」
「まぁね!でもそこはホラ・・・俺達にはイナリ様がいらっしゃる訳だし」
「キュ?」
(僕?)
「イナリちゃん頼みって訳ね・・・」
「そうそう!」
「キュキュキュ~!」
(だったらたらふく肉よこせ~!)
「ほら、こうやってイナリもやる気満々だしさ!」
「キュキュキュ!」
(別にやる気なんかないぞ。肉次第だ!)
「イナリちゃん文句言ってない?まぁ、危険な魔物を相手にするよりは良いけどさ・・・でも何だか釈然としないわね!」
「まぁ、あまり深く考えないでさ。と云う事で決定!」
半ば無理矢理に魔薬草採集に決めた俺でした。
さぁ、稼ぐでござる~!
さ・寒い!
しまった!失敗したでござる。
考えてみれば季節は冬目前である。
ウララ大山脈の天辺はすでに雪化粧。
ラウ大森林は草木が青々と生えている訳もなく、枝についている葉は少なく、地面は落ち葉で埋め尽くされており、こちらもすでに冬支度が始まっている。
全く取れない訳ではないが、たぶん採取出来る見込みは低い。
時期を見誤った!
完全に失念していたよ。
魔薬草を探し、大森林を彷徨いほぼ1時間。
な・何故かな?アイシャとイナリの視線が痛いのは・・・
「あ・貴方・・・もう諦めない?」
「うっ!」
そう言って来ると思ったさ。
えぇ、そう言って来ると思っていましたよ。
だけださ・・・だけど・・・ウェ~ン、畜生~!
「キュ!」
(あっ、こっちから匂う!)
「「え!?」」
イナリが反応した。
鼻をヒクヒクさせている。
こ・これはもしや・・・
「キュ~!」
(あっち~!)
イナリから指示が来る。
急げ急げ~!
俺達はイナリが指示する方へ走り出す。
「あ・あった!」
こ・これはまさしく魔薬草・・・ではなくただの薬草!
ガーーーン!
そ・そんなぁ~。
「帰りましょ!」
「う・うん!」
「キュ!」
(賛成!)
トボトボと歩き出す俺。
世の中そう思い通りにならない事を痛感させられた俺であった。
世の中って厳しい~!
次回『第98話:旅の空』をお楽しみに~^^ノ