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Stylish  作者: 高菜あやめ
第三話 ハロウィンデート
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5. 最後のお願い

「そっか……じゃあ最後のお願いきいてくれる?」

「最後のお願い?」

 あっさり『最後』と口にされ、あたしは少し動揺した。勝手なもんだ……自分が先に言ったくせに。

 うつむくと、視界に大きな革靴の先が見えた……いつの間にか距離が縮まっていた。

「ティアラ、つけてみせてよ」

「え……」

「その鞄の中に入っているんでしょ? ほら出して」

「あ、うん」

 テキパキと言われるがままに、あわてて鞄をさぐった。取り出したティアラは伸ばされた手に奪われ、次の瞬間、吐息が……耳にかすめた。

「じっとしてて……そのまま」

 頭上にそっと乗せられた何か。あたしには見えないティアラ。そのまま両手がゆっくりと髪を梳いて整えていく。そしていつの間にか頬が包まれ、顔をすくい上げられた。

「……すごく似合ってる」

 近づいてくる顔の方がずっと綺麗で、あたしは怖くなって目を閉じた。鼻になにかぶつかり、こすられた。

「これ、魔法の国のあいさつって知ってた?」

 目を開けると至近距離に彼の顔があって、冷たい鼻がこすれ合う感触がくすぐったい。あたしはあっけにとられ、されるがままになっていた。

「……で、次は魔法の国での、呪いをとく方法だけど」

「の、呪い?」

「そ。悪い考えにとらわれちゃう呪い。それはね、自信を失って、自分自身を傷つけて苦しめてしまうんだ」

 彼の瞳は真剣そのもので、冗談言っている顔じゃなかった。

「過去の自分に振りまわされて、今の自分ばかりか相手も見えなくなっているんだ。真紀ちゃん、そんなの違うと思わない?」

「だ、だって……」

「君はいったい、どこの王子様を期待しているんだろうね。勝手に美化してるみたいだけど……嫌われないよう格好つけて、触れたい気持ちを必死に押さえて、デートすら妹に便乗してこぎつけるような真似してる。カッコわりぃ。本当は全然余裕ない、なさけない男だよ?」

 ぶつかる額と鼻がやけに熱くなってきて、心臓がバクバクと破裂しそうだ。

「こんなつまらない呪いはすぐにといてあげないと、お姫様は勘違いしたまま遠くへ行ってしまう……だから」

 吐息まで飲みこまれそうな熱いキスが降りてきた。やわらかくて甘くて、唇に全身の感覚が集中していく。角度を変えられて何度も何度も、意識をすべて持っていかれそうになる。立っている足に力が入らず、しゃがみこみそうになると、今度は唇を繋げたまま両手で体を抱きしめられた。

「……ズルイ」

「ずるくないよ」

 息継ぎもままならず、あたしは必死に言葉をつなぐ。

「も、わかっ……た、から……やめ」

「ん……もう少し……」

 甘いせめぎ合いが、たまらない気持ちになってくる。

「真紀ちゃん……好きだよ」

 ようやく唇をはなされて、そこで告白された。

「順番……逆だろ」

 そっぽを向いて熱く痺れる唇を抑えるように隠すと、改めて抱きしめられた。

 ――こいつ……もしかしてあたしの気持ちに気づいてる!?

「あたしの気持ち、いつから気づいてた?」

「わりと前から」

「わりと前!?」

「嘘。ついさっき」

「……どうして?」

「女の子の顔してたから」

 ゆったりと抱きしめられ、それから両肩をつかんで体の向きを変えられる。とたんに瞳に映ったのは、輝くばかりにまばゆい地上の星で……たくさんの夢の住人たちが手を振っていた。

「もうパレードが終わる……夢の国ともお別れの時間だ」

「お別れの……」

「そう。でも俺たちは一緒に帰るんだよ。現実の世界にね。だから手をつなごうか……現実の世界はたくさんの人がいて、迷子になりやすいからね。しっかりと手を繋いでおかないと危ないんだよ」

 言いたいことはたくさんあるけど、どれも言葉にするのはむずかしそうだから黙って手をつないだ。

「……迷子になんかならねーよ」


(おわり)

最後はひたすら甘くなりました。これで二人の話は完結です。ここまで読んでくださった皆さま、おつきあいくださりありがとうございました!

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