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異世界賢者の平穏な復讐  作者: かぶんす


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十七話 使役されし影――見えざる使い魔の追跡

 目覚めから一夜が明けた。

 幸いにも、翌日からは学校が「三連休」に入っていた。蓮にとって、これほど都合の良いタイミングはなかった。周囲の目を気にすることなく、覚醒した力を存分に振るい、復讐のための「インフラ」を整えることができるからだ。


 蓮は自室の学習机の前に座り、静かに指を組んだ。

「魔力出力、最低限に固定。召喚術式、展開」


 彼が小さく呟くと、部屋の隅の「影」が、生き物のようにぐにゃりと歪み始めた。

 影は静かに床を這い上がり、やがて漆黒の霧をまとった数羽の「烏」と、輪郭の曖昧な「人型のシャドウ・サーヴァント」の姿へと成形されていく。


「キー、キー」

 声を発することなく、しかし精神的なリンクを通じて、使い魔たちは主である蓮に絶対的な服従の意志を示していた。


「お前たちに命令を与えます」

 蓮のヘーゼルの瞳が、妖しく明滅する。

「これより私、あるいは実母・雫を陥れた者たちの追跡、および監視を開始せよ。対象は、穂積家の親族たち。そして、栄学高校の堂島大輝、および彼に与する教師どもだ」


 蓮は、使い魔たちの核となる影の身体に、極めて高度な「認識不可ステルス」の魔法を刻み込んでいく。

 この魔法は、単に姿を消すだけのものではない。人間の脳の「認識機能」に直接作用し、たとえ目の前を通り過ぎようとも、防犯カメラに映り込もうとも、それを『ただのノイズ』あるいは『最初から存在しないもの』として処理させる、賢者ならではの超高等魔術だった。


「対象の行動を24時間監視し、彼らの悪事、談合、裏工作のすべてを動画および音声データとして記録せよ。証拠となり得るものは、一滴の漏れもなく回収するのです」


 使い魔たちは、蓮の意志を完璧に理解したように、静かにこうべを垂れた。

 そして、水に溶けるように壁を通り抜け、あるいは影の中に潜り込み、それぞれの目的地へと旅立っていった。


(まずは穂積家だ。彼らが雫さんをどのように追い詰めたのか。その法的な不正、裏社会との繋がり、すべてを白日の下に晒す。そして堂島大輝……お前がこれまで学校の内外で行ってきたすべての『悪行』も、余さず記録させてもらう)


 蓮は、手元にあるノートパソコンを開いた。

 まだ使い魔を放ったばかりだが、蓮自身の脳の演算能力が覚醒したことで、ネット上のあらゆる情報へのアクセスが驚異的な速度で可能になっていた。

 穂積家の現在の資産状況、企業の登記簿、堂島大輝の父親が経営する地元の不動産会社と学校法人の不透明な金の流れ――。

 それらの情報が、蓮の頭脳の中で一つの巨大な「因果の網」として編み上がっていく。


「ふむ……。堂島大輝は、裏でかなり粗暴な連中とつるんでいるようですね。校内での私へのイジメだけに留まらず、他校の生徒への暴行、さらには少女に対する強要まがいの行為の噂まである。実に救いようのない害虫だ」


 蓮の口元に、冷酷な歪みが生まれる。

 使い魔たちがもたらすであろう「映像証拠」が揃えば、大輝がどれほど親の権力や学校のコネに守られていようが、一瞬で社会的に圧殺することができる。


「しかし、焦る必要はありません。じっくりと、彼らが言い逃れできないほどの『檻』を構築する。それが賢者の戦い方です」


 蓮は窓を開け、春の風を室内に取り込んだ。

 その視線の先、遥か彼方の空で、見えない影の烏たちが、獲物を狙うように静かに旋回しているのが、蓮の「真理の眼」にははっきりと見えていた。

 復讐のチェス盤は、今、完全に蓮の手によって支配されたのだ。


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