志希、「普通」が天敵
三回戦の卓は、
二回戦までの喧騒とは違う“静かな緊張”に包まれていた。
志希の前に座るのは──
眼鏡に無地のシャツで、姿勢が良い。
声は落ち着いていて、息遣いも静か。
清潔感があり、距離感も適切。
弟(……本当に“普通の人”だ……!!
ていうか、今までで一番まとも……!!)
だが──
その“普通”は、志希にとって最悪の相性だった。
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試合はすでに中盤に差し掛かっていた。
志希の場には伏せカードが1枚。
バーンデッキの性質上、手札の多くを火力カードが占める。
相手の場は空っぽだった。
ただし──
相手の手札は、明らかに“厚い”。
その厚みそのものが圧力になっている。
弟(……場に何もないのに、
なんでこんなに“強そう”なんだ……!?)
志希が火力を撃つたびに、
相手は静かに手札からカードを差し出す。
志希「《フレイム・バースト》発動」
相手「……対象を相手プレイヤーに変更します」
志希「えっ」
弟(火力を跳ね返された……!!)
志希のライフが600ポイント削られる。
志希「じゃ、じゃあ……《バーン・スパイク》!」
相手「“発動した扱い”にはなりますが、
効果は解決しません」
志希「…………」
弟(“発動した扱い”って何!?
ジャッジ資格持ってるの!?)
志希が伏せカードを開こうとすると──
相手「バウンス。効果は発動せず山札に戻ります」
志希「伏せカードも無効化するの!?」
相手「伏せるときの“あなたの表情”が危険を告げていましたので」
弟(人読みが鋭すぎる……!!
ていうか怖い!!)
相手への直接ダメージは通らない。
場に伏せたカードは戻される。
志希は火力を発動するタイミングを見失い、
相手の手札がさらに厚みを増していく。
志希(……なんか……怖い……
……この落ち着き……絶対ただ者じゃない……)
相手は静かにカードを引き、
静かに志希を追い詰めていく。
相手「……あなたのデッキ、
“8000ポイントのライフを削る前提”で動くタイプですよね?」
志希「え、はい……まあ……」
相手「こちらは“8000ポイントを削らせない前提”で構築しています」
志希「…………」
弟(言い方が優しいのに……
内容が鋭すぎる……!!)
志希の手札は5枚。
相手の手札は7枚。
完全に詰んでいる。
志希(……どうしよう……
火力が……全部……
吸われていく……)
相手は微笑んだ。
「勝負は焦る必要はありません。
このデッキは“急がない”のが強みですから」
志希(……淡々と処理される……怖い……)
相手は静かにカードを引き、
そのまま手札から一枚を場に置いた。
「……では、こちらを召喚します」
志希「……?」
弟(なんか……地味なカード出てきた……?)
場に現れたのは──
《ロジック・ファミリア》 と書かれた、
いかにも“魔術師の使い魔”みたいな小型モンスター。
志希「……弱そう……?」
相手「はい、強くはありません。
ただ──“確実”です」
弟(刺さる言い方だ……!!)
相手は淡々と説明する。
「《ロジック・ファミリア》は攻撃宣言を行いません。
そのため、カウンター罠の対象になりません」
志希「……え」
相手「代わりに──
毎ターン、固定で500ダメージを与えます。
処理は“攻撃扱い”ではありません」
志希「…………」
弟(地雷バーンの天敵じゃん!!)
相手「では、ターン開始時の効果処理を」
《ロジック・ファミリア》のカードが淡く光る。
──志希のライフに500ポイントのダメージ。
志希「っ……!」
弟(地味に痛い……!!
しかも確実に入る……!!)
志希は慌ててモンスター破壊札を構える。
志希「じゃ、じゃあ……《ブレイク・ショット》で破壊──」
相手「対象を変更します」
志希「えっ……でも……」
相手「他に“対象となるモンスター”がいない場合、
破壊は成立せず打ち消されます」
志希「どういうこと!?」
弟(火力が虚無に吸われた!!)
相手は《ロジック・ファミリア》で毎ターン500ダメージを刻む。
攻撃宣言をしないため罠が効かない。
破壊しようとすれば手札から無効化される。
志希(……この人……“普通”じゃない……
“普通を極めたカードゲーマー”だ……!!)
相手は淡々とカードを引き、
場のモンスターを維持し、
淡々と志希のライフを削っていく。
志希(……急がないのに……
確実に削ってくる……
これ……私の一番苦手なタイプ……)
弟(志希……これは相手が一枚上手だ……
普通の人の“確実性”が一番怖い……!!)




