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志希、害悪プレイヤーを論破

志希(しき)が一回戦を突破してから、

店内の空気はじわじわと熱を帯び始めていた。


カードを切る音、椅子の軋む音、

勝敗がつくたびに漏れるため息や歓声──

それらが混ざり合って、

小さなカードショップとは思えないほどの熱気が渦巻いている。


二試合目が進行中の卓がほとんどだが、

すでに勝負を終えたプレイヤーたちが席を立ち始めていた。


──────────────────────────────


弟「……で、2試合目どうだった?」


志希「うん……なんかね……

   “触れちゃいけないタイプのカードゲーマー” って感じの人だった」


弟「あー……確かに。

  席ついた瞬間から“圧”がすごかったよな」


志希「うん……あの……

   息遣いがずっと荒かった」


弟「“スー……ハァ……スー……ハァ……”って、

  なんで試合前から息上がってんのって思った」


志希「しかも……距離が近い」


弟「近かった!!

  こっち側のプレイマットに前髪かかってた!!

  あれはもう“接触事故”だよ!!」


志希「服装も……なんか……

   洗濯機と喧嘩して負けたみたいなTシャツだった」


弟「わかる。

  プリント半分剥がれてたし、

  リュックのベルト片方だけ外れてたし、

  なんか……湿気を吸ったスリーブの匂いしてた」


志希「そうそう……

   “カードショップの空気を凝縮した匂い”みたいな……」


弟「それ!!

  あれは……なかなかの破壊力だった……」


志希「でね、私が『横入れシャッフルします』って言ったら……」


弟「うん」


志希「手の甲で払いのけられた」


弟「払いのけられてた!!

  『横入れシャッフルは禁止です!!』って……

  こっちは初心者なのに!!」


志希「しかもその後……

   自分のデッキを抱えて……

   “神棚に祀るみたいな角度”で持ち上げてた」


弟「持ち上げてたね……

  あれはもう“儀式召喚の準備”だった」


志希「『レアカード入ってるんで!!』って……

   めっちゃ強調してきた」


弟「言ってた!!

  “レアカード入ってるんで!!”って三回言ってた!!

  知らんがな!!」


志希「私のデッキは横入れシャッフルしますって言われたよ?」


弟「なんでだよ!!

  扱いに差がありすぎる!!」


志希「だから……私も普通にシャッフルしたよ?」


弟「普通に……?」


志希「うん。

   普通のディールシャッフル」


弟「普通じゃない!!

  速すぎてカードが“光の帯”になってたよ!!

  相手の人、瞬きしてたもん!!

  『ちょっ……速っ……!?』って言ってた!!」


志希「だって……

   “完全無作為化”って言われたら……

   やるしかないじゃん?」


弟「誰も言ってないよ!!

  あの人ただ“触るな”って言っただけ!!」


志希「でも結果的に……

   相手のデッキ、見事に事故ってたよ?」


弟「そりゃそうだよ!!

  シャッフル拒否してたんだから!!」


志希「でね、私のドローが……

   なんか……すごく良かったの」


弟「“なんか”じゃないよ。

  毎ターン“当たり札”引いてたよ。

  俺、横で見てて笑いこらえるの大変だったもん」


志希「うん……

   デッキがね……

   『行け』って言ってる気がして……」


弟「やめて!!

  デッキと会話しないで!!

  地雷化が進行してる!!」


志希「相手の人、ずっと不機嫌だったよ」


弟「そりゃそうだよ。

  相手は手札事故ってるのに、

  こっちは好ドロー連発して、

  伏せカードの圧だけで相手止めてたんだから」


志希「だって……

   踏んでほしかったんだもん」


弟「誘導すんな!!

  地雷バーンの“地雷”が志希本人に移ってる!!」


志希「でもさ……

   あの人、私の伏せカード見るたびに

   “うっ……”って言ってたよ?」


弟「言ってたね。

  息遣いも“スー……ハァ……”から

  “スゥ……ッハァァァ……”になってたし」


志希「なんか……

   呼吸のテンポが崩れてたよね」


弟「志希のシャカパチでリズム狂ってたんだよ!!」


志希「最後はね……

   《エコー・トラップ》で……

   なんか……勝った」


弟「“なんか”じゃないよ!!

  相手の人、『なんで!?なんで!?』って叫んでたよ!!

  俺、横で見てて気まずかったよ!!」


志希「だって……

   雰囲気的に強そうだったから」


弟「説明になってない!!

  でも勝ったから余計タチ悪い!!」


──────────────────────────────


試合が終わった瞬間、


相手は椅子をギィッと鳴らして前のめりになった。


「いやぁ〜……あの場面さぁ……

 君、プレイング甘かったよね?」


志希「……え?」


「このターン、リーサルあったんだよ?

 ほら、ここでこのカード切って、

 こっちのライン通して……」


志希「へぇ〜……(興味ゼロ)」


相手は息を荒げながら続ける。


「あとそのデッキさ、構築が甘い。

 そのカード入れる意味ある?

 俺なら絶対入れないね。

 ていうかそのデッキ、嫌われるよ?

 地雷バーンなんてさ、

 “勝ち方わかってない人”が使うやつだから」


志希「(あなたに言われたくない……)」


「で、ここ!

 ここで伏せカード置いたのも悪手。

 俺なら絶対置かない。

 あの場面で置くのは初心者だけ」


志希「(初心者なんだけど……)」


相手は止まらない。


「スー……ハァ……

 いや〜、ほんと惜しかったね。

 俺が教えてあげるからさ、

 次はもっと上手くやりなよ?」


志希「(なんで負けた側が上から……?)」


弟は横で震えていた。


「志希……これはもう感想戦じゃなくて

 説教する痛いタイプのカードゲーマーだよ……」



志希はゆっくりと顔を上げた。


「……あの……」


相手「ん?」


志希「プレイングより……

   まず洗濯の仕方覚えたほうがいいですよ」


相手「……は?」


志希「そのTシャツ……

   “洗濯機に負けた人”みたいになってますよ?」


弟(あ、志希のスイッチ入った……)



志希はさらに畳みかける。


「それと……

 さっきあなたが勝った相手、

 “臭いに耐えきれなくて途中棄権しただけ”ですよ?」


相手「…………」


志希「“実力で勝った”って思ってるの、

   ちょっと……かわいいですけど」


弟(感想戦でも相手を圧倒してる……!!)


志希はカードを片付けながら、

さらに追撃する。


「ていうか……

 リーサルあったとか言ってますけど……」


相手「……な、なんだよ……」


志希「あなたの呼吸音のほうがリーサルでしたよ。

   “スゥ……ッハァァァ……”って……

   あれ、耐性ない人なら死んでます」


弟(これは……クリティカル入った……!!)


志希は淡々とカードをデッキケースにしまう。


志希「はい、対戦ありがとうございました〜」


相手は何も言えず、

椅子を引きずるようにして去っていった。


──────────────────────────────


弟「……志希……

  感想戦で勝つ人、初めて見た……」


志希「だって……

   あの人、ずっと上から目線でウザかったし……」


弟「いや、正しい。

  あれはもう“感想戦モンスター”だったから……

  倒して正解……」


志希「……はぁ……

   次は……“普通の人”がいいなぁ……」


弟「急にどうした」


志希「だって……

   “清潔感のある対戦相手希望”って感じなんだもん……

   できれば……

   “シャカパチしない人”がいい……」


弟「また始まった」


志希「それに……

   年収は最低でも800万はほしいし……

   でも仕事ばっかりで私を放置するのは無理だし……

   残業しないで定時で帰ってきてほしいし……

   でも大企業で安定しててほしいし……

   転勤は絶対しないでほしいし……

   家は都内がいいし……

   でも実家は太くて、親は干渉してこないでほしいし……

   家族仲は良いけど、介護は私にさせないでほしいし……

   私の親は大事にしてほしいし……」


弟「いつの間にか痛い婚活女子みたいになってる……」


志希「コミュ力高いけど女友達は少なくて……

   浮気は絶対しなくて……

   でも私にはちょっと嫉妬してくれて……

   束縛はしなくて……

   でも私が束縛するのは許してくれて……」


弟「それはもう地雷だよ」


志希「私を大事にしてくれて……

   最優先してくれて……

   否定しなくて……

   甘やかしてくれて……

   尊重してくれて……

   理解してくれて……

   受け止めてくれて……

   私の欠点は全部許してくれて……

   でも彼には欠点がない人がいい……」


──弟は悟った。


志希の言う“普通”とは、

この世に存在しない“理想の幻”であることを。


そして志希はまだ気づいていない。


自分が“普通の人”から

いちばん遠い場所に立っていることに。

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