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【完結】鳥籠の華は皇后選定を乗り切りたいっ! ──呪われた皇帝を救いましょう──  作者: 山咲莉亜
番外編

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【受賞御礼】憎き悪夢をも、華のために抱き締めて

 この国、瑞朱華国には三つの皇家があると言っても良い。正しく皇族なのは国名のうち『華』の名を持つ一族だが、残る『瑞家』『朱家』はもしも皇族の血が途絶えるようなことになった時、代わって一族ごと皇族になることができる。それがこの国においての、『名を持つ一族』である。


 そんな三大名家に名を連ねる『朱家』に生まれたのが夢鈴だった。


 夢鈴には一歳上の双子の兄姉がいて、末っ子なのもありそれはもう愛され、甘やかされていたが、同時に名を持つ誇り高き家の者として厳しい教育も受けている。幼い頃は常と教育時の態度が違いすぎて、本気で恐怖を覚えた記憶があった。

 そんな夢鈴がはじめて異能を使ったのが五歳の時。それを見た瞬間に、父は朱家からは姉ではなく夢鈴が入内することを決めた。商売を得意とする良家に嫁いだ姉は夢鈴よりも聡明であったが、異能は夢鈴の方が上。同列の地位を持つ瑞家が、とんでもなく強い異能を持つ直系女性を入内させるとのことだったので、それに対抗したような形だと思う。


 夢鈴はその『瑞家直系の女性』のことをあまり知らなかったけれど、生まれだけで優秀であることを確約されているのが彼女たちだ。数代ぶりの直系女性だと聞いていた。


 そんな彼女との初対面は夢鈴がニ十歳になる年の春。ついに彼女が貴妃として入内すると聞き、他の四夫人と共に出迎えた時である。

 懐かしそうに、それでいて『愛おしい』という感情が溢れ出た表情を作ったその一瞬を、夢鈴は見逃さなかった。けれどその表情はすぐに仮面の笑顔で隠され……それに対し、ほんの少しだけ残念だと思ってしまった自分に驚く。


「私、はじめて皇后陛下のお姿を見た時の衝撃を、きっと一生忘れません! 美しく、穏やかで、けれど何らかの覚悟を秘めたような強かなあの瞳……!」

「…………」


 ────春麗宮での生活を始めて数度目の夜、夢鈴は寝台に腰をかけ、主君である皇帝黒曜と話をしていた。

 この国では皇后選定という四夫人で皇后の座を取り合う風習があるのだが、貴妃となった者は皇后に次ぐ地位ということで、『何でもひとつ、願いを叶えてもらえる』という特典を手に入れる。黒曜はその件で、夢鈴が求める物を訊ねに来たのだ。


 顔を合わせるなり好き勝手語り出した夢鈴に対し、黒曜は何も言わないが、話の内容にはそれなりに興味を示しているように見える。

 きっとお姉様のお話だからでしょうね、と夢鈴はこっそり笑った。


「会話をしたのは皇后陛下が入内された日の宴がはじめてだったのですけれど、実は私、あの宴の最中に皇后陛下を試させていただきました。失礼であることは承知の上で、それでも皇后となられる可能性が最も高い方が心を許せる相手でないのは、嫌でしたから」


 夢鈴が心を許せるような、全力で支えようと思えるような人でなければ、きっと夢鈴が皇后の座に着くべく暗躍していたのではないかと思う。正直、芙蓉や雪璃は優秀だけれど皇后の器ではないと思っていた。


 最初に言葉を交わした時、夢鈴はあえて失礼な言葉を蓮華に向けた。誰もが称賛する、夢鈴に最も似合う、かわいらしい笑顔と共に。


「陛下、私はとてもかわいいのです」

「……今度はなんだ?」

「脱線しているわけではなく、先ほどの話の続きですわ。私……とても、かわいいのです」


 最初はにこやかな笑みで言った。

 訝し気な視線を向けてきた黒曜に答え、それから宙を見るように目を逸らしてから、今度は心からの憎悪を込めて同じ言葉を口にする。


「今年でニ十歳になります。もう成人しているのです。それなのに少女のように小柄で、声も高くて、威厳の欠片もない……私、そんな自分の顔が、体が、心底憎くて大嫌いで仕方がないのですよ」


 ──雪璃のようにとは言わない。せめて、もう少し大きくなりたかった。

 ──芙蓉のようにとは言わない。けれど、もっと大人らしい大人でありたかった。

 ──蓮華のようにとは言わない。ただ、ほんの少しでいいから名家の人間に相応しい威厳が欲しかった。


 それでも夢鈴は妃だから、大嫌いでも自分の容姿を利用するくらいのことはできなければならない。


 立ち上がり、一歩前へ歩み出てから、くるりと黒曜の方を振り向く。それから全身を見せるように、ゆっくりと両手を広げて見せた。もちろん『とてもかわいい』笑顔で。

 一瞬前の憎悪が込められた声を聞いているからか、黒曜は僅かに顔を歪める。


「老若男女問わず、多くの人間が私の容姿を見て、見下すか絆されるのです。真逆の反応ですが、この二択しかありません。前者は逆に扱いやすかったりするのですけれど、厄介なのは最も多い『絆される』です。容姿だけで好意的な感情を見せた者は、ほぼ確実に後から裏切ります」


 繰り返すが、最初に言葉を交わした時、夢鈴はあえて失礼な言葉を蓮華に向けた。誰もが称賛する、夢鈴に最も似合う、かわいらしい笑顔と共に。

 多少無礼なことを口にしようと、それよりも先に容姿に意識が向かう人間の方が圧倒的に多い。


 けれど蓮華は、ちゃんと夢鈴の言葉の刃に気付いてくれた。本当に、初対面では容姿を気に掛ける者の方が多いのだ。ほぼ十割がそうなのだ。

 それがどんなに嬉しかったか、蓮華には分からないだろう。蓮華ならもしかして、と直感で期待していたけれど、予想通りだった。その場で叫び出したいくらいには、嬉しかった。


「……お前は自分の容姿を気に入っているのかと思っていた」

「ふふっ、それは良かったです! そう認識させられるように、常日頃この容姿や声に相応しい振る舞いを心掛けているのですから!」


 心が成長するに連れて、自分の容姿が他者とは違うことに気付いたのだ。同時に、自分がどのような目で見られるのかも正しく理解した。何の悪夢かと思った。

 初対面というのは最も印象強く相手の心に残るものだから、良くも悪くもそこが勝負だと思っている。以後、良い方向に見方が変わることは滅多にない。


「ですからね、陛下。私は見た目に騙されない人が大好きなのです!」


 初対面から夢鈴の中身を見てくれる人なんてゼロに近いけれど、皇后選定で共に戦った三人──蓮華、芙蓉、そして雪璃はその限りではなかった。だから大好き。

 特に蓮華は、夢鈴を気遣うように小声で注意してくれたのだ。相手の評価を落とさず、かつ自分の立場に相応しい対応ができるなんて、とても素晴らしいこと。特に蓮華を慕っているのには、そんな理由があった。


 何から何まで、自分本位だとは自覚している。でも誰だってそんなものだろう。それが悪いことだとも思わない。


 再び黒曜の隣に腰を下ろした夢鈴に、黒曜は話の区切りを感じたのだろう。青色の美しい瞳が、静かに夢鈴を見つめる。

 夢鈴はあえて自分を取り繕わず、無表情で口を開いた。


「私が貴妃の特権で陛下に要求したいものは、『何よりも蓮華様を最優先に行動する権利』です。皇后陛下ではなく、蓮華様です。……もちろん皇帝陛下にも忠誠を誓います。けれどいざと言う時、きっと皇后陛下も含めてすべての人が皇帝陛下のために行動するでしょうけれど、私だけは蓮華様を優先順位の一番にしたく存じます」


 夢鈴の真意を探るような視線を、変わらず無表情で受け止めた。


 夢鈴の本性はこんなものだ。自分本位で、打算的で、地味で、つまらない。周囲の人間は『甘い物が好きそうだ』と言うけれど辛い食べ物の方が好きだし、『怖い物は苦手そう』と言うけれど肝試しのような遊びを好む。何から何まで、この容姿とは真逆。


 それでも一度心を許した相手への想いだけは人一倍強い自信があるし、夢鈴はそれを誇りに思う。


「私、本当に蓮華様をお慕いしておりますの。あの方の未来を、笑顔を、幸せを一番に考えたい。そのためになら大嫌いなこの容姿だって、いくらでも利用します。《《これ》》はきっとこれからも役に立ってくれる。……貴妃としては不正解であると分かっています。実際にそのような状況になれば、朱家の家紋にも泥を塗ることになるでしょう。それでも……どうか、お許しいただけないでしょうか」


 しばらくの沈黙が流れ、やがて深々と頭を下げていた夢鈴の頭上から黒曜の溜め息が降ってくる。

 おずおずと顔を上げてから、今度は夢鈴が驚かされた。ほんの僅かだが、黒曜が微笑んでいたのだ。


「私が何を言っても、それだけ意思が堅いのなら撤回することはないだろう? お前の言う通りで貴妃としては不正解なので、可能な限り他者には話さないように。私は黎邦と蓮華には伝えておく」

「ありがとう、ございます……!」

「正直、私はお前のことをあまり知らなかったから、ありとあらゆる話に驚いた。だが蓮華の絶対的な味方が貴妃ならば、これほど心強いことはないと思う」

「そう言っていただけると救われる思いです」


 ふふ、と仮面ではなく心からの笑みが自然と浮かんでくる。


 夢鈴は許されたのだ。これから先、誰よりも何よりも大好きなお姉様を最優先に行動することを。

 そうして喜びのままにしばらく笑っていた夢鈴を、黒曜は微笑ましいものを見るように、隣から眺めていた。

 ご覧いただきありがとうございます!

 2月にアルファポリス様開催の第9回キャラ文芸大賞【後宮賞】をいただき、御礼で番外編を投稿すると言っていたのですが、ものすごく遅くなってしまいました。申し訳ありません……!


 今後も番外編の投稿や、来年以降になってしまうかと思いますが続編の第2章も前向きに検討中です。投稿された時にはぜひ、お読みいただけると嬉しいです!


 改めまして、この度は素晴らしい賞をありがとうございました!!  山咲莉亜




ご覧いただきありがとうございます!

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