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有坂神霊縁  作者: iotas
22/63

2 部室、去りし古を語り、釣れる禍神(14)

「神隠しが起こるまでずーっとここで待ってるわけ? もうちょっとさ」

 ――頭使おうよ、と有坂は言う。

 彼女に促されて、二人は森を出て鳥居のところまで移動する。

「どうして有坂さんがここに?」

 長谷川が疑問を口にすると、有坂は携帯電話の画面を見せる。そこには、全体が真っ黒に染められた画像が表示されていた。

 ――よく見るとこの付近を撮ったものらしい。

 鳥居の柱らしき物体の影が、画像の中央にうっすらと見えている。

「こんなメール送ってくるから、まさかと思ってね」

 そう言いながら、有坂はカバンの中から何かを取り出す。

「カメラ?」

「暗視カメラ。科学部が持ってたから借りてきたの。古いから精度はイマイチらしいけどね」

 ――科学部とは土師のことだろう。

 何故、わざわざこんな夜中に、彼の家に行ってカメラを――と長谷川が考えていると、

「家が近所だから、ここに来る途中で借りて来たの」

と有坂が無表情で説明する。

 亮月の方はというと、その事情よりもむしろカメラの方に関心があるらしい。

「暗視カメラって、こんなに暗くっても見えるもんなのかな」

と素朴な疑問を口にする。有坂もそれはよくわからないらしく、

「全く光源がないわけでもないし、多分、ぼやーっとは、わかるんじゃないかって言ってたけど」

と答えを濁す。

 それを聞いた亮月は長谷川の肩を叩く。

「良かったじゃん。もう少ししたら長谷川だけ置いて、帰ろうかと思ってた」

 爽やかに極悪非道なことを言う。

 ――それはいいとしても。

「それってどこに配置するんですか。盗まれたりしたらまずいし」

 有坂は頷く。

「森の中に隠すような感じにしておけば、大丈夫だと思うよ。見つかったら少し騒ぎになるかもしれないけど、別に犯罪目的じゃないから、なんとかなるんじゃないかな」

 そういって、有坂は森の中に足を踏み入れる。

 少し歩いて、丁度いい木の枝を見つけると、そこにカメラを配置した。

 その横に、一枚の紙を置く。

「高校の授業で使用するために撮影しています。問題があれば下の電話番号まで連絡してください」と書かれている。準備のいいことだ。

 有坂は色々と角度を調整しながら、二人に言う。

「ちょっと思ったんだけど、昨日起こったっていう神隠しを、もっと調べたほうが良いんじゃないの」

「それは、僕も思ったんですが――どうも難しいみたいです」

「なんで?」

 長谷川はさっき亮月から聞いた内容を要約して伝える。

 有坂はそれを聞いて、しばらく下を向いていたが、やがて気づいたように、

「設置も終わったし帰る?」

と訊く。長谷川にはもちろん異存はなかったし、亮月も素直に頷いた。

 なんだかんだで疲れていたのかもしれない。

 鳥居前の十字路まで移動する。駅に向かう長谷川と、住宅街に向かう二人はここで別れることになる。

 ――じゃあ、と長谷川が別れの挨拶した瞬間、有坂の声が飛ぶ。

「長谷川君」

 長谷川は振り向く。

「こっちからでも、そんなに時間変わらないでしょ?」

 そういって彼女は住宅街の方を指し示す。

 五分ぐらいは余計にかかるだろうか。朝方など急いでいるときなどは、死活問題になる時間だが、今なら確かにそれほどは変わらない。長谷川は首肯する。

「じゃあさ、一緒に帰ろうよ。だって――怖いんだよ、この辺」


 結局、亮月からも推されて、長谷川は二人と一緒に帰ることになった。

 住宅街までそれほど時間はかからない。――とはいえ、暗い中を歩くことに変わりはなく、無意識のうちに早歩きになる。

 歩くにつれて街灯が増え始め、それまで他の黒に紛れていた三人の影は徐々にコントラストがはっきりとしてくる。

 少し落ち着いたところで、長谷川は口を開く。

「あの、さっきの件、僕がもう一度調べることにします」

「さっきの件? ああ、昨日の神隠しのこと?」

 前を行く有坂が振り向く。

「はい。やっぱり鍵になる出来事だと思いますし、気になります。それに神隠しを目撃したって人にも話を聞いてみたいし」

 ――昨日神隠しを目撃した人、と有坂は一回つぶやいた後、

「それは探す必要ないよ」

と言う。

 抑揚は無いがはっきりとした口調だった。

「なんでですか?」

「知ってるから」

 そう言って、有坂は長谷川から視線を外して亮月を見る。

「知ってるんでしょ?」

 亮月は目を伏せる。

 ――知ってる?

 じゃあ、彼女は何故言わないのだろうか。

 訊こうとしたが、その時ちょうど対面からきたスーツ姿の男性とすれ違い、なんとなく機会を失う。

 少し間を置いて、再び長谷川は口を開く。

 ――有坂さんは

「知ってるんですか?」

 彼女はその問いに、素直に頷いた。

 そして、亮月が口を開かないのを確認すると、有坂は普段と変わらない口調で話し始める。

「目撃者の名前は――」

 ――新谷亮月。

 有坂は確かにそう言った。

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