この世界のこと
占いを終えた私たちは、またお店が並ぶ方へと戻る。お店の近くには小さな広場があり、数学なんて見たくも聞きたくもない私はブルーノさんの家に帰るのを拒み、じいやと一緒に広場の隅にあるベンチに腰掛けた。
「占いで出ましたことでも話しましょうかの?」
「そうね。でも何を知らないのか分からないから、質問のしようがないわね……。あ、そうそう、不思議なんだけどね、この世界の物は多少名前が違ったりしても、私がいた世界にあった物とほとんど一緒なの。一番驚いたのは、植物とか野菜までそっくりなの」
身振り手振りで興奮気味に話すと、じいやは話しに乗ってきてくれた。
「それは不思議ですなぁ。では森の植物も一緒なのでしょうか?」
「そうそう! それも聞きたかったの! ここに来る途中の木を見る限り、私が見慣れた木がほとんどだったのよ。みんなが住んでた森に生えていたのはどんな木? 針葉樹? 落葉樹?」
「針葉樹や落葉樹という言葉は同じなのですな! 森にはどちらも生えておりましたが、主に落葉樹ですな。名前が違うとなれば、言ってもピンと来ないと思われますが」
そう言って、少し興奮気味のじいやは笑う。
「こちらの植物の名前はおいおい覚えるわ。ところで、ここはあまり四季がハッキリしていないんでしょう? 私のいた国は特に四季の変化があってね、春は暖かくて木が芽吹いて、夏は暑くて木は青々と茂って、秋は肌寒くて葉っぱが色とりどりに変色するの。そして冬は雪が降って、木の葉っぱは全部落ちて春を待つの」
空を見上げ、懐かしい日本の四季を思い出しながら語ると、じいやは不思議そうな顔をして質問をしてきた。
「季節ごとに、全部の木がそうなるのですか?」
「落葉樹は基本的にそうよ? ここは違うの?」
「はい。一斉に同じ生育をするなど聞いたことも見たこともございません。発芽した時からその木の周期ごとに成長しますので、葉が色付く時も落ちる時も一本一本違います。ですので花が咲く季節もまちまちですな」
「へぇー! じゃあ一年中花が咲いている感じ?」
「そうですな。何かしら花は咲いておりますよ」
それって、花が咲く木が近くにあったら、年中花見が出来るってことよね。この異世界で、そんな幻想的な景色を早く見たいな。
「あ、あとね、この世界の植物の成長速度は、元の世界では考えられないほど早いの。驚いたわ。でも、じいやは川で見つけた、小さな木の芽の成長が早いって言っていたじゃない?」
「あぁ……あれは私も驚きましたな」
じいやは顎に手を当て、川での出来事を思い出しているようだ。
「……まだ仮説だから、誰にも言わないようにしてたんだけど。……もしかしたらあの土地って、なぜか成長速度が異常に早いんじゃないかと思うの。デーツの実もあっという間に成熟したんでしょ? トウモロコーンも、私が知っている物とは比べ物にならないくらい成長が早いの。そのおかげでなんとか食事にありつけているんだけど……」
今まで胸の内に仕舞っていたことを初めて話すと、じいやも驚くと共に「言われてみれば……」と、真剣な顔で考え始めた。
「まだ仮説の段階だから、誰にも言わないで。もし違ったら民たちを失望させちゃう。でも、もしこの仮説が正しければ……」
「正しければ……?」
「かなりの年月がかかるはずの森の再生も、かなり早くできるわ。そして私好みの土も作れる。そうなったら栄養たっぷりの野菜をたくさん作って、民たちが空腹で困ることはなくなるわ。もちろん森が出来れば家も道具も作れるのよ!」
「素晴らしいことづくめですな!」
じいやはそれは嬉しそうな顔になり、心から喜んでいるようだ。
「そういえば、あの土地に生えていた木って知ってる木だったの?」
「そうでございますが、細く高さもなく弱々しくて、葉を見なければ判断はできませんでした。それが何か?」
「いえね、私がいた世界は土地ごとに生えている植物がけっこう違ったのよ。簡単に言うと暑い土地、寒い土地、雨の多い土地、乾燥している土地、それぞれ独自の植物が生えていたの。ヒーズル王国は私の感覚で言えば乾燥している土地なの。だからデーツもあったし……。
元の世界では、ああいう乾燥した土地に森を作ることを世界中がやっていたんだけど、その土地に生えている植物を使う流れだったのよ。だから気になって」
アフリカだったり砂漠だったりの緑化計画は、その土地に自生している植物じゃないと上手くいかなかったり、景観の問題もあるって聞いたことがある。
「だとすれば、そこは気にしなくて大丈夫でございますよ。国ごとに植物が違うとは聞いたことがございません。アレが多い、コレは少ないはありますが。知っている限り、間違いなくどこでも同じ植物ですので、姫様は思う存分森を作って下され」
よし! じいやの話を聞いたら、ますますやる気が出てきたわ! 帰ったら目一杯働くわよ!




