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勝ち取れ平常点!! ~吹け!!神風~

 時は経て24世紀、第一次魔法・超能力発達期により、今では魔法、超能力が身近にある生活が当たり前になっていった。

 そのことで人々の生活に変化が生まれていった。

 使える魔法、超能力によっては優遇される仕事ができ、就ける職が限られてしまったり、高等学校では普通の教科に加えて「魔法・超能力教育」という魔法、超能力についての基礎知識や禁止事項などを学ぶための特殊な教科が設けられたり、他にもたくさんの変化が生まれた。

 この時代では魔法、超能力により成り立っているといっても過言ではなかった。


 ―2336年某所―

「いってくらぁ」

 適当につぶやいて玄関のドアを乱暴に開いて急いで家を出た。

 というか、きちんと机の上で朝飯を食べている時間も無いのであった。

 走りながら左手につけている古びた腕時計を見た。

 時刻は午前8時をまさにを指そうとしていたのである。

 このままだと俺・・・留年する!

 実をいうと俺は遅刻の常習犯で、「次遅刻したら単位はないと思え」とまで担任に言われていたのであった。

 まあ、単位が危ういのは、遅刻だけの問題だけではないのだが…

 そんなことより、自宅から学校まで普段だと走って40分かかり、授業は8時半から…。

 絶対間に合わないじゃないか!

 こんなことで留年して、たまるか~!!

 命を燃やすんだ俺!

 これまで生きてきた中であげたことがないくらい大きな奇声をあげながら全力で走っていた。

 たぶん周りの人が見ていたら何か悪いものでも食べたのかと思われたに違いない。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ」

 俺は呼吸困難になりながらもなんとか教室の窓際の自分の席の椅子にもたれかかった。時刻はなんとかぎりぎりセーフというところだったみたいだ。

 「おはよう。間に合ったようだね、九頭龍君」

 「ああ、ちょっと寝坊しちまってな。でもなんとか留年は回避だぜ。」

俺に話しかけてきた、髪がセミロングで淡いピンクのリボンを付けている可愛らしい女の子は小鳥遊 夏恋と言って俗に言う俺の幼馴染だ。

 アニメみたいに家が隣通しということはないが、幼稚園からの仲である。

 一見普通の女の子に見えるが、彼女は恐ろしい力を持っている。

 それは俺が夏恋に思いを打ち明けられないでいる理由の一つである。

 昨日の話をすると…


-昨日昼休み-

 「次の授業ってなんの授業だっけか」

 「ほんと忘れやすい体質だね九頭龍君は、次は国語だよ」

 と俺が夏恋と次の授業のことについて話していると金色の短髪で耳にピアスを痛々しいほどつけているいかにもDQNというやつが教室に入ってきた。

 こいつの名前は暁 苓夜といって見た目と同様に学校一のDQNで女癖が悪く教師も手をつけがたい奴として有名だ。

 苓夜は、教室を見回すとこっちにカシャカシャとストラップだか何だかわからないものの音をたてながらこちらに向かってきた。

 もちろん、俺に用があるわけではない。

 俺たちの前までやってくると、苓夜は俺を横目で睨んだあと、夏恋に向かって

 「やあ、夏恋ちゃん。今日こそ俺の彼女になってよ。こんなむさい男といないでさあ」

 と微笑みながらもはや痛々しいほど金色に染まっている髪を靡かせながら夏恋に言い寄ってきた。

 夏恋はクラスの中でもトップクラスにかわいいと女子男子問わず言われているので苓夜が夏恋に目をつけるのも不思議なことではなかった。

 普通なら俺は「やめろぉ!」と決め台詞を言いながら苓夜を殴りつけたほうがよいのかもしれないが、俺は黙ってみていた。その理由は言わなくともすぐに分かることなんだが

 「さあさあ、夏恋ちゃん、俺と一緒に楽しいことしようぜ」

 苓夜が強引に夏恋の手を引っ張ろうとした次の瞬間…

 「vanish bullet (バニッシュ・バレット)」

 と銃で撃つ真似をしながら夏恋がつぶやくと一瞬の青白い光とともに苓夜は跡形もなく消滅した。もちろん本当にこの世界から消し去られたわけではない。簡単に言うと苓夜は夏恋の放った魔法によって違う場所に強制的に瞬間移動させられたのである。 

 「ところで苓夜はどこへ飛ばされたんだ?」

 「ちょっとしつこくてムカッときたから市民プールに飛ばしてやったわ」

 この魔法は夏恋が頭の中に考えたところに相手を瞬間移動させることができるので、あんまり夏恋を怒らせすぎると今回みたいにプールならまだいいけど、月とかに飛ばされた時を考えると非常に恐ろしいのだ。


 俺が席に着いてから5分もしないうちにM字にはげているのが特徴の白木先生がだるそうにしながら教室に入ってきた。先生がだるそうにしているのは、いつものことなんだが。

 「え~、これから魔法・超能力教育を始めるぞ。(かったり~な)」

 なんか先生、心の声が漏れているような気が…

 「じゃあ、とりあえず出席をとるぞ~(あ~めんどくせ~な)」

 またこの時が来てしまった。俺が恥をかく時間が…。

 「暁 苓夜…はなぜか10月なのにプールに飛び込んで風邪をひいたと連絡が入った」

 たぶん暁 苓夜は当分学校に来れないだろうな。お気の毒に。

 「石島 真由」

 「はーい」

 「大倉 秀介」

 「へーい」

 そして数人の名前が呼ばれ…

 「如月 大我」

 「ほーい」

  やばい…来る…。

 「九頭龍 太郎(…ぷっ。)」

 俺の名前が呼ばれる時が来ちまった。

 「何回聞いてもおかしいぜ。なんで苗字はかっこいいのに名前がたろうなんだよ。わっはっは。」

 「九頭龍くんごめん。笑っちゃいけないの分かるけど私可笑しくて。うふふ。」

 クラス中が笑いで溢れかえった。

 いつもそうだ、俺の名前が呼ばれる度、みんなが爆笑する。確かに、俺の名前は九頭龍 太郎

 …だからって毎回笑うか? 慣れろよそこは!!

 「おい みんな笑うんじゃない! 人の名前で笑うな!(あひゃひゃひゃ)」

 先生、フォロー嬉しいけど笑ってるの丸聞こえです…。

 ちくしょう、なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ!

 小学校のときも中学校の時も今と同じようにクラスのみんなにいじられた。

 中学のときにいい加減腹が立って親父を問いただしたことがあった。

 「おい親父!俺の名前は何で太郎って名前なんだよ!この名前のせいでクラスの笑い者だよ!」

 日頃の疲れやストレスなどで腹が立ちすぎていたせいか、親父の胸ぐらを掴みながらいままでの怒りを思いっきりぶつけてしまった。

 すると親父は平然と俺に向かってこう言ったのである。

 「Simple is the best!!」

 俺はへなへなと体をだらんとしながら倒れこんだ。

 親父が極度のバカだったことは前から知っていたがここまでとは思っていなかった。

 その日以来俺は自分の名前(太郎)のことについて深く考えるのはやめた。

 なぜなら、俺は九頭龍 太郎という名前で現在今ここに存在しているのだから、もうこの人生を受け入れなくてはと思ったのである。

 高校に入ってもう半年近くなるが今のように毎回クラスのみんなに笑われるとなれば俺の豆腐メンタルがぐちゃぐちゃである。

 けど考えてみろ俺!!周りに気にもされずに陰で高校の3年間を過ごす奴だっているのだから俺はある意味みんなに相手されている勝ち組と言えるんじゃないかこれは!!

 「そうだ!!俺は勝ち組なんだ!!あっはっはっはぶっへぇ!!」

 「九頭龍、授業中に何をそんなに興奮しているんだ」

 俺はダイナミックに舌を噛んでしまった。どうやら、俺が下を向きながらいろいろ考えているうちに授業が始まっていて、しかも心の中のことを口に出していたらしい。そりゃ思いっきり本の角で頭をたたかれるのも当たり前だ。しかも、今のでまたみんなに笑われてしまった。

 舌の痛みにさらに追い打ちをかけるように白木は俺ににやけながら話しかけてきた。

 「そういえば九頭龍、お前さっき勝ち組だの何だの言ってたよな。よし!そこまで自信があるならお前にチャンスをやろう。お前がこの教科の単位を落としそうなことは自分でもわかっているはずだ。そこで、今ここで俺が前からお前にやれと言っていた魔法特訓の成果を見せてもらおうか。もしここできちんと魔法が使えたら平常点を5点くれてやろう!」

 「!?」

 俺は目を見開いて驚いた。なにせ、生徒に平常点の鬼とまで言われているあの白木が平常点を5点もくれるというのだ。いつもの俺ならこんなうれしい話はないと思うだろう。だが、今の俺はその真逆だった。

 この時代、人々は10歳になると病院に行き、脳の中にある魔管と言われる器官を活性化させる薬を投与して時間が経つにつれて徐々に魔管が発達していき、3年の歳月経て完全に魔法や超能力が使えるということになっているのだが、俺の場合投与してから5年以上たつ今でも魔管が全く発達しないのである。

つまり、俺はまるっきり魔法や超能力の類のものが使えないのである。原因は全く分からないので俺はどうしようもないのだ。

 魔法や超能力が使えないとあれば魔法・超能力教育で実技ができないのでこの教科の単位を落としそうなのである。こういう特例は他にみられなかったようで学校側も対処できないらしい。

 というわけで俺にとってこの平常点は非常に大きいものなのである。だが問題なのはどうやって魔法や超能力を使えない俺が魔法特訓の成果をみせるかなんだが、俺は白木が言ってた魔法特訓を一度もやっていない。まさに絶望的な状況だが考えるんだ俺!あたりを見回して何か手段はないか探した。

 「!?」

 これなら…この方法ならもしかしたらいけるぞ!!

 「分かりました!!先生見ていてください」

 俺は内面ではニヤッとしながらキリッと白木にむかって宣言した。

 「ほーう、じゃあ見せてもらおうじゃないか。みんな九頭龍の魔法(超能力)お披露目会だ。みんな起立して拍手だ!」

 俺が魔法(超能力)を使えないのを白木は知っているので、白木はクラスのみんなにオーバーに拍手を促がしたのだ。 

 本当にこの先生はひん曲がった性格をしている。だが、逆にこの先生の鼻を明かすチャンスでもあるのだ。

 俺は少し緊張気味になりながらも教卓の前に移動した。

 「それじゃあ、やってもらいましょうか九頭龍君」

 白木がにやにやしながら早くしろとばかりに言葉を放ってきた。

 言われなくてもやってやるよ!!

 すべては俺のタイミングにかかっている。今日の風が強いことを利用すれば…

 数秒間の短い間俺は窓を半分覆っているカーテンを横目で凝視した。

 そしてカーテンが大きく靡いた瞬間…今だ!!

 「ウルトラスーパーソニックウインド!!」

 俺は知っている英単語を適当に即興で言い放った。

 すると開いていた窓から、秋の冷たい風が音をたてて教室の中を走り回った。

 俺の計画通りだ!

 今日学校に来る途中、風が少し強かったを思い出した俺は、一か八かこの教室に強い風が入ってくるのを待ち、強い風が入ってきた瞬間に、いかにも自分が魔法でこの風を出したと思わせるために魔法を唱えるような呪文を適当に言ったわけである。まさに昔の人が言っていた神風が吹いたとはこのことに違いない。

 これで平常点は俺のものだ!

 「あっはっははははははっは!」

 俺は白木から勝利を手にし、高笑いを浮かべたはずだったのだが…


 「痛つつつつ、なんで俺がこんな目に…」

 俺は公園の木に無様に引っ掛かっていた。

 俺の平常点獲得作戦は途中まではうまくいっていたのだが、まさかあの風がクラスの女子のスカートを薙ぎ払っていくことが想定外だった。おかげで俺は先生から大目玉を食い、夏恋の怒りにも触れてしまいvanish bullet (バニッシュ・バレット)の青白い光と共に木の上にぶっ飛ばされたわけだ。

 「くそー!!俺の平常点がー」

 俺の平常点は虚しくも空の彼方へ冷たい風と共に消えていったのであった。

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