第2話 さっそく失恋
私は玄関をのぞいていた顔を引っ込めて、部屋の中で胸を押さえる。
四季くんの顔は見えなかったけど、今、絶対にキスしてたよね……。
もしかして彼女とか? 四季くん、カッコいいから彼女がいてもおかしくないけど……。じゃあ、私には希望ないってこと?
地獄のような気持ちで呆然としていると、しばらくして四季くんが戻って来た。
「ただいま。あれ、オムライス全然進んでないね? どうしたの、具合悪い?」
「えっと……」
私は何て言っていいか分からず、口ごもってしまう。「あの人は彼女?」って聞きたいのに、失恋が確定してしまうことが怖くて聞けない。それに、私に聞く権利があるかも分からないし……。
そんな風に迷っていると、四季くんが何かに気づいたように「ああ」と言った。
「もしかして、さっきの見てた?」
「え、あ、うん。ごめん……」
「大丈夫だよ」
四季くんは「あはは」と困ったように笑った。そして。
「とはいえ、こはちゃんにああいうところを見られるのは、ちょっと恥ずかしいけどね」
そう言ってはにかんだ四季くんの表情を見た瞬間に察した。
あ、失恋したんだ……と。
その後、私はなんとか自分の部屋に帰った。それからの私は全力で四季くんを避け続け……そして、一週間が経過した。
金曜日の放課後。高校入学してからの初めての一週間を終えた私は、机の上に突っ伏した。
「はぁぁぁぁ、悲しすぎるよぉ」
「まだ言ってるの? 失恋から一週間経つんでしょ? いい加減立ち直ったら?」
そう辛辣に言い放つのは、目黒葉月ちゃん。通称、はーちゃん。
席が前後ろで、入学式の時に声をかけてくれてから、仲良くしてもらっている。ショートカットが似合うクールビューティーな子だ。
「だって、好きな人のキスしてるところ見ちゃったんだよ? しかも、それを否定もしないしさ。脈なしすぎるよ……」
四季くんはあの時、あの美人なお姉さんとキスしていたことを否定しなかった。「ちょっと恥ずかしい」と言って、照れるだけだったのだ。
きっと四季くんは、家族みたいに思っている私に、彼女との「そういうところ」を見られたのが恥ずかしかったのだろう。あの恥ずかしそうな、でもどこか満更でもなさそうな顔を見て、全てを察してしまった。
好きな人の近くにいたくて上京したのに、さっそく失恋とは……悲しすぎる。
「そんなにクヨクヨするなら、もういっそのこと気持ちを伝えちゃえば?」
「なんで⁈」
「その方が気持ちの整理がつくかもしれないし、きっと後悔がないよ」
「そうかなぁ……」
「あと、もっと高校生活楽しみなよ。一度しかないんだしさ」
「……それは、その通りだね」
はーちゃんの言う通りだ。せっかく上京してきたのだし、悲しんでばかりではもったいない。
「はーちゃんの言う通り、楽しもう!」
「お、その心意気」
はーちゃんがふっと笑う。その後は、二人で今度遊びに行こうという話になった。
私たちが楽しく会話をしていると、クラスの男子たち数名がこちらに近寄ってきた。
「宮原さんと目黒さん、ちょっといい?」
「うん。どうしたの?」
「これからクラスで親睦会としてカラオケに行くことになったんだけどさ、宮原さんたちは来る?」
彼らの言葉に、すぐはーちゃんが答えた。
「ごめん。私はこの後予定あるから無理そう」
「そっかー。それじゃあ、宮原さんは?」
「えぇっと……」
私がはーちゃんをチラリと見ると、彼女は私の肩を軽く叩いた。
「私のことは気にせず、行ってくればいいんじゃない? せっかくなんだし、楽しんだ方がいいよ」
「……そうだね。じゃあ、行こうかな!」
「オッケー。じゃあ、最寄駅の東口集合な」
「はーい」
悲しみから始まった高校生活だけど、せっかくなら楽しんだもん勝ちだよね。
新しい恋……という気分には、流石にまだなれないけど、新しい友達は出来るかもしれないし。
よし。親睦会のカラオケ、全力で楽しもう!
……そう思ったんだけど。
「それでさ、宮原さんは音楽だと何が好き⁈」
「えーと、流行りの曲とかを……」
「俺はやっぱり洋楽が好きでさ、J-pop好きとかありきたりすぎじゃない? 人とはちょっと違うものがいいというかさ」
「あ、あはは……」
カラオケ開始から一時間、私は部屋の隅っこで図体の大きい男子に絡まれ続けていた。
せっかくの親睦会なのに、彼以外と話ができなくて困っている。それに彼が壁になっているから私の姿が他の子からは見えないようで、誰も助けてくれない。
彼の話す内容も正直よく分からないし、困っている。非常に困っている。
ちょっと申し訳ないけど、一旦この場を抜けるしかないか……。
私は話の途切れで「ごめんね。ちょっとお手洗い行ってくるね」と言って、彼の元から逃げ出した。
トイレに入って、「ふぅ」と息を吐く。この後はカラオケルームに戻って、別の女の子のところに混ぜてもらえばいいかな。
そう思ってトイレから出たんだけど、なんとトイレの目の前でその男子が待っていた。
「あ、宮原さん遅かったね!」
「え、いや……」
私は恐怖で後ずさるが、彼はそんなことに気づいていないようで、ずいっと私に近づいてきた。
「ねぇ。もしよかったらさ、このまま二人で抜け出しちゃわない? 宮原さんの荷物も持ってきたよ」
「え? でもお金とか払わないとだし……」
「そんなの明日払えばいいんだよ! ほら、行こうよ!」
どうしよう。話が通じない……。私が困っていると、彼は突然私の腕を掴んできた。
「え、ちょっと」
「宮原さんのこと可愛いなって思ってたし、もっと話したいんだ。いいよね?!」
「や、やめて……」
「ほら、行こうよ!」
私は全力で対抗するが、ガタイのいい彼に力で叶うわけもなく、徐々に彼の進む方向に引っ張られてしまう。
どうしよう。大きな声を出した方がいい? 店員さんを呼ぶ? 誰か、誰か……
四季くん………っ!
「小春」
その時、後ろからふわりと私の肩を抱く腕が伸びてきた。




