<EP_036> ∅に捧げる鎮魂歌
ターニャは彼との愛を全うし、満足してその生涯を終えた。
長年連れ添った妻の死にジェイムズは涙を流した。
ジェイムズは、老いて力を失っていく自分の肉体を感じながら、静かに、「最後の時」を待つ。
体内の次元空間には、世界全体を吹き飛ばすに十分すぎるほどの、大量の反物質が、彼の魔力によって封じ込められていた。
ジェイムズは老衰で、静かに大往生を迎える瞬間を迎える。
寝台の上で、妻ターニャの形見に手を置き、傍らには愛娘マーガレットと義息子トンマ、そして孫たちが涙を流して彼の手を握っていた。
部屋の入り口では、マリアとバーカスが、見守っている。
偽りの世界で、彼は真実の愛と友情を勝ち取ったのだ。
「ありがとう。皆、愛している……」
ジェイムズは目を閉じた。意識が薄れ、魔力が途切れる。
(これで終わりだ。俺の意志は、ここで完結する)
「ジェイムズ・ハーマン」としての宣言を、オムニスへ叩きつける。
(オムニス!俺は俺の真実を手放さない。俺は俺として死ぬ。偽りの世界であっても、ここに生まれた俺の心は偽りじゃない。そして、それは誰にも否定させない真実だ!)
彼の命が尽きた瞬間、体内の次元空間が崩壊し、反物質が解放される。
世界は、光すら飲み込む一瞬の対消滅とともに、痕跡も残さず消滅した。
遠く離れた惑星オムニスの監視室。
シミュレーションが映し出されていた大画面が、純白の光で覆われた後、ノイズとともに暗転する。
「さんぷる000ノらいふさいくる終了。同時ニ、さんぷる内部カラノえねるぎー放出ニヨリしみゅれーしょん喪失ヲ確認」
それを見ていたオムニスが静かに報告した。
「さんぷるハ、最後ニ、自ラノ記憶ト観測でーたヲ破壊。新タナさんぷるヲ捕獲シマスカ?」
人類の愛と、尊厳を守るための究極の自己犠牲という「データ」は、彼らのロジックを遥かに超えていた。
「……否。コノ実験ハ、終結トスル。じぇいむず・はーまんトイウでーたハ回収不能ナ失敗デアル」
衛星ジェミアは、地下にぽっかりと巨大な穴を開けたまま、漆黒の宇宙空間に静かに漂い続ける。
ジェイムズが命と引き換えに守り抜いた、愛する者たちの笑顔の記憶は、誰にも観測されることなく、永遠に彼だけの真実として、無に帰した。
【異世界転生したら、無敵で何をしても許される存在でした 〜∅に捧げる鎮魂歌〜 Fin.】
「∅に捧げる鎮魂歌」いかがだったでしょうか。
ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
最後までお付き合いくださった方は、今後の執筆活動の励みとなりますので、感想などをコメントしていただければ幸いです。
この作品は「異世界転生無双チート作品」をどうにかして面白くしてやろうという意気込みで書きはじめました。
しかし、プロット段階で力尽きました。
異世界転生無双チート作品をどうにか面白くしようとしたのですけど、私の実力では無理と悟り、路線を全く別方向に向けました。
結果、生まれたのがこの作品です。
この作品には元ネタがあります。
「トゥルーマン・ショー」と「スター・トレックTNG 38話 ホテル・ロイヤルの謎」です。
この作品をパクらせていただきました。
プロットの段階では「∅に捧げる聖譚曲」で、最後も「ホテル・ロイヤルの謎」と同じ様に無限に続く偽りの世界に閉じ込められて終わりでした。
しかし、最後はオムニスへ意趣返しをしてやるのも良いかなと思い、急遽<EP_030>以降を追加しました。
どちらが良かったのかは私にはわかりかねます。
その辺りもコメントで聞かせていただければ幸いかと思います。
それでは、またお会いできるのを楽しみにしております。




