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<EP_010>

グノーカス王に名前を名乗るとジェイムズは近くの近衛兵へ走りよって、腰に刺した剣を奪うと自らの首に突き刺した。

ジェイムズの意識がブラックアウトし、目を覚ますと、同じ様に目の前にはグノーカス王がいた。

(俺には死ぬ自由すら無いってことか……)

ジェイムズは、この偽りの世界で生き続けるしかできないことを悟った。


再び、グノーカス王に「ジェイムズ・ハーマン」と名乗り、ジェイムズの物語が始まった。

最初の旅路は前回をなぞった。


グノーカス国を追放され、森でターニャと出会った。

森を抜けるとボケータ国へと向かい、アリスとの出会いをキャンセルした。

ジェイムズは今回の旅では極力調律のスキルを使わないようにしたかったのだ。

ボケータ国に入るとコズミックベアーの肉を売り多少の現金を手に入れ安い宿をとった。

翌日に街を襲ってきたドラゴンは街の外へ誘導してから倒した。

竜殺しの式典が行われ、そこで初めてアリスと再会した。

アリスは美しく気高い王女としてジェイムズを迎えてくれた。

式典の途中でアホモスが現れ、アリスが拐われた。

そこでバーカスとマリアと出会うことになった。

前回の人生で、マリアを奪い、バーカスの命を間接的に奪ったジェイムズは、この二度目の出会いを何よりも大切にした。

彼は「調律」を使わず、誠実な友情をマリアとバーカスに捧げた。

アホモス討伐の任務を終えた後、アリス王女はジェイムズへの深い感謝と恋心を抱いたが、ジェイムズは丁重に、しかし明確に、その気持ちを断った。

「あなたは王女として、この国に必要な方だ」

アリスは涙を流したが、その別れは清く、彼女は王女としての役割に戻った。

ジェイムズは、王宮の誘いを全て断り、ターニャとともに王都郊外で小さな土地を借りた。

ターニャは、英雄としての彼を純粋に愛し、その傍で暮らすことを望んだ。

ジェイムズは、その「強い者が好き」というターニャの原始的な愛の根源を尊重し、彼女を受け入れ夫婦となった。

彼は「調律」を極力封印し、自らの手で木を切り出し、ログハウスを建てた。 ボーン・サーヴァントに頼らず、畑を耕し、生活の全てを自らの汗と努力で築き上げた。

システムによって与えられた人間離れした身体能力ではあったものの、自身の行動で得た充実感こそが、ジェイムズにとっての「真実の記憶」となった。

野を駆って狩猟をし、畑を耕し、ターニャとの愛を育む。

それがなによりもジェイムズの生きている実感であった。

バーカスとマリアも互いの愛を再確認し、二人は結ばれた。

(なんだ、俺が何もしなくても二人は結ばれたんじゃないか)

二人の結婚式に参加しながら、二人の幸せそうな顔にジェイムズは安堵した。

そして、ジェイムズとターニャの間に娘が生まれた。

ジェイムズは彼女にマーガレットと名付けた。

マーガレットが生まれた頃、バーカスとマリアの間にも息子トンマが誕生した。

その後の数十年間、ジェイムズは家庭人として最高の人生を送った。

彼は昼間は娘マーガレットを抱き、ターニャと笑い合いながら質素な生活を送った。

夜、家族が寝静まると、ジェイムズはかつて魔王城があったところに飛び、地面を掘ってマグマ溜まりを見つけると反物質爆弾を生成していった。

作った反物質爆弾は次元空間(ディメンジョンエリア)の魔法により作った自身の体内に少しずつ溜め込み続けた。

マーガレットとトンマは幼馴染として共に育ち、やがて恋に落ちた。

ジェイムズは、娘マーガレットと親友の息子トンマが結婚する姿を見て、過去の過ちが完全に清算されたことを知った。

孫たちが生まれ、父バーカスから近衛団長を引き継いだトンマと救国の英雄ジェイムズの娘との間の子供は国中から祝福された。

重臣と結婚し、ボケータ王から王位を引き継いだアリスも女王として孫たちを祝福してくれた。

そして、時は経った。

ターニャは彼との愛を全うし、満足してその生涯を終えた。

長年連れ添った妻の死にジェイムズは涙を流した。

ジェイムズは、老いて力を失っていく自分の肉体を感じながら、静かに、「最後の時」を待った。

体内の次元空間には、シミュレーション空間全体を吹き飛ばすに十分すぎるほどの、大量の反物質が、彼の魔力によって封じ込められていた。


そして、ジェイムズは老衰で、静かに大往生を迎える瞬間を迎えた。

彼は寝台の上で、妻ターニャの形見に手を置き、傍らには娘マーガレットと息子トンマ、そして愛する孫たちが涙を流して彼の手を握っていた。

部屋の入り口では、マリアとバーカスが、かつての英雄の最期を見届けている。

偽りの世界で、彼は真実の愛と友情を勝ち取った。

「ありがとう。皆、愛している……」

ジェイムズは目を閉じた。意識が薄れていく。魔力が途切れる。

(これで終わりだ。俺の意志は、ここで完結する)

彼は心の中で、最後の、「ジェイムズ・ハーマン」としての宣言を、オムニスへ叩きつけた。

(オムニス!俺は俺の真実を手放さない。俺は俺として死ぬ。偽りの世界であっても、ここに生まれた俺の心は偽りじゃない。そして、それは誰にも否定させない真実だ!)

彼の命が尽きた瞬間、体内の次元空間が崩壊し、反物質が解放された。

ジェイムズが愛したその場所、そして世界全体は、光すら飲み込む一瞬の対消滅とともに、痕跡も残さず消滅した。


遠く離れた惑星オムニスの監視室。

シミュレーションが映し出されていた大画面が、純白の光で覆われた後、ノイズとともに暗転した。

「さんぷる000ノらいふさいくる終了。同時ニ、さんぷる内部カラノえねるぎー放出ニヨリしみゅれーしょん喪失ヲ確認」

それを見ていたオムニスが静かに報告した。

「サンプルは、人生の最後に、自らの記憶と観測データを破壊しました。新たなサンプルを捕獲しますか?」

オムニスは沈黙した。人類の愛と、尊厳を守るための究極の自己犠牲という「データ」は、彼らのロジックを遥かに超えていた。

「……否。この実験は、終結とする。ジェイムズ・ハーマンというデータは、回収不能な失敗である」

衛星ジェミアは、地下にぽっかりと巨大な穴を開けたまま、漆黒の宇宙空間に静かに漂い続けた。ジェイムズが命と引き換えに守り抜いた、愛する者たちの笑顔の記憶は、誰にも観測されることなく、永遠に彼だけの真実として、無に帰した。

「∅に捧げる鎮魂歌」いかがだったでしょうか。

ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。

最後までお付き合いくださった方は、今後の執筆活動の励みとなりますので、感想などをコメントしていただければ幸いです。


この作品は「異世界転生無双チート作品」をどうにかして面白くしてやろうという意気込みで書きはじめました。

しかし、プロット段階で力尽きました。

異世界転生無双チート作品をどうにか面白くしようとしたのですけど、私の実力では無理と悟り、路線を全く別方向に向けました。

結果、生まれたのがこの作品です。

この作品には元ネタがあります。

「トゥルーマン・ショー」と「スター・トレックTNG 38話 ホテル・ロイヤルの謎」です。

この作品をパクらせていただきました。

プロットの段階では「∅に捧げる聖譚曲」で、最後も「ホテル・ロイヤルの謎」と同じ様に無限に続く偽りの世界に閉じ込められて終わりでした。

しかし、最後はオムニスへ意趣返しをしてやるのも良いかなと思い、急遽<EP_010>を追加しました。

どちらが良かったのかは私にはわかりかねます。

その辺りもコメントで聞かせていただければ幸いかと思います。

それでは、またお会いできるのを楽しみにしております。

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