<EP_009> 世界の果て
ジェイムズは元魔王城の荒野へとたどり着く。
数日前に流したマグマが表面上は冷え、割れた隙間から赤い火が見えている、まるで地獄のような光景であった。
(同じ石を変えるなら高エネルギー状態のほうが生成される量は多いだろうしな)
マグマの地表へと逆さまにダイブしていく。
「黄金錬成」
地表に手が付いた瞬間に魔法を発動させると、ジェイムズを中心に周囲のマグマが黄金へと変化し、またたく間に周囲が黄金の大地へと変わっていく。
「これだけあると、ありがたみも何も無いな」
ジェイムズは黄金の大地を眺めて呟くと、服のボタンを引きちぎり、更に握りつぶして細かく砕いた。
「極大消滅破」
米粒ほどのボタンの欠片に魔法で創り出した小型ブラックホールを閉じ込め、黄金の大地に落として、上空へと舞い上がる。
十分な高度を取ると欠片に閉じ込めた魔法を解除した。
異音を放ちながら小さなボタンの欠片に周囲の黄金が落ちていく。
欠片に落ちた黄金は原子核を崩壊させ、飛び出した陽子と電子がプラズマ化しモノポールを形成する。
ジェイムズは魔法を解除して再び黄金の大地へと降り立つ。
地面は抉れ巨大なクレーターが形成されており、周囲には黄金が少し残っているだけだ。
クレーターの中心には、手のひらに乗る程度の小さなザイリチウムの白い結晶だけが残っていた。
ジェイムズはその大きさに満足して、拾い上げると周囲の残った金塊へと飛んでいく。
「物質変化」
一部をソフトボール大の円環へと変化させると、中央にザイリチウム結晶を置く。
そのまま浮遊魔法をかけて空中へと浮かせた。
次に、近くの土を摘むと、その中の一粒に極大消滅破の魔法を閉じこめ、ザイリチウム結晶の上に置く。
再び金の円環を作りだし、円環をソフトボール大の球体のように組み合わせていく。
円環で球状の物体が作られると、円環に高速移動の魔法をかけて回転させていく。
全ての円環に魔法をかけていき、限界まで加速させると円環が光り輝きはじめた瞬間に、土の一粒にかけておいた魔法を解放する。
一瞬、円環が強烈な光を放ったかと思うと円環内部には漆黒となり、円環を引き込もうと蠢く。
(頼む。少しだけ保ってくれ)
ジェイムズが祈るように見つめていると円環にヒビが入っていく。
「空間凍結」
円環が壊れる瞬間にジェイムズは円環内部を空間凍結で閉じ込めた。
野球ボール大の大きさの透明な球体が生まれる。
この中には反陽子と半電子で満たされており、内部で反水素が生成されているはずだった。
「これで……全てを終わらせる」
ジェイムズはそう呟くと、球体を大事そうに抱え、元グノーカス城跡地に作った大穴へと飛び立った。
大穴の上に到達すると、ジェイムズは、一瞬、自宅のある方向を見てしまう。
今頃はアリスがサイとサリスを連れて戻ってきているだろう。
サイとサリスを囲む、三人の笑顔が思い浮かんだ。
想像を振り切るように強く目をつぶり、穴の底へと目を向けた。
手の中の球体をそっと離した。
透明な球体が穴の底へと落ちていく。
球体が穴の入口を通過すると、ジェイムズは自宅に背を向けるように地面に降り立って穴の入口を空間凍結の魔法で塞ぐ。
次の瞬間、地響きが起こり、穴に光の柱が立った。
超硬チタン合金の底に反水素を詰めた透明な球体が触れ、割れたのだ。
光の柱が消えると空間凍結を解き、竜巻の魔法で溜まっていたガンマ線を超上空へと飛ばす。
しばらく竜巻を起こした後、穴の底へと降りていった。
穴の底へと降り立つと、超硬チタン合金の壁には穴が空いていた。
「さあ、この先には何がある……」
ジェイムズは穴の先へと進んでいった。
「なんだ、ここは!?」
通り抜けた先で、超硬チタン合金の上に降り立つ。
今までと逆さまに立つことになるのだが、そんなことは些細なことだった。
見上げたジェイムズの目には光が格子状に走っている空が広がっていた。
「まるで、ホログラムデッキじゃないか……」
ジェイムズは、そんな感想を抱く。
遠くに小さな白い柱が天井に向かって伸びているのが見えた。
(あれが、世界の終点……)
ジェイムズは柱へと歩き出した。
柱は半透明のチューブのように天井に向かって伸びている。
ジェイムズがチューブに触るとチューブの一角が開き、チューブの内部が光った。
ジェイムズがチューブに入ると、チューブが閉まり、床が上昇していく。
チューブ内から下を見ると大きなキューブが見える。
(これが、俺が生きていた世界……)
世界が作り物であったことに改めて驚くとともに、ジェイムズは天井を見上げた。
天井を突き抜け上昇が止まると、再びチューブの一角が開き、目の前に銀色に鈍く光るハッチ。
(ここが終点。そして、この先には何があるんだ)
ハッチに触れるとシュッと微かな音をたてて開いた。
「な、なんだここは!」
そこは漆黒の闇が広がる荒野であった。
ハッチの外に出たジェイムズは周りを見渡すも、漆黒の闇と荒野が広がるだけである。
ジェイムズが天を仰ぐと、巨大な水の星が見える。
巨大な惑星を見た瞬間、フラッシュバックが起こった。
点滅する非常灯が照らす薄暗いブリッジでジェイムズは目を覚ます。
首を回して見渡すと、ブリッジ内にはいたるところに火花が飛びかっており、ブリッジ内には鉄の臭いと硝煙、ゴムの焼ける臭いが充満していた。
メチャメチャになった操縦コンソール付近にはデスタ少佐、ヴォーグ中佐が倒れており、その全身は焼けただれていた。
隣にはラフォーン中尉が倒れており、首にコンソールから飛んだ破片が突き刺さっていた。
艦長席に座っているリカルドは微動だにしていなかったが、良くみるとリカルドには首が無く、リカルドの首は目の前に転がっていた。
ジェイムズが凄惨な状況に顔を引き攣らせていると、3つの光る球がブリッジ内に現れる。
光球は、会話するかのように集まる。
光球の一つがジェイムズに気づいたように近づいてくると、光球は二足歩行の人型へと変化した。
光の人間の手が伸びてきたところでジェイムズの意識は再びブラックアウトした。
フラッシュバックが収まり、ジェイムズは再び見知らぬ惑星を見つめる。
「そうか、全てを思い出した。スター・エンデバーは天の川銀河の中心部に向かって探索を進めていた。その途中でハビタブル・ゾーンに位置する、この惑星を発見して調査のために近づいたんだ。そして、惑星に近づくと見知らぬ機影が接近してきて、俺たちの船は動けなくなったんだ」
近づいてくる謎の機影からビームが発射されると、それまで順調に動いていたスター・エンデバーは動きが取れなくなった。
舵は利かず、エンジンは動いているのに、反対方向の敵機影へと引き込まれていく。
リカルドはエンジンをフルパワーにして脱出しようとするが、ラフォーンやジェイムズがどれだけエンジンの出力を上げようとしても、振り切ることはできなかった。
エンジンは臨界に達し、敵機影の引っ張る力と自分の脱出しようとする力に耐えきれなくなって爆発を起こした。
ブリッジにラフォーンとジェイムズが集まっている時、敵機影からのトラクタービームが強化され、やがてブリッジ内で爆発が起きたのだ。
「そうだ…あの爆発で乗組員は全員死亡。俺だけが生き残ってしまったんだ…しかし、ここはいったいどこなんだ」
頭上に輝く惑星と周囲の荒野を見渡しながら呆然と立ち尽くすジェイムズに背後から声がかけられる。
「ゼロ。全てを思い出してしまったのね」
そこには、アリスがいた。
アリスはいつものように微笑みを浮かべて、じっとジェイムズを見ている。
アリスの身体はほのかに輝いていた。
「アリス……?いや、違う。お前は誰だ!」
アリスの姿をした者はジェイムズの声に眉をハの字に動かした。
「そうか、キミは本当に全てを思い出してしまったんだね。そうだ、私はアリスではない。この姿はキミの選んだアセットの中から選んだ姿だ。私のことはオムニスとでも呼べば良い」
オムニスはそう告げた。その言葉はアリスの声ではあるが、感情が一切感じられなかった。
「……オムニス。ここは何処だ?俺をどうしようというんだ」
「ここは、我々の住む惑星オムニスの衛星ジェミアだ。キミは太陽系から来たストレンジャーだったのだ。そして、我々の住む星を訪ねてくれた」
「そうだ、俺は地球連邦第451師団に所属する、星間探査船スター・エンデバーに乗って、この星の近くに来た。そして、お前達から攻撃を受けたんだ」
「それは誤解だ。我々に攻撃する意図は無かった。我々は宇宙の遠くからの訪問者を歓迎するつもりだったのだ」
「じゃあ、なぜ、俺たちの船を拘束したんだ」
オムニスの静かな声にジェイムズは苛立ちを隠せなかった。
「それは違う。我々はキミたちを我がスターシップに招こうとしただけだ。しかし、キミたちは逃げようとした。それを少し止めるつもりで出力を上げただけに過ぎない。しかし、キミたちの船は我々の予想を遥かに越えて脆く、脱出しようとする力と我々のトラクタービームによって裂けてしまったんだ」
「そ、そんな……」
オムニスの告げる言葉にジェイムズは愕然とした。
「裂けた船体に入ると、我々は幸いにも生き残ったキミを見つけた。そして、生き残ったキミへ楽園を与えることにしたんだ」
「楽園?」
「そうだ。我々は衛星ジェミアの地下に、キミの船にあった、キミの世界を模した作品の世界を模したシミュレーターを作り、キミをそこに住まわせたのだ。そこでは、キミは世界の全てを統べ、何をしても良い神のような存在として振る舞える。そんな世界をキミに提供した」
「なぜ、そんなことを?」
「贖罪だよ。我々は無理解からキミの同胞を殺してしまった。キミたちに続く者が現れた時にキミたちのことを知れるようにということも込めて、キミに楽園を与えたんだ」
「そ、そんな……」
オムニスの言葉はにわかには信じられなかったが、辻褄は合っているように思えた。
「さぁ、キミの楽園はここには無い。楽園にお戻り」
オムニスは手を伸ばし、ジェイムズへと歩み寄ってきた。
「く、来るな……」
ジェイムズは後退りしていくが、何もない空間の壁に当たって進めなくなる。
振り向いて、前に進もうとするも、何もないはずなのに、そこには壁が確かに存在している。
(フォース・シールド……)
次元の裂け目を創り出し、宇宙船のシールドとして張られ、物理法則では突破不可能な最強の壁。
「さぁ…」
オムニスの声が近くに聞こえ、ジェイムズが振り返ると、オムニスは目の前でジェイムズの顔は恐怖に歪む。
「さぁ、ゼロ。私と一緒に楽園に帰りましょう。ここに、あなたの楽園は無いわ」
オムニスはジェイムズの手を取ると、アリスの声で優しく話しかけてくる。
ジェイムズは恐怖に引きつったままの顔で、後ろを振り返り、周辺を見渡すも、そこには漆黒の荒野が広がるばかり。空には巨大な惑星オムニスが浮かんでいた。
「わかった……」
ジェイムズの心を絶望が埋め尽くしていく。
目の前には完璧な微笑みを浮かべたアリス。
アリスはうなだれるジェイムズの手を引き、エレベーターへと戻る。
ジェイムズは虚ろな目で空の惑星オムニスを見上げ、そのままエレベーターへ乗り込んでいった。
狭いエレベーターの中でアリスはジェイムズに腕を絡めてくる。
ジェイムズは虚ろな目でアリスを見続けることしかできなかった。
「ゼロ。ちゃんとサイとサリスの成長を見守りましょうね」
その言葉に、ジェイムズの虚ろな目に、決意の光が戻った。
「オムニス」
ジェイムズの呼びかけに、アリスの顔はオムニスへと戻り、微かに首を傾げた。
「その言葉が、俺には重すぎる。今のままでは、俺は狂って、サイとサリスの成長を見守れない。もう一度、最初からやり直させてくれ」
オムニスは無感情な声で言った。
「リブートは可能だ」
「ただし、条件がある。俺の記憶を消すな。俺がジェイムズ・ハーマンであるという記憶を全て残せ。それがなければ、俺はまた過ちを犯すだろう。そして同じことをするはずだ。だから、貴様らにとって最も効率の良い道だ」
オムニスは数秒間沈黙した。その目は、ジェイムズという複雑な「サンプル」のデータを解析しているようだった。
「承知した。記憶の保持を許可する。メモリーの消去は行わない」
「感謝する」
アリスに連れられ、ジェイムズが開けた穴からキューブの中へと戻っていく。
ジェイムズが穴を通過すると、開けたはずの穴が静かに閉じる。
穴が閉じきった瞬間、ジェイムズの意識はブラックアウトした。
【Tuning Skill Activate.】SYSTEM REBOOT: EXECUTE
DATA_MEM JAMES: PRESERVE
「今度は、楽しみだね」
最後にオムニスのそんな言葉が聞こえた気がした。
周りからのざわめきによりジェイムズは目を覚ます。
「おお、ちゃんと生きていたぞ」
「でも片方はエラく弱そうだな」
「顔色も良くないぞ」
広間の高い場所にいる豪華な服を着た男性が厳かな声でざわめきを鎮める。
「勇者たちよ。良く来られた。ワシはこの地を治めるグノーカス王じゃ。名はなんと申す」
「ジェイムズ・ハーマンと言います」
ジェイムズは静かに答えた。




