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夫人革命逃亡記  作者: 伊阪証
修正してない本編

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38/39

裁判長への記録

荷車は夜明け前に古い料金所へ着いた。街道の脇に石造りの小屋が二つあり、片方は馬の交換所に、もう片方はラファエル隊の臨時倉庫に変えられていた。門の上には王政時代の紋章を削った跡があり、その下に新しい共和国の板が釘で打ち付けられている。兵たちは記録箱と没収品箱を運び込み、橋で捕らえた男たちを別の小屋へ連れていった。

アデルは荷車から降りる時、腰の軽さにまた腹を立てた。薔薇飾りがないだけで、足の運びがあまりにも楽だった。白と金を基調にしたドレスは泥と藍と炭粉を吸って、もはや下半分だけ別の服のように暗くなっている。深紅のコルセットは煤け、胸元の青い宝石の欠落跡は冷えた朝気にさらされ、腰には大きな薔薇飾りがあった場所だけが不自然に空いていた。そこには縫い跡と裂けた布の根元が残り、装飾を外したというより、何かを切除された跡に近い。彼女はその空白へ手を当て、顔をしかめた。

「軽いのが腹立たしいわ。」

レイモンが横で言った。

「歩きやすいだろう。」

「だから腹立たしいと言っていますの。長年の見栄が、実用性に負けた瞬間を身体で理解させられているのよ。これほど屈辱的な教育はありません。」

「橋は残った。」

「ええ。私の薔薇は橋になりました。ずいぶん立派な出世ですわね。」

料金所の倉庫には、ラファエルの補給係がいた。小柄な中年の女で、軍服ではなく灰色の作業着を着ている。髪を布でまとめ、腰には鍵束と裁縫道具を下げていた。彼女はアデルを見るなり、眉をひそめた。

「その服でまだ歩く気ですか。」

アデルは即座に背を伸ばした。

「その服、とはずいぶんな挨拶ね。これは元は非常に高価でしたのよ。」

「元は、でしょう。今は泥、藍、煤、火消しの水、焦げ跡、血の粉、縫い直し糸。布としては重すぎます。逃げるにも歩くにも邪魔です。」

「あなた、初対面の先王夫人に対してずいぶん実用的ね。」

「補給係ですから。」

ラファエルが後ろから言った。

「彼女に着替えを。」

アデルは振り向いた。

「勝手に決めないでくださる?」

「その服は目立つ。破れている。重い。火事場では役に立ちましたが、次に同じことをされると困る。」

「私が何度も薔薇を燃やす女に見えます?」

「見えます。」

「そこは否定して。」

ラファエルは答えず、補給係へ視線を向けた。補給係は倉庫の奥から粗布の外套と、濃い茶色の長い腰布を持ってきた。アデルはそれを見て、露骨に嫌な顔をした。

「色が地味すぎます。」

補給係は無表情に言った。

「逃げる人間用です。」

「私は逃げているのではなく、非常に不本意な形で政治的移動をしています。」

「なら政治的移動用として着てください。」

レイモンが少しだけ顔を背けた。笑ったのかもしれない。アデルはそれを見逃さなかったが、今は補給係の方が問題だった。

「深紅のコルセットは残します。」

「外から見えないなら構いません。」

「白と金のドレスも脱ぎません。」

「上から覆うだけです。」

「腰の薔薇飾りは。」

アデルは女と目を合わせ、小声で「三日前の処刑記録、あの行の印章は誰の許可よ?」と問いかけ、指先で帳簿の特定の行を指す動作をした。

アデルは言いかけて、言葉が止まった。もうない。焦げた欠片だけが布包みにある。補給係はその空いた腰の裂け跡を見て、何も言わずに茶色の腰布を広げた。彼女はアデルの周囲を一周し、破れた根元を隠すように布を巻いた。手際がよかった。宮廷の衣装係ほど優雅ではないが、戦地の裁縫には迷いがない。茶色の布は深紅のコルセットを半分隠し、白と金のドレスの汚れた腰を覆い、薔薇飾りの欠落跡を外から見えなくした。

アデルは自分の姿を見下ろした。白と金の汚れた裾はまだ見える。深紅のコルセットも胸元から少し残る。青い宝石の欠落跡は隠れていない。けれど腰から下に粗布の実用性が入り込み、宮廷の礼装と逃亡者の装いが無理やり縫い合わされたようになった。

「最悪ね。」

補給係は言った。

「歩けます。」

「それが最悪なのよ。」

レイモンが低く言った。

「似合っている。」

アデルは彼を見た。

「今、何と?」

「歩きやすそうだ。」

「似合っていると言いましたわよね。」

「言ったか。」

「言いました。処刑記録より正確に覚えています。」

彼はアデルを見つめ、無言で頷いた。

料金所の奥では、捕らえた男たちの尋問が始まっていた。怒鳴り声はない。ラファエルの尋問は静かだった。扉の向こうから、短い質問と、長い沈黙と、時々椅子が床を擦る音が聞こえる。アデルは温い水を受け取り、手袋の焦げた端を見ながら言った。

「あなたの尋問は退屈そうね。」

ラファエルは帳簿に目を落としたまま答えた。

「娯楽ではありません。」

「それはそうでしょうけれど、悲鳴一つないと進んでいるのか分かりにくいわ。」

「悲鳴は情報の質を下げる。」

「本当に嫌なほど合理的。」

「一人は監察官の手の者でした。もう一人は金で雇われた町の運び屋。橋下で火をつけた三人目は逃走中。命令書はありません。口頭指示です」

レイモンが聞いた。

「監察官の名を出したのか?」

「直接は出していない。だが、役所裏の印刷所から油を受け取ったと言っている。告示を刷った場所と同じです」

アデルは水を一口飲んだ。

「紙を刷り、火を配る。忙しい紙魚ね。」

ラファエルはわずかに頷いた。

「監察官は今朝までにロベルトへ急使を出した可能性が高い。こちらも記録を送る必要がある」

「どこへ?」

「軍務局と、中央の裁判長へ。」

レイモンの手が止まった。

「裁判長。」

「あなたがかつて理論で勝った相手です。」

ラファエルは平然と答えた。

「彼はあなたに良い感情を持っていないでしょう。だが、ロベルトの処刑が裁判を空洞化させていることも分かるはずです。裁判長が動かなければ、処刑は裁判を食い潰す」

アデルは茶色の腰布を指でつまんだ。

「つまり、嫌われている相手に助けを求めるのね。」

「助けではありません。利害の提示です。」

「あなた、人生で一度くらい“お願い”と言ったことあります?」

「必要なら言います。」

「今、試しに。」

「不要です。」

「つまらない男。」

レイモンは裁判長という言葉から目を離せずにいた。かつての裁判。処刑人と王族の格差。理論で勝った記憶。勝ったからこそ残った火種。今度はロベルトの処刑を問うために、その裁判長へ記録を送る。過去が、別の形で戻ってきている。

「俺の名を使うのか?」

レイモンが聞いた。

ラファエルは答える。

「使います。」

「許可を求める気はないのか?」

「あなたはすでに広場で、法廷で話すと言った。」

「罠だったのか?」

「半分は。」

ラファエルは隠さない。

「もう半分は、あなた自身の選択です。処刑台ではなく法廷を選んだ。その言葉は使える」

レイモンの顔が険しくなった。アデルは横から口を挟んだ。

「使われることと、自分で使うことは違いますわ。」

レイモンが彼女を見る。

「何が違う?」

「手綱の持ち手。ラファエル様に全部任せれば武器にされる。自分で条件を出せば、交渉材料になる。どうせ名前を使われるなら、使用料を取りなさい。」

「使用料?」

「ええ。裁判長へ送る文に、あなたの条件を入れさせる。処刑記録の全面開示、素人執行の停止、処刑器具の点検、処刑許可印の再確認、そしてロベルト派監察官による処刑数報告の停止。全部は通らないでしょうけれど、最初から安く売る必要はありません。」

ラファエルはアデルを見た。

「あなたは交渉が好きですね。」

「好きではありません。安売りが嫌いなだけです。」

「条件としては妥当です。」

「ほほ、レイモン。冷たい男のお墨付きよ。」

レイモンは深く息を吐いた。

「俺は政治家ではない。」

「知っています。だから条件は政治家に書かせればいい。あなたは、何を許せないかだけ決めなさい。」

「何を許せないか?」

「ええ。全部許せないのは分かります。でも全部を一度に殴ると手が砕けます。まず何を止めるか。」

レイモンは黙った。料金所の外では馬が鼻を鳴らし、兵が記録箱を別便に載せ替えている。補給係が縫い物の道具を片付け、橋で焦げたアデルの手袋を見て、無言で替えの布手袋を差し出した。アデルは少し驚いた。

「いただけるの?」

「焦げた手袋で台帳を触られると、紙が汚れます。」

「この軍、親切の言い方が全員ひどいわ。」

アデルはそれをはめた。

レイモンはやがて言った。

「素人執行を止める。」

ラファエルが顔を上げる。

「第一条件として?」

「ああ。裁判記録の不備も、処刑数の水増しも、全部問題だ。だが、素人が刃を落とせば、今日の農夫のようなことがまた起きる。罪を問う前に、殺し方で壊れる。」

アデルは黙って聞いた。彼らしい。裁判制度全体より先に、首を落とす瞬間の苦痛を見る。処刑人としての限界であり、処刑人だからこそ届く場所だった。

「それだけでは弱い。」

「素人執行の停止には、正規執行人の名簿と器具点検記録が必要になる。そこから処刑許可印と裁判記録へ繋げられる。条件の入口としては良い。」

アデルは頷いた。

「入口は処刑器具。奥へ入れば裁判記録。さらに奥へ入ればロベルトの数。悪くないわね。」

レイモンは二人を見た。

「俺の話を、物の配置みたいに扱うな。」

アデルは少しだけ声を落とした。

「扱います。そうしないと、あなたが自分の首に巻くから。」

彼は黙った。怒らなかった。怒る力を別の場所へ使うと決めた顔だった。

昼前、裁判長宛ての書状が用意された。ラファエルの文は冷たく正確だった。処刑記録の不備、没収品台帳との矛盾、素人執行による失敗寸前の事例、ロベルト派監察官による処刑数圧力、そしてレイモン・サンソンが法廷で証言する意思を示したこと。そこへアデルが横から口を出し、言い回しをいくつか直させた。

「“証言する意思”では弱いわ。“処刑台ではなく法廷で話すと明言した”にしなさい。重要なのは場所です。処刑台ではなく法廷。ここをぼかすと、監察官に処刑場での見世物へ変えられます。」

「有効です。」

「褒め言葉がまた乾いています。」

「紙みたいな男。」

「ありがとうございます。」

「褒めていません。」

「知っています。」

レイモンが横で疲れた顔をした。

「似てきたな。」

アデルとラファエルが同時に彼を見る。

「どこが?」

二人の声が重なった。レイモンはそれ以上何も言わなかった。アデルは非常に不愉快だった。ラファエルと似ているなど、薔薇飾りを燃やしたことより少しだけ傷つく。けれど、同時に少し面白くもあった。嫌な男と意見が合う。嫌な男の文章を直す。嫌な男がそれを使う。死刑台から降りた後の人生は、本当に節操がない。

書状は二通作られた。一通は軍務局へ。一通は裁判長へ。写しはラファエルが持つ。別便で出すため、兵が二人ずつ選ばれた。アデルは封蝋を見て、ふと思いついた。

「私の印も入れましょう。」

「あなたの?」

「青い宝石は失いましたけれど、台座はあります。そこに残った留め具の形を封蝋へ押せます。先王夫人の正式印ではない。でも、私が見たという証にはなる。嫌がらせとしても上等ですわ。」

レイモンが言う。

「危険だ。」

「もう危険です。」

ラファエルは少しだけ目を細めた。

「あなたの名がさらに前に出ます。」

「すでに監察官の告示で出ました。なら、勝手に使われるより、自分で使う方がましです。」

ラファエルは封蝋を温めさせた。アデルは胸元の青い宝石の欠落跡へ指を触れた。そこには宝石はない。金具だけが残っている。修道女の一針で布に留められた、空っぽの台座。彼女はそれを外すのではなく、布越しに角度を合わせ、柔らかい封蝋へ押した。完全な紋章ではない。欠けた楕円と小さな爪の跡だけが残った。だが、その不完全な痕跡は、今のアデルには妙に似合っていた。

「ひどい印。」

彼女は言った。

「識別はできます。」

「あなたの評価、毎回生きるのに最低限ね。」

「十分です。」

レイモンは封蝋の欠けた跡を見ていた。

「いいのか?」

「何が?」

「それを使って?」

「失った宝石の跡まで使えるなら、損失も少しは回収できますわ。」

「そうか。」

「ええ。私、損をしたまま黙るのが嫌いなの。」

レイモンは少しだけ頷いた。それは、彼女らしいと認める頷きだった。

書状が出されると、料金所の空気が少し変わった。証拠を守るだけの一行から、法廷へ火種を投げた一行になった。監察官はそれを止めようとするだろう。ロベルトは、レイモンの名とアデルの欠けた印を見てどう動くか。裁判長は、かつて理論で負けた処刑人の言葉をどう受け取るか。誰も分からない。分からないものが増えると、道は危険になる。だが、アデルはなぜか少しだけ胸が軽かった。

補給係が夕方まで休めと言い、粗末な寝台代わりに麻袋を積んだ場所を示した。アデルはそこへ腰を下ろし、茶色の腰布を少し整えた。薔薇飾りのない腰は、まだ落ち着かない。青い宝石のない胸元も、まだ落ち着かない。けれど、その欠けた台座は書状の封蝋に跡を残した。焦げた薔薇は橋を守った。失ったものが、ただ失われただけではなくなっていく。

「ねえ、レイモン。」

「何だ?」

「私、かなりひどい姿でしょう?」

彼は少しだけ彼女を見た。泥の白金、煤けた深紅、粗布の腰布、薔薇のない腰、青い宝石の欠落跡、新しい灰色の手袋。しばらく見てから、答えた。

「まだ立っている。」

アデルは瞬きをした。

「姿の話をしたのよ。」

「分かっている。」

「それで、その答え?」

「ああ。」

彼は真面目だった。あまりに真面目だったので、アデルは少し笑った。見た目の評価としては最低かもしれない。だが、今の彼女に返す言葉としては、妙に悪くなかった。

「なら、まだ勝ちですわね。」

「そうだな。」

今回は彼も否定しなかった。アデルは麻袋に背を預け、少しだけ目を閉じた。外では馬が動き、書状を持った兵が別々の道へ出ていく音がした。ロベルトへ届く前に、裁判長へ。監察官の告示より先に、こちらの記録を。処刑台から法廷へ。刃から紙へ。血から署名へ。

面倒な続きは、ますます面倒になっていた。

アデルはその面倒さを思い、ほんの少しだけ口元を緩めた。退屈だけは、本当にしない。

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