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絶望の世界に、光を   作者: しらつゆ
第四章 隣国・ミリステッド国 保護編
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第三十八話 魔術練習③ 炎と水・融合


 

 炎と水。何故この二つだけ覚えやすいのか。

それはアネモスにも分からない。


「もともとある魔力の特性を変えることはできないんだけどね」


「え……?変えているんじゃないの?」


 炎と水も属性攻撃で、特性があって……


「変えてはいないんだよね。簡単に言うと付け足しているというか……なんというか……」


 身振り手振りでなんとか説明しようとしているが、ジェスチャーだけだと伝わらない。


「自分の魔力に炎属性の力を宿す感じ……うーん……ちょっと説明が難しいんだよな」


 私達が首を傾げると、アネモスは頭を抱えた。


「じゃあさ、炎って何で熱いか分かる?」


 次にルミナが私達に聞いてくる。

 

 いや、だから知らないよぉ……


「はいはい〜!!!!」


 と……

 突然リアがピンと右手を伸ばして叫んだ。


「空気と魔力が反応して熱が起きて……で、その反応と共に光が発生するんでしょ?」


「正解!流石。リアちゃんは炎属性の使い手だもんね」


 ルミナに褒められて自信満々な面持ちで両手を腰に当て決めポーズをするリア。


 私は考えてしまう。

 普通に無詠唱で技を連発しているように見えるけれど、きっと頭の中では、原理を理解した上で計算している。相手の動きを読んでいる。


「リトルは多分相性がいいのは水より炎だと思うんだ。炎属性攻撃は、空気と魔力が合わさって熱と光を生み出すんだけど、リトルが持つのは元々光属性の魔力だから合わさればより強い光と熱で相手を圧倒できると思う」


「空気の流れを感じて……さっきアネモスの魔力とリンクさせたように、今度は空気と魔力を強めに結びつけて擦り合わせる。そうすればきっとできるんじゃないかな?」


 アネモスがいい、ルミナが補足する。


 なるほど……できるかな……?そんなこと。


 普通に空中を飛ぶよりよっぽど高度なことをさせようとしてくる。


 自分の体を見下ろす。

 さっきも上手く自分の魔力を操れなくて空中からかなり大胆に落っこちて怪我をした。

 

 さらにこの結界には何やら制限があったらしく、さっきの怪我はアネモスがいなかったらやばかった。

 

この行為は、やれと言われてやっているのではない。正しく自分自身の「意思」だから治癒力は発動できないのだ。


「ああ、勿論詠唱していいからね。いきなり無詠唱でとは言わないよ」


 どうやってやろうかと悩んでいるとアネモスがいつの間にか手に炎の魔導書を持って立っていた。

 それを受け取って中身を読む。

中はちゃんとした魔導書だ。本の重みもある。

アネモスがきっとさっきの「収納・召喚」魔法で召喚させたのだろう。

 


「ああ……ありがとう」


 全く、何でもありだなと思う。


 私もアネモスと同じぐらいの魔力が欲しかった。

どう考えてもまだまだ魔力が足りない。

少し成長したとはいえ、本気でやり合えるかは微妙なライン。


 だからこそ、練習する。


「身に宿る炎の……」

「ちょっと待って」


 詠唱をしようとしたらアネモスが止めた。

訳が分からず、とりあえず詠唱をやめる。


「何で?」

「いや、あの……君の体には炎の魔力……結晶は宿っていないからさ」


 ああ、そっか。言われてみればそうだ。

 当然のことを突かれて、ちょっと笑いが漏れそうになった。


「でもどうすれば?」

 

「じゃあ、試しにさっきの技を詠唱ありで出してみるよ。よく聞いてて」


「あ……うん」


 私の体は自然と後退る方向へと動く。

アネモスは辺りを確認し――杖を構えた。

 


「身に宿る風の結晶よ!炎の結晶とリンクさせよ!熱を纏い、震わせ、揺るがす我の魔力の結晶は、今『炎』となる時!

 

身に宿る炎の結晶よ!風の中でも消えず燃え盛る、熱光に変えよ!風に乗り、散った炎は広大な土地を燃やし尽くす力となり!『風火散!』」


 


 アネモスの元々持つ風の魔力と炎の魔力。それが混ざり合って橙色の光を纏わせた風となった。

空気中を舞い、あたりの壁に張り巡らされた結界に当たる。膜が熱で揺らめいた。





 しばらくして『風火散』は静かに消える。小さな魔力の光と流れだけが遅れて止まっていたが、それもしばらくして溶けるように消えた。


 数秒の余韻を残し、アネモスは私達に再び近寄り、口を開く。


「という感じで……実は詠唱するとは言っても、少しだけ変えないといけない箇所は当然ある」

 

「それにしても、随分前置きが長いんだね……」


 顎に左の人差し指を当て同じようにアネモスの詠唱を聞き、模擬攻撃を見ていたスケールが小さく苦笑する。


「前置きだけで吹っ飛ばされちゃうよ……」


 ルティアも隣で呆れたような息を漏らす。


 確かにこんなに長いのだったら普通に光属性攻撃を極めた方がいいような気もしなくはない。


「慣れちゃえば詠唱なんかいらないんだよ。さっきはわざとやったけれど当然普段こんな長い詠唱をすることなんか無い」

 

「慣れるまでどのぐらいかかるんだ?」

 

 スケールは問う。


「そうだね、毎日練習すれば二週間ぐらいで使えるようになってくるとは思うよ」


「二週間か……そこそこ長いな……」


 やはり生まれつき持たない魔力……本来なら反発する他属性の魔力とリンクさせるのだから、普通に使うより時間がかかるらしい。



「でもやってれば案外あっという間だよ」


 そういえば……練習を始めてからだいぶ時間が経ったような気がする。

ここにいると正直、自然の光を感じられないからどのぐらい時間が経ったのか分かりづらい。


ただ、ずっと魔力を使っていても楽しんでやっているからなのか酷く疲れているような感覚もしない。




「とりあえず、リトル。さっき私がやってみせたようにやってみてよ。身に宿る『風』……では無くてリトルの場合は『光』それ以外は同じで平気」


「うん!」


 さて、まずはお試しだ。長い詠唱ではあるけれど、最初のうちは面倒臭がらず丁寧にやる。

 上手くなるためには一歩づつ丁寧にこなすのがきっと、一番近道だから。



 少し、アネモスから離れる。


 よし。


 まだ武器は持っていない。

だから武器なしで挑戦する。


「身に宿る光の結晶よ!炎の結晶とリンクさせよ!光を蓄え、更なる熱光を巻き起こし、揺るがす我の魔力の結晶は、今『炎』へと変わる!」



 何故だか、体が燃えるように熱くなったように感じた。魔力の流れを自然と掴み出す。


 目を閉じるとより鮮明に感じられた。

 揺らめく魔力の「結晶」が。


 今までずっとただただ詠唱をして使ってきた魔術は、きっと真の力ではない。


 そうか、これが本当の魔術の力なのか。「結晶」とはこのことだったんだ。


 今更だけれど、ようやく分かった。



「身に宿る炎の結晶よ!光を纏って討ち抜く弾丸となれ!『炎光弾(えんこうだん)』!」



 光の魔力に炎の魔力が混ざり合い、橙を超えた白い光の高温の弾が打ち出される。


 瞬間――結界の壁の一部が溶け落ちる小さな音がした。

すぐに修復されたものの……

まさか……そんなに熱い『ファイアーボール』が?



「リトル……!!すごいじゃない!!今あなたは瞬間的に光の魔力と炎の魔力を融合させて新しい技を得たんだよ。完全に魔力を変えて扱うよりずっと難しいことをしたんだ」


「……………………」


 アネモスの言葉を聞いて、驚きのあまり、私は呆然とアネモスを見つめる。


「え……?」


 少し遅れて変な声が出た。


「私が……そんなことを、できるなんて」


 確かに自分のやったことのはずなのに、にわかに信じられない。


「これができるようになれば、少なくとも炎と水。両方かどちらかの魔力を融合させて新しい技を生み出し、攻撃できる力を得られる……融合できる相性は元々持つ魔力によって違う。光なら炎、氷なら水。炎と水は対立関係なんだけど、何故だか元が水でも炎と融合できたり、逆のことだってできてしまう。そこは……ちょっと私にも分からない」


「でも、リトル。やっぱり君はまだまだ強くなれる。みんなもみせて欲しい。あなた達のことは、成長を見込んで私も教えるの協力するよ!!」


 アネモスは再び、私達に明るい笑顔を見せ、手を伸ばした。


 私は不利なんだ。

だからこそ使える属性を増やしたい。

そして勝ちたい。闇属性という……化け物級の魔術に。



本気で相手になれるだけじゃ足りない。


最終的には……

勝つんだ。

 


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