川の字
「ガロン、大事な話があるんだ」
会議が終わり、家に戻るとすぐにシヴァが切り出した。
「魔王様の命を受けて私とミホはドルトに行く事になった。
人間の動向を探る為の大切な任務だ。残念だがお前を連れて行けない」
家族の輪から外れるのが私ではなく、自分になった事にガロンはショックを受けた。
「え?じいちゃんも行っちゃうの?」
「ああ。その間、ベルガーがお前を預かりたいと申し出てくれた。
今から訓練すれば将来有望な戦士になるだろうと言っていた。
お前と同じくらいの年の子供達もいるから、友達が出来るかもしれないぞ」
それを聞いてもガロンはしょんぼりとうなだれたままだった。
シヴァはガロンに座るように言って、自分と目線の高さを合わせた。
「お前がのぞむなら、里に帰って両親と暮らしてもいい。
長い間会いに行ってないだろう?お前の成長を見たらきっと喜ぶぞ」
ガロンは小さく首を振った。
「俺、ベルガーさんのところに行くよ。
訓練を受けて強くなって、一日も早く一人前の戦士になる。
そしたら、じいちゃんとまた一緒に暮らせるよね?」
(ガロンってば、なんて健気なの。そんな事言ったらシヴァが・・・)
案の定、シヴァはガロンを抱きしめて感慨に耽っていた。
「三日に一度は休みを貰って会いに行くからな。
おまえは平気かもしれんが、私は耐えられそうにない」
私もシヴァの反対からガロンに抱きついた。
「私も一緒に会いに行くからね。お土産にお菓子をいっぱい用意するわ」
「うん。楽しみにしてる」
ガロンは笑って言った。
(あ、これは相当無理してるな)
ついさっきまで一人で家族から離れると思っていた私には、ガロンの気持ちが痛い程わかった。
「ガロン、今日はこのまま一緒に寝てもいい?」
「何?お前ばかりずるいぞ。私も一緒に寝る」
私とシヴァはガロンをはさむ形でガロンの寝床に入った。
ガロンは、狭くて寝苦しいよ、と言いながらも嬉しそうに笑った。
結局私達はその日から任務に赴く日まで、川の字で寝る習慣がついた。
子供はいつか親元から離れて行く。
それがいつどんな形になるか分からない。
だから毎日溢れるくらいの愛情を示そう。
愛されて育った子は、自分を大切にできる。
それは、生きる強さに繋がる。
言葉で。態度で。あなたが大事だと伝えよう。
蓮。
私とお父さんがあなたを大事に思ってた事、伝わってるよね?
あなたが自分を大切にしている事を信じてるわ。