酸いも甘いも
プリン専門店オープンから1週間経った。
シヴァさんによると、プレオープンが功を奏し、日々客足が伸びているらしい。これまでにない新しいスイーツという事で、他のエリアでも話題になってるようだ。
「好きな時にいつでも使いなさい」
と、半額チケットをもらったので、早速エルマーを誘っていく事にした。
「え? 半額で食べられるのか!? やったぁ!」
チケットを見せると、甘い物好きのエルマーは満面の笑みになった。こんなに喜んでもらえると、誘った甲斐がある。
「1日200個限定だから、午前中のうちに食べに行こう」
「ああ。せっかくだから、昼飯も中央エリアで食べようぜ」
「うん。あ、そうだ。エルマー、制服着てもらっていい?」
「いいけど、何で?」
「トラブル予防。聖騎士御用達の店なら安心感あるじゃん」
「ふ〜ん?」
店に行くと、ダンが客に店の利用方法を説明をしているところだった。開店してまもないのに、既に半分の席が埋まっている。
「いらっしゃいませ」
新たな客の気配に振り向いたダンは、蓮とエルマーに気づいて顔を綻ばせた。
「お、レンにエルマー。来てくれたのか」
「うん。忙しそうだね」
「ああ。おかげさまで」
「嫌がらせとか受けてない?」
「今の所は大丈夫だ。それより土産用に売って欲しいって客が多くて、断るのに苦労してるよ」
そう言いながらもダンの声は明るい。毎日が充実しているようだ。
「あら? レン君じゃない。いらっしゃい」
カウンターで忙しそうに接客を担当していたメリッサが、蓮に気づいてパッと笑顔になった。
「こんにちは。友達と食べに来ました」
そう言って半額チケットと代金を出すと、メリッサは速やかに回収し、プリンとスプーンを2つずつ載せてたトレーを差し出した。
「ごゆっくり。食べ終わったら、トレーをあちらに返却お願いします」
案内されたカウンターの端の食器返却口を見ると、丁度食べ終えた先客がトレーを置くところで、それを見たエルマーが目を丸くしている。セルフサービスはこの世界では根付いていないらしい。
少々不満げにトレーを置いた客だったが、カウンター越しに食器を受け取ったロザリンから「ありがとうございます!」と笑顔でお礼を言われると、「美味かった、また来るよ」と笑顔で帰っていった。
空いたテーブルをダンがサッと拭き、「こちらへどうぞ」と蓮に声をかけた後、すぐに入り口へ戻る。
(何だか日本のファストフード店を思い出すなぁ)
懐かしい雰囲気に浸る蓮とは対照的に、エルマーは「斬新な店だな」と感心しながら、プリンを一口食べた。
「ん、うまい。あと3個は余裕で食べれそう」
「流石に食べ過ぎだよ」
「俺は好きだけど、これ一つじゃ弱いかもな。グラードっ子は飽きやすいから」
「そうかもね。だから季節限定メニューも出す予定らしいよ。紅茶味とか」
「へぇ、色んな味があるのか」
そんな事を話しているうちに、あっという間に食べ終わってしまった。
「ちょっと物足りないな。土産に買いたいって気持ちもわかるよ」
「確かに」
トレーを返しにいくと、食器返却口にはメリッサがいた。カウンターにはマチルダがいる。
「あれ? ロザリンさんは?」
「奥よ。丁度交代の時間だったの」
「そうですか。美味しかったです。頑張ってください」
「ええ、ありがとう。ミホ達にもよろしく伝えてね」
メリッサに挨拶した後、カウンターの前を通ると、マチルダも蓮に気づいて笑顔で小さく手を振ってくれた。生憎、ダンは接客中だったので軽く会釈する。
外に出たところで、わざわざダンが見送りに来てくれた。
「2人共、今日は来てくれて、ありがとうな」
「うん。ダンさんも頑張って」
「美味しかったです。また来ますね」
「おう、またな」
たったこれだけのやり取りだったが、明らかに周囲の目が変わった。
聖騎士の制服は鮮やかな空色で、とても目立つ。店に入る時から注目されているのは感じていた。
この店を警戒している人々は、制服姿のエルマーを見て、きっと偵察目的だと思っただろう。
それが純粋にプリンを食べに来ただけでなく、スタッフと親しげに話していたのだから、さぞ驚いたに違いない。
「やっぱりエルマーに制服を着てもらって正解だった」
「そうか? 他のお客さんの反応も良かったし、人気店になる日も近いかもな」
「今度、多めにチケット貰ってくるから、隊の皆に渡してもらっていい?」
「いいけど・・・お前が直接渡せばいいじゃないか。皆、喜ぶと思うぞ」
「う〜ん、まだ隊長には会いたくないんだよね」
「・・・そうか」
エルマーはそれ以上、何も言わないでくれた。
善意から俺に同調して隊長を責める事もせず、かといって隊長の気持ちを代弁する事もせず、完全な中立でいてくれる。それがとても有難い。
それからしばらく散策して、いい匂いする定食屋に入った。
ホクホクの丸ごとジャガイモとカリカリに焼かれた塩漬け肉の相性が抜群で、2人で顔を合わせて頷き合う。
「当たりだな」
「うん。量も多いね」
昼食をとりながら、お互いの仕事や近況について話をする。パーティーでのダミアンの様子や星空市場の話をしたら、エルマーは興味深そうに聞いていた。
「だいぶ、新しい家族に馴染んだみたいだな」
「うん。仲良くやってるよ」
「無理してないか?」
「実はこの間、お母さんに手紙をもらってさ、俺も手紙で本音をぶちまけてスッキリした」
そう言って笑うと、エルマーは安心した顔をした。
「お前が成人してたら、エールを奢ってやったんだがな」
「じゃあ代わりにジュース奢って」
「仕方ないなぁ。俺も制服だし、ジュースで我慢するか」
それから2人でオレンジジュースで乾杯した。
先に一口飲んだエルマーが、キュッと顔を顰める。
飲んでみると思った以上に酸っぱくて少し苦味も感じだ。だけど後口は爽やかで、今の気分に丁度あっている。これはこれで、悪くない。
酸いも甘いも、辛いも苦いも、全部全部、噛み砕いて飲み込めば、全て自分の糧になる。




